読書の記録(1998年10月)

「誘拐者」 折原 一  1998.10.01 (1995.08.31 東京創元社)

☆☆☆☆

 写真週刊誌に載った1枚のスクープ写真の後ろに偶然写ってしまった一組の中年カップル。これが事件の始まりだった。写された月村道夫とその内縁の妻である小田切葉子は一体何者なのだろうか。20年前に起こった2件の乳児誘拐事件が関係しているのだろうが,具体的にどう結びつくのかが判らない。この結びつきがこの物語の核心になっている。連続して起こる殺人事件,登場人物が様々な形で語る事件に関する事実。

 20年前に起こった事件と,今現在起こっている事件。その繋がりがなかなか判らず少々じれったくなる。「オイオイ,いい加減にせえよ。」と言いたくなるのだが,そう思ってしまうと作者の思う壺か。犯人は誰だったのか,そして3組の夫婦と2人の娘「あすか」と一人の母親の関係が最後に明らかになる。氏の作品の中では比較的スムーズな終わり方だったので,読み終わった時ホッとした。ところでこの作品の舞台が阿佐谷北だったので,病院や屋敷など「あー,あれか。」と思えるところが随所に出てきて妙に懐かしかった。ところで,地名は「阿佐谷」で駅名が「阿佐ヶ谷」だったのは始めて知った。もっともこれはトリックには使われなかったけど。

 

「むかし僕が死んだ家」 東野 圭吾  1998.10.03 (1994.05.25 双葉社) お勧め

☆☆☆☆☆

 7年前に別れた恋人沙也加には子供の頃の記憶が無かった。その記憶を取り戻す為に,主人公は彼女とある謎の家を訪れる。そこに住んでいたと思われる少年の日記。父親が出したと思われる手紙。11時10分で止まっている全ての時計。残されている様々な物からこの家の謎を解いていく。そしてそれにつれて蘇ってくる沙也加の記憶。

 登場人物は二人だけで,ほとんどがこの謎の家の中で進行して行くと言った変った展開。伏線の連続なのだが,意外とあっさりとした感じの結末。だけどタイトルにある「僕」って誰?。主人公,それとも日記を書いた少年?。主人公の事だと思っていたのだが,よくよく考えれば主人公はこの家自体だよね。それだったら,何でこの家を山の中に建てたのだろう。海の見える場所の方がいい様に思えるのだが。ちょっと謎。

 

「霞町物語」 浅田 次郎  1998.10.06 (1998.08.17 講談社)

☆☆☆☆

 短編集と言うより作者の中学高校時代の自叙伝といったところだろうか。もっとも主人公の生い立ち等,実際とはかなり替えてあるのだろう。親子2代続いた写真屋の一人息子として東京のど真ん中で生まれる。学校はかなりの進学校なのだが,その中でも落ちこぼれの部類に属する。友人との学生生活,恋愛(軟派),父と祖父の関係などのエピソードが淡々と語られる。頑固な写真家の祖父や,都電の運転手,祖母にまつわる過去の出来事などの描写はさすがにうまいなと思えるが,こと自分自身の事となると違和感を覚える。

 時代は僕の高校時代より5年ほど前なのだろうが,懐かしく思える面はなくも無いが,あまりにも違いすぎると感じる点が多い。高度成長期のこの頃の5年と言うのは,かなりの変革期だからだろうか。育った場所や家の職業の違いなのだろうか。だけど共通しているのは,今と違って戦争を始めとする昔を引きずっている人達が同居していた時代だったと言う事。それだけに最後の都電の運転手と,それを写真に撮ろうとする祖父の場面や,明治時代そのものといった感じの祖母の場面は活き活きとしていた。しかし「鉄道員」の主人公もそうだが,この写真屋の祖父の様な人物を描くのがうまいなあ。

 

「地下鉄に乗って」 浅田 次郎  1998.10.08 (1994.03.31 徳間書店)

