読書の記録(1998年12月)

「密告」 真保 裕一  1998.12.01 (1998.04.20 講談社)

☆☆☆

 川崎中央署に勤める萱野は,ある朝上司の八木沢からいきなり罵倒される。誰かが八木沢と業者の癒着に関する情報を警察署に密告してきたからだった。そして萱野には密告の疑いを掛けられるに足る充分な理由があった。8年前萱野と八木沢は県警射撃チームの訓練員で,ともにオリンピックを目指していた。その時八木沢が起こした不祥事を新聞社に密告したのが萱野だったからだ。今回の件に関して自分は関係無い事を証明しようと,彼は一人で密告者を探そうとする。ある一人の女性に真実を知って貰う為に。

 最近官僚を始めとする役人に絡んだ贈収賄等の不祥事や天下りに対して批判が多い。確かに我々からすれば税金で仕事をしている立場にありながら,国家や国民の事より自分の利益を優先させる行為は到底許されるものではない。警察だけは他の役人とは違うと思いたいが,ここに描かれているのは警察署トップの天下り,業者との癒着,それに伴う足の引っ張り合いである。主人公である萱野は「ホワイトアウト」の主人公の様な派手さこそないが,好きだったラグビーを諦めて警察に入った経歴や,8年前の出来事に対する後悔と言った背景が自然で感情移入してしまう。まあその分彼が思いを馳せる人妻や,彼に惹かれる射撃チームの後輩女性の描き方にやや不満が残るのだが。彼一人による必死の捜査にも係わらずなかなか真相にたどり着けない中間の部分が,やや長くかんじられるが,事件の概要が明確になるとともに密告者の正体が明かされる後半が圧巻だった。後味の悪い結末ではあるが,捜査に当たった県警の課長が主人公を認める場面が救いだったと思う。

 

「震源」 真保 裕一  1998.12.05 (1993.10.15 講談社)

☆☆

 気象庁気象研究所で地震や火山の研究をしている江坂慎一は,かつて勤めていた福岡気象台時代の同僚である森本俊雄が最近退職した事を知る。森本に対してわだかまりを持つ江坂は彼の行方を追うのだが,不思議な事が次々と判ってくる。退職した理由,住んでいたアパートを訪ねてきた人物,森本がかつての愛人に掛けた電話。そして森本から突然に掛ってきた電話,そしてその翌日の森本の事故死。南西諸島の吐喝喇列島近海で行われている海上保安庁等による大規模な演習に,その謎が隠されている事を突き止める。偶然に知り合った雑誌記者とその海域に乗り込むのだが。

 福岡気象台での津波警報発令のミス,中国の砂漠でのパイプライン建設調査,ある漁船に乗り込んだ不思議な二人,池袋署に勤務する警部補の突然のSPへの辞令,内閣調査室調査官の不思議な行動。いくつかのストーリーが複雑に絡み合ってメインストーリーを築き上げていく。実際半分を過ぎてやっとこれがどの様なストーリーなのかが判ってくる。新保さんの他の作品同様,平凡な役人がある事をきっかけに大活躍をする話なのだが,内調の調査官である門倉司郎の企画した内容が実際何だったのか良く判らなかった。海底火山の活動をきっかけにした新島の領有権確保,海底資源の発掘,各国スパイの洗出し。面白いのは間違い無いが,何かちょっといろんな物を詰め込みすぎた感じがしてしまった。だけどテレビ等で見る政治家とは違って,内調を始めとする官僚のトップに居る人達は,こんな事を考えて実行してしまうのだろうか。そうだとしたら頼もしい限りだと思うのだが。

 

「イン.ザ.ミソスープ」 村上 龍  1998.12.07 (1997.10.16 読売新聞社)

☆☆

 主人公のケンジは日本を訪れる外国人相手に,東京のナイトライフのガイドをしていた。暮れも押し迫った12月29日,フランクと名乗るアメリカ人から電話で三日間のアテンドを依頼される。最初の夜フランクを数軒の店に案内しているうちに,ケンジは彼の異常さに気がつく。しゃべっている事の矛盾,時折見せる険しい顔,成り行きで立ち寄ったバッティングセンターでの出来事。二日前に新宿で起こった女子高生のバラバラ殺人の犯人ではないかと漠然と思う様になる。そして二日目の夜,その想像が当たっていた事を思い知る。彼はお見合いパブで,店に居た客と従業員全員をケンジの見ている前で平然と惨殺してしまったのだ。そして犯行の後フランクはケンジに自らの生い立ちや今の心境を告白する。

