夏になる色  
怖い色があった。庭に突然できる、埃っぽいオレンジ色の連なり。引き抜くこと
ができない、影を溜め込む、すべすべした緑のにじむ光沢が庇う湿気。潰れた家と
一緒にさっぱりと消えた。誰も惜しまない。今日、地面に突き刺した夏の色の影の
切れ端で、掘り返してやれるような気もする。においをたどれ。そう手に言い聞か
せるような凝った空気を背負っている、今。石だらけの庭に、裸足でしゃがんでる
懲りない体をもっとずっと折りたたんで、爪の汚れも気にしないでおいて。
夏影
靴についた、指の跡を確かめる。生温い手触りをしている、いま、もたれかかっ
ている木の、樹液をめぐらすことを止めてからの時間が、とても気になる。葉が、
落ちている。まだ、生きた色をした葉の、吹き溜まった壁の上に浮かぶ、にじんだ
雨のしみが、初めてやさしい形に見えた。素足を押し付けた、柔らかな砂礫には、
草も生えていない。風はあるのに。なぜ、ここが行き着いた場所なのだろう。なぜ、
ここに、幸せがあるのだろう。
帰り道
くずれた幹に乗っていた足を裏返して見る。何が確かめられるのだろう。人が歩く
道の残っている山に帰る日。もうじき、ここは空が降りて来て、雲の平らな底に色
をつける枝の動きを見上げることが出来るようになる。石を捜す。埋めた蛇のしる
し。本当に白い大きな石を河原から拾って、そうして。見とがめられて山には入れ
なかったのかもしれない。鳥はまだいる。遠い家が幹の間に挟まれている。あそこ
には、まだ、人はいる。今は日が高く、だから、灯が見えないだけ。それだけだ。
そこには木が、まだ水を流している。風を見送り続けている。

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