☆☆☆☆

 主人公の小沼真次は普通のサラリーマンだが,父親は巨大企業のオーナーだった。真次の兄は30年前父親に反発して自殺してしまう。真次も又父親に対する反感から母親とともに家を出てしまい,残された三男の圭三が父親の跡継ぎになっている。そんな真次が兄の30年目の命日に,地下鉄の駅からタイムスリップしてしまい兄が自殺した数時間前に来てしまう。何とか兄の自殺を止まらせようとする真次。その後何度か過去を体験する内に,嫌っていた父親の実像を知る様になる。そして恋人のみち子との関係も明らかになって行く。

 浅田次郎さんはSF作家と言う訳では無いのだが,たびたび死んだ人が出てきたりと言った超常現象が出てくる。それが違和感無く読めるのは,その現象があくまでも副次的なものに過ぎず,親子や恋人と言った,人と人との繋がりの暖かさがテーマだからだろう。だけどこの話は,若くして自殺した兄はともかく,いい大人である主人公自身の無知(と言ったら言い過ぎか)やわがままを父親の実像を知る事によって,主人公が理解していくと言う話だ。そこにタイムスリップと言った現象はちょっとどうだろうか。又みち子との関係もあまりにも偶然すぎて白けてしまう部分が目立った。まあ話自体は面白いし,いい話ではあるのだが。だけど複雑に入り組んだ東京の地下鉄を考えると,ある日全く知らない世界に出ても不思議は無いような気がしないでもないよね。銀座線は地下鉄の中でも古いので,ちょっと前までは小説の通り途中で照明が消えたりしていたのだが,今ではすっかり新しい車両になってしまった。こうしてだんだん「モボ.モガ」の世界からは遠くなっていってしまう。

 

「ある閉ざされた雪の山荘で」 東野 圭吾  1998.10.09 (1992.03.05 講談社)

☆☆☆☆

 劇団のオーディションに合格した7名のもとに脚本家から手紙が届く。あるペンションに集合し,雪に閉ざされた山荘と言う前提で役作りをしろとの事である。そして途中で外に出たり,外部との連絡を取ったら,合格は取消だと言う。7名のうち6名は同じ劇団員で,残りの一人が主人公の久我和幸。最初の夜に一人,次の夜にまた一人居なくなり,その人間は殺されたとのメッセージが置かれる。そんな中で犯人を推理していくのだが,血のついた花瓶や死体を捨てたと思われる様な古井戸を見つけるに至って,現実が芝居なのか,本当の殺人事件なのか疑心暗鬼になっていく。

 設定がうまい。吹雪の山荘なんて,そうめったに現実になる訳は無い。とは言うものの登山が趣味の僕は,吹雪の雪山でテントに何日間か閉じ込められた事はある。幸いな事に殺人事件は起こらなかったのだが。やはり日頃の行いがいいからでしょう。まあそれはともかく,舞台設定に納得するとともに,この作品全体に仕掛けられたトリックが見事だ。主人公とそれ以外の登場人物における情景描写の仕方に,「あれっ」と思う場面はあったのだが,そういう事だったのか。結末は「そこまで嘘をつくか」とも思うが,それならいっそのこと,犯行の動機となった○○も嘘だったと言う事にしてしまった方が,後味が良かったのではないか。やりすぎには違いないとは思うのだが。またラストシーンがあまりにも淡白すぎるのではないだろうか。ここまで大仕掛けの復讐劇を考えた犯人の怒りとか,自分達がした事に対する結果への後悔の感情が伝わってこなかった様な気がする。

 

「同級生」 東野 圭吾  1998.10.13 (1993.02.10 詳伝社)

☆☆☆

 高校3年生の宮前由希子は同級生の西原荘一の子供を身ごもったまま交通事故で亡くなってしまう。由希子の死に不審感を抱いた西原は女性教師の御崎が関与していた事を知り,真相を暴く為彼女と対決する。しかしそんな中,御崎は教室で遺体となって発見される。一転,容疑者となってしまった西原。彼と彼の友人である川合や楢崎による推理や様々な噂話,新たに登場する水村緋絽子や警察の捜査によって話は進んでいく。