 外人が見た日本人って一体何なのだろう。必然性の無い売春,物の価値をイメージやブランドだけでしか語れない貧しさ,異質なものに対する排他性,生きる価値を見出せない人,軽薄なコミュニケーション。だからと言って殺してしまって良い訳では無いが,ケンジが殺されなかった理由は判るよね。しかし殺人鬼に対してロボトミーと言う設定はどうかと思う。そんな事実が無い人達が小説以上の犯行を行う事が珍しくない昨今なので,かえってフランクの特異性がロボトミー手術に求められては困るのではないだろうか。貧しい国の人達から見たら一見豊かに見える日本人が,精神的にはこんなに貧しいと言うのは日本人には理解できるよね。それすら判らなくなったら本当にお終いだ。味噌汁の具,それは単に野菜のきれっぱしに過ぎないのだろうが,除夜の鐘と同様に深い意味を持っている事を忘れない様にしたいもんだ。フランクの告白よりも,南米の街娼が日本人と神について語った部分の方が印象的だった。それにしても殺害シーンが凄くリアリティがあって,作者は殺しの経験があるのではないかと思ってしまった。

 

「きんぴか」 浅田 次郎  1998.12.09 (1996.02.05 光文社)

☆☆☆

 ヤクザの鉄砲弾で13年振りに娑婆に戻ってきたピスケンこと坂口健太。湾岸紛争に反対し一人でクーデターを起こし自決しそこなった軍曹こと大河原勲。有力議員の収賄の罪を引っかぶって大蔵省のエリートの座を奪われた広橋秀彦。この三人が都内のとあるビルに集められた。集めたのは警視庁刑事を退職したばかりのマムシの権左こと向井権左右衛門。彼の「ガキの頃から夢に見た事を片っ端からやってみろ。」の言葉に,正義の三人のドタバタ劇が始まる。

 三人の必殺仕事人の話なのだろうと思って読み始めたのだが,どうもドラマの様なすっきりとした結末にはならない。何故ならないかと言うと三人のキャラクターのせいなのだろうか。三人は法的に何らかの罪を負っている訳だが,別に悪人と言うわけではない。では悪は何かと言うと,彼等がかつて所属していた,現在の彼等にとって対極の存在,つまりヤクザ,自衛隊,政治家であり警察なわけだ。相手が特定の個人ではないとなると,この様な結果はしょうがないか。「プリズンホテル」ほどの一貫性が無く,各々の話がバラバラな印象を受けてしまうが,それぞれの話は文句無く面白い。特にハッカーの少女が最高。

 

「盗聴」 真保 裕一  1998.12.11 (1994.05.25 講談社)

☆☆

@ 「盗聴」 ... あるホテルから発せられる謎の電波を追っている内,殺人事件に出くわしてしまう。盗聴を仕事にする主人公とテロリストの駆け引き。
A 「再会」 ... 久しぶりの同窓会の前日にかつての級友である妻が自殺を図った。病院に集まった友達との会話の中で真実が明らかになって行く。
B 「濾水」 ... 一つの殺人が次の殺人を呼んでいく。隠そうとしても水が漏れる様に事実が明かされていく。真相を知った水道局員が犯人を追いつめようとするが。
C 「タンデム」 ... 二輪のレーサーの,かつての仲間が事故死した。事故なのか,自殺なのか,何らかの犯行なのか。
D 「私に向かない職業」 ... 訪ねた男はナイフで刺されていた。誰が何のために刺したのか。また主人公が男を訪ねた目的は何なのか。

 と言う5編からなる短編集ですが,真保さんの作品にしてはミステリー色が強い,と言うかミステリーそのものです。中でも「再会」が良かったですね。主人公であるはずの妻は病院のベットで意識不明の為いっさい出てこない。集まってきた仲間達の何気無い会話から,妻の自殺の原因を知る夫。夜の病院の静けさがひしひしと感じられるような雰囲気が良かったですね。「盗聴」はちょっと短編にするには無理があるのではないでしょうか。

 

「パラレルワールド.ラブストーリー」 東野 圭吾  1998.12.13 (1995.02.07 中央公論社)

