窓の曇り  
冷たい檻を空ける。外には冷たい床しかないのに。体を揺らして
獣は歩き出す。窓だらけの部屋。明かりは朝でも、蛍光灯の光が
頼りだ。冷たさをただ運び込む窓。花も見せない。ない花を見せ
ることはできない。欠けた指に餌をつかませる。昨日見た、窓か
ら流れて逃げたていった月の行方を、ぐるぐると思い出そうとし
ている。獣の倒したカップの陰に、髪の絡んだ荒れたうなじに、
飽きずにつもる埃の元は、あの月だったのに。
遠回り
夏の足首に結ぶ雨雲の細い影が引きずる冷めた匂い。高い壁を
揺らし、まだら模様の坂を下る。髪を打つ。膚の上の汗を、どう
することもできなくて立ち止まった十字路に、こびりついて止ん
だ風。手で掴んで、歩いている。意味の無い急ぎ足に道の熱気が
くたりと伏せて、去年の靴を汚していく。
夏の午後
濃く引いた草の匂いの上をかすめて雲が光る。この音はどこから
するんだろう。影の粘りついていた道が、ぱたりと乾く。薄い色の
風が、しんなりたなびく。フェンスの隙間を覆う、花に寄りそう冷
気をはじく、着辛くなった夏服の出す音はどこに消えたんだろう。
この道に、降り続ける光りの匂い。肌からぬぐいおとす。

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