 この作品の中で事件のトリック自体はあまり意味を持っていない。謎は警察が全て裏で解明してしまう事もあるが,それ以上に解決に至る過程で出てくる登場人物,特に西原の心理描写がうまく描かれているのと,主人公達の行動が活き活きとしているからだろう。高校生らしい,大人達への反発心や仲間との連帯感が話の中心となっている。前半は西原と由希子,後半は緋絽子との関係がキーになっているが,実際の時間軸と逆なのでちょっと唐突な感じがしてしまった。また主人公の西原が高校生にしてはクールすぎるのと,緋絽子の存在がちょっと現実離れしているように思える。一番しっくりくるキャラクターは,どこにでもいそうな楢崎薫だけどね。

 

「倒錯のロンド」 折原 一  1998.10.15 (1989.07.10 講談社)

☆☆

 作家志望の山本安雄は月刊推理新人賞の応募作品として「幻の女」を書き上げる。ワープロを友人の城戸明に依頼したが,彼はあやまって原稿を紛失してしまう。その原稿を拾った永島一郎は「幻の女」の出来に感心し,白鳥翔と言うペンネームを使い自分の作品として応募する。そして「幻の女」は見事受賞し,白鳥翔は有望新人作家としてデビューを果たす。

 「倒錯の死角」もそうだが,主人公がXXXXと言う設定はちょっと反則なのではなかろうか。確かに城戸の殺害現場や,自宅で永島に襲われた場面における,山本の行動の異常さで気が付くべきなのだろうが,何となく納得がいかない。騙された事に対する快感が感じられないのだ。最後にトリックが明かされる部分で「はいはい,あーそうですか。」と言いたくなってしまった。しかし,そこに至るまでのストーリー展開は緊迫感があって充分楽しめた。

 

「変身」 東野 圭吾  1998.10.17 (1991.01.12 講談社)

☆☆

 主人公の成瀬純一はちょっと気の弱い平凡な青年。趣味の美術を通じて知り合った恋人と幸せな生活を送っていた。しかしある日,強盗に頭を拳銃で撃たれ重傷を負ってしまう。そして彼には世界初の脳移植手術が施された。しかし回復した時,以前の自分と何かが違う事に気づく。次第につのる他人への不信感と攻撃性。仲間は彼の周りから去り,恋人も田舎へ帰ってしまう。原因を探る為自分に脳を提供したドナーを探し当てるが,それは何と自分を撃った犯人であった。次第に狂気に向かう主人公,手術の秘密を守り研究を進めようとする医者,初の脳移植の失敗を隠す為に成瀬を抹殺しようとする一味。

 読んでいて恐い話しだなと思った。現在の医療では大概の臓器移植は可能になってきているが,脳はやはり別物だろう。確かに脳だって人間の体を形成する一つの臓器には違いないが,それによって性格が変わり,記憶が失われるのだとしたら,生きる意味において同じとは思えない。生きると言う事を,呼吸をし心臓が動くと捉える医者と,自分の足跡を残す事と捉える主人公の対比が際立っている。少しずつ成瀬純一の部分が消えていき,ドナーである犯人に置き換わって行く過程での主人公の心の動揺が見事に表現されている。覚悟を決めて戻ってきた恋人の前でつかのまの成瀬純一を取り戻す瞬間,悲劇的な結末。何となくやるせない気持ちで読み終えた。

 

「分身」 東野 圭吾  1998.10.20 (1993.09.25 集英社)

☆☆☆☆

 函館で生まれた氏家鞠子は中学生の時,家の火事で母親を失った。自分が両親に全く似ていない事,火事直前の母親の様子,そして火事以後の父親の不審な態度から両親と自分の過去に疑念を抱く。一方東京で育った小林双葉は母一人子一人の二人暮らし。父親が誰なのか教えられていない事や,歌手志望の自分がテレビに出る事を母が極端に嫌う事を不思議に思っていた。ある日双葉は母親との約束を破ってテレビに出演する。その数日後,母は不自然な轢き逃げ事故で死亡してしまう。双葉は轢き逃げ事故の前日に訪ねてきた男に逢う為に北海道へ向かう。また鞠子は父親の過去を知る為,父がかつて通っていた大学関係を調べに上京する。鞠子は下条,双葉は脇坂と言う協力者を得て自分と両親の過去に迫っていく。自分達を襲う何者かの存在,そして二人の少女がそっくり同じ顔をしている事を知る。

