花を摘む  
その道には何かが通った気配が残る。日の色が薄く冷たく無遠慮
に落ちつづけ、声は消されている。花は粘つく空気に落ちることも
出来ず、厭な色を次々に見つけ出しては萎れていく。汚れた靴で踏
みつけるのは、礼儀しらずな振る舞いかもしれない。人並みなこと
ができないことには慣れている。でも、おいしい思いをするのは、
自分だけなのに。せめて、この道を通り抜け様と思う。でも、道は
あっさりと声の通る場所へと続き、道の役目を果たしてしまう。ど
こまでも続く道はない。雨さえも暖かい日。
続く雨
鳥のいない空にもなれた。今日は雨で飛ぶものはないんだと髪にまで
降りてきた空に言い聞かせる。できないと言いつづける口の奥の熱を、
ずっと冷ませずにいる。濡れた服をはりつかせた腕に音がしていると、
水気の失せた頬をおしつける。枯れていく店先の花に落ちる匂いに浸か
る靴。この雨に足を投げ出して座り込み、ただ目の前をおおう空の光が
支える枝葉の間に、飛び回る鳥を探そうか。
通学路
 音が押し付ける影のしみ出る道。音はただ影が聞く。からだは震える。
温度差を正確に測る首筋に突然落る萎れた花。匂いは、別の花が肩代わり
をする。ただ夏にいるからと、はびこることができる美しくはない花たち。
肌に、はりつく。誰に何を渡す? 岩からはがされた川には、流れるもの
はいらない。道の下に敷かれた、狂い咲きの木の影に会いたい。

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