☆☆☆☆

 コンピューターメーカーでバーチャルリアリティの研究をしている敦賀崇史は,中学生時代からの親友であり現在は同僚の三輪智彦から,彼の彼女である麻由子を紹介される。1年後,麻由子と同棲している崇史は自分の記憶に関して不思議な違和感を覚える。自分の恋人の麻由子は実は無二の親友である智彦の彼女だったのではないだろうか。今自分が持っている記憶は果たして正しい物なのだろうか。

 この話は,「SCENE○○」と付けられた1年前から時間を追って行く部分と,「第○○章」とつけられた1年後から過去を溯っていく部分が交互に描かれます。前者では,智彦から麻由子を紹介された崇史が徐々に麻由子に惹かれていき,後者は自分の記憶に違和感を覚えた崇史が過去を調べて行きます。どちらも登場人物が同じなので,読んでいて結構こんがらかります。話としては単純な友人との三角関係なのですが,この様な構成を取った事で面白い話に仕上がったのではないでしょうか。またハイテクや差別問題を盛り込んだ事により,話に厚みが感じられました。それにしても冒頭のシーンが印象的でした。同じ方向に進む2本の電車から見える二つの世界。実際にはパラレルワールドでも何でもないのでしょうけど,その後に重要な位置を占めています。

 

「卒業/雪月花殺人ゲーム」 東野 圭吾  1998.12.13 (1986.05.20 講談社)

☆☆

 大学4年生の仲良し七人は就職,恋愛,スポーツに忙しい日々を送っていた。そんなある日,仲間の一人の祥子がアパートの自室で手首を切って死んだ。自殺なのか,他殺なのか,彼女の恋人を始め友人達にはさっぱり理由が判らなかった。そして又一人毒を飲んで死んでしまう。友人二人の死の真相を知るため,加賀恭一郎は日記等の残された手掛かりをもとに調べ始める。

 第二の殺人トリックとなった茶道の作法が複雑すぎて分かり難かった,と言うのが第一印象でした。前に読んだ「同級生」では高校生が生き生きとして描かれていたのに対して,この大学生達は何か大人び過ぎている様な気がしてしょうがなかった。ところで加賀恭一郎って,「どちらかが彼女を殺した」の加賀刑事なのでしょうか。

 

「天切り松闇語り」 浅田 次郎  1998.12.17 (1996.07.31 徳間書店)

☆☆☆☆

 ある暮れも押し迫った夜に一人の老人が警察の留置場に連れてこられる。彼松蔵はかつての大泥棒であった。彼が子供の頃一家は離散する。博打好きの父,病死した母,吉原に売られていった姉,そして松蔵は泥棒の親分の元へ。彼は薄暗い留置場の中で自分の半生記を語り始める。泥棒一家での修行の事,親分や兄貴分の活躍の事,古き良き時代の事,そして姉との再会の事。

 暗く寒い留置場の様子がひしひしと伝わって来るような雰囲気の中,淡々と語られる彼の言葉にしんみりとさせられてしまう。まさしく浪花節の世界。最後の姉との再会のシーンなど,こうなるだろうなと判っていてもジーンときてしまう。これで終わってしまうのはちょっと残念な気がしてならない。彼にはもっと語って欲しい事が一杯あるのだろうに。

 

「奪取」 真保 裕一  1998.12.19 (1996.08.20 講談社) お勧め

☆☆☆☆☆

 手塚道郎は親友である西嶋雅人がサラ金に作った借金返済の為,偽札作りを計画する。偽札と言っても単に銀行のATMを誤作動させるだけのものだったのだが,狙いは一応成功する。しかしサラ金のバックにいる暴力団が彼らのテクニックを放って置く訳は無かった。手塚は暴力団の追求を逃れ,不思議な老人と少女とともに新たな偽札作りに取り組む事になる。より完璧な作品を完成させる為,そして彼らを追い込んだ暴力団と金融機関に対する復讐の為に。

 さすが真保裕一。見事なストーリー展開,臨場感溢れる文章力,そして何よりも偽札作りに関するノウハウの細かさ,そして意外な結末。まさに圧倒させられました。そして読んでいる間中,彼ら4人に対して声援を送りたくなるような,主人公達との一体感。とにかく読み応えがあります。偽札作りに取り組む事三回,それが三つの章に分かれているのですが,それぞれ緩急のつけられた書き方になっています。偽札作りの部分はややまどろっこしい位に細かく詳しく書かれているのですが,その偽札を使う段になると,一転息もつかせぬスピード感。それが読者に対して緊張感と爽快感を与えていると思います。それにしても紙幣作りの精巧さには驚かされました。この本を読んでいるとある程度の組織と資金があれば偽札作りは可能な様な気がしてきますが,まあ割に合わないのでしょうね。

 

「水底の殺意」 折原 一  1998.12.22 (1993.08.20 講談社)

 事務室のコピー機の横に一枚の紙が置かれていた。「殺人リスト」と題されたその紙には何人かの名前が記されている。そしてその通りに人が死んでいく。そしてリストには次々と新たな人の名前が追加されていく。

 推理小説には殺人がつきものだ。だから小説の中で何人殺されようがさして気になるものでは無い。しかしそれは殺人を犯すにたる理由が納得できると言う前提があっての事だ。この中で起る殺人にはその理由が感じられない。決して辻褄があっていない訳ではないのだが,「何で殺さなければいけないの。」と言う気持ちが先にたってしまう。つまり登場人物の心理が判らないのだ。叙述トリックが見事かと言うとそうでもないし,何か中途半端な気がして面白くなかった。

 

「99%の誘拐」 岡嶋 二人  1998.12.25 (1988.10.31 徳間書店) お勧め

☆☆☆☆☆

 イコマ電子工業社長の生駒洋一郎は,一人息子の慎吾を何者かにを誘拐される。5歳になる息子は無事戻ってきたのだが,会社の再建資金であった5千万円は犯人に奪われてしまう。父はその間の事情を7年後に手記にまとめた後病死する。さらに11年後,大人になった慎吾は,かつて父の会社であったイコマ電子工業を吸収合併した株式会社リカードに入社する。そしてここで二番目の誘拐事件が発生する。誘拐されたのは株式会社リカードの社長の甥である葛原兼介。犯人は身代金の受け渡しに何と慎吾を指名してきた。

 岡嶋二人と言うのは井上夢人と田奈純一と言う二人のペンネームであり,いわゆる「新本格」以前の推理小説界をリードしてきた人達だそうだが,今回初めて読んだ。2件の誘拐事件を題材にしているのだが,ふたつの事件とも犯人側の巧妙な仕掛けが見事であり大変に面白かった。誘拐事件と言えば身代金の授受がポイントになるのだが,新幹線やフェリーと言った乗り物,またパソコン等のハイテクを駆使した方法,またそれがリアルに表現されており,臨場感溢れる展開だった。また二つの事件の関連性を前半で気付かせておいて,最後に100%ではなかったと言う真実を持ってくるあたりには感心してしまった。あれだけ伏線があったのに。息子の誘拐について父親が手記を残すと言う描き方が効果的だったのだろう。98年は東野圭吾を集中的に読んだが,99年は岡嶋二人になりそうだ。

 

「十字屋敷のピエロ」 東野 圭吾  1998.12.26 (1989.01.05 講談社)

☆☆☆

 竹宮産業社長の夫人が十字屋敷と呼ばれる自宅から謎の飛び降り自殺をした。そしてその四十九日の法要に親戚が集まった夜,社長とその愛人の刺殺死体が地下室で発見される。姪の水穂と娘の佳織,そして同居人の青江が事件の真相の究明に乗り出す。自殺と他殺,この二つの事件を見ていたのはピエロの人形だけだった。

 資産家の洋館,複雑な人間関係とくれば殺人事件が起こらない方がおかしい,と言う位推理小説らしい場面設定なのが,東野圭吾っぽくないか。複雑なトリック,探偵役の登場,意外な犯人,最後のドンデン返し,と教科書通りに進んでいくのだが,唯一変わっているのがピエロの存在。このピエロ君,事件現場を目撃しているのだが,ピエロの目で見た客観的な事実が挿入されている。しかしこれが又ミスディレクションを誘ってくれるのだ。建物自体を使ったトリックは,ありきたりと言えばありきたりなのだが,ちょっと解り辛かった。

 

「腐食の街」 我孫子 武丸  1998.12.29 (1995.11.25 双葉社)

☆☆☆

 2024年の東京の,とあるマンションの一室で体をバラバラにされた猟奇的な殺人事件が発生した。それはつい3ヶ月前に死刑になったドクの犯行そのものであり,彼を逮捕した上野署の溝口警部補への挑戦状が添えられていた。事件を担当する赤羽署の刑事,そしてふとした事から知り合ったシンバと言う少年とともに,溝口は事件の謎を追う。不思議な事に死刑になったドクの