 最初は全く関連の無かった二人の少女の場面が交互に提示され,だんだんと一つにまとまっていく。とても面白いストーリー。そして緊迫した展開。自分やまわりの人の過去を調べると言うのはこの手の作品には珍しい事ではないのだろうけど,普通の人の過去を調べるのは大変だろうな。当時親しかった人が既に亡くなっていたり,記憶が薄れていたりで,何度も途切れそうになる手がかりの数々。人工授精やクローンと言った医療関係がテーマで,また有力政治家が絡んでいたりと話がややこしい部分はあるのだが,秘密を守る為に公的機関がそこまでするか,と言う面が無きにしもあらず。これは「変身」と同じ感想。二人の協力者が共に善意からだけでは無く,それぞれの思惑を持っていたと言うのもテーマがテーマだけに仕方が無いか。読んでいて思ったのは,この作品に限らず普通子供は自分の親の過去って以外と知らないと言う事。別に知りたいとも思わないだろうが,もし家の長男Tや長女Mが何らかの必要に迫られて僕の過去を調べようとしたら,うーん多分判るだろうな。知られて困るような事は特に無いけど。

 

「探偵ガリレオ」 東野 圭吾  1998.10.21 (1998.05.30 文藝春秋社)

☆☆

@ 「燃える(もえる)」 ... 静かな住宅街を騒がす若者の頭が突然発火し死亡する。少女が見た赤い糸は何か。
A 「転写る(うつる)」 ... 行方不明の男性のデスマスクが発見された。誰がどうやって何の為に作ったのか。
B 「壊死る(くさる)」 ... 心臓の部分だけが壊死した状況の死体が発見された。どうすればこの様な死に方になるのだろうか。
C 「爆ぜる(はぜる)」 ... 海を泳いでいた女性の近くで突然爆発が起こり彼女は亡くなった。また別の場所で起きた殺人事件との繋がりは。
D 「離脱る(ぬける)」 ... 殺人容疑のアリバイを証明するものは,幽体離脱中の少年が描いた一枚の絵。これが証拠になるのだろうか。

 いずれも警察官敷島とその友人の科学者湯川が謎の事件を解決すると言うストーリー。筋自体はワンパターンだが,事件そのものやトリックでの科学現象,なぞ解きは多彩だ。全ては科学で解き明かされる。直前に読んだ「変身」「分身」も同じく科学と言うか医学がテーマだったが,どちらかと言うと最先端科学技術に対する批判が込められていたのとは対照的だった。

 

「星降り山荘の殺人」 倉知 淳  1998.10.23 (1996.09.05 講談社)

 スターウォッチャー,UFO研究家,女流作家等7人が,コテージの経営者2人に招かれて山の中の山荘に集まる。翌朝,招待者の社長が遺体となって発見される。吹雪きに包まれた山荘から脱出できない8人に襲い掛かる次なる犯行。

 何かの書評で絶賛されていたので楽しみにしていたのだが,これって面白いの。設定は不自然だし,犯人の意外性もないし,登場人物には何の魅力もないし。大体,読者をミスリードしようとする部分がミエミエ。トリックの部分は論理的なのだろうが,動機に必然性が感じられない。そして各章の前に書かれた作者からの注はアンフェアなのではないだろうか。こういうのが本格推理の傑作だって言うなら,そんなもの読みたくないね。

 

「0の殺人」 我孫子 武丸  1998.10.23 (1989.08.05 講談社)

 資産家の未亡人一族4人と関係者3人が食事している時に一人が毒殺される。その事件を追う一人の刑事と探偵もどきの刑事の兄弟。最初に作者から一族4人の中に犯人が居る事が提示されている。最初にその内の一人が死んでしまうのだが,その後全員が死んでしまう。一体真相は何だったのか。

 タイトルを読み間違えてしまった。「オーの殺人」だとばかり思っていたのだが,「ゼロの殺人」だったのね。冒頭にて作者は,ほとんどの人が真相を見破れるだろうと言っていたが,全く判らなかった。これって判らないといけないものなのだろうか。そんな事は無いのだろうがちょっと不安になってしまう。3兄弟の推理は笑えたけど。

 

「ホワイトアウト」 真保 裕一  1998.10.28 (1995.09.20 新潮社) お勧め

☆☆☆☆☆

 雪に閉ざされた日本最大のダムがテロリストに乗っ取られる。偶然外に居た富樫輝男は人質となった仲間と,山で失った友人の婚約者である平川千晶を助け出す為,テロリストに敢然と挑む。

 凄いですねえ,まるでランボーかダイハード。物語の展開の面白さもさる事ながら,読者を引き付け一気に読ませてしまう文章力に脱帽。あまり現実味のあるストーリーとは思えないが,そんな事を感じさせないところが凄い。こう言う設定の場合,主人公が何故そこまでするのかと言う動機付けの部分が非常に大切に思えるのだが,ちょっと弱い様な気がしてしまった。だから普通だったら当然逃げるのに,敢えて犯人と戦う決意をする為に用意された,友人の山での死と主人公の悔恨の場面はもう少し書いて欲しい様な気がした。ミステリーには閉ざされた場所における犯罪と言うのは珍しくないが,それが何となく嘘っぽく感じてしまうのは,その様な状況になる現実性の問題だろう。この作品はミステリーではないが,山奥に作られたダム,連日の吹雪,1本しかない道路の爆破,犯人による通信網の遮断と,設定には納得させられる。ただダムと言うか発電所の構造が複雑で,犯人と主人公の位置関係が判りづらかったのが難点かな。最後の病院でのシーンも良かったが,湖上の追跡の場面で千晶と初対面の方が格好良かったのではないだろうか。何となく文句ばっかり書いている様だけど,素晴らしい一作でした。

 

「犯人のいない殺人の夜」 東野 圭吾  1998.10.29  (1990.07.30 光文社)

☆☆☆☆

 一人の女性の死体を呆然と見詰める6人。建築家の夫婦,その二人の子供,二人の家庭教師。死体を始末して全てが無かった事にしなくてはいけないのに,女性の兄を名乗る男の出現。そして山中に埋めた遺体が発見されてしまう。本当の犯人が描いた複雑なトリックの表題作他,七編の短編集。

 全体的に暗く悲しい話が多かったと思う。推理と言う点では表題作が一番良かったと思うけど,高校生が校舎から転落して死亡する「小さな故意の物語」,新体操に憧れる女性の「踊り子」,アーチェリー選手の自殺を扱った「さよならコーチ」が印象的だった。このせつなさが何とも言えん。他の「闇の中の二人」「エンドレスナイト」「白い凶器」は昨日読んだばかりなのにあまり覚えていない。

 

「名探偵の掟」 東野 圭吾  1998.10.30 (1996.02.25 講談社)

☆☆☆☆

 県警の警部大河原番三と名探偵天下一大五郎が数々の難事件を解決する。と言うパターンの紹介と言ったらいいのか,単なるパロディか。この本は図書館で借りたのだが,まず表紙がふるっている。雪の降る夜の洋館。電気が煌煌と点けられている。降り積もった新雪の上には一人の足跡がドアに向かって伸びている。「いかにも」と言った感じの表紙だ。そのイメージで読むとかなりずっこける。いわゆる推理小説に出てくる数々のパターン。それは密室殺人であったり,ダイイングメッセージ,フーダニット,時刻表でのアリバイ,叙述トリック等など。これらの典型例を紹介し二人が解決していく。二人と言っても,警部はトンチンカンな推理で盛り上げておいて,最期に名探偵が全員を一個所に集めてご名答を披露すると言う,まさに名探偵の掟パターン。所々に登場人物が作者や読者を揶揄する部分があるが,作者のミステリーに対する愛情が存分に感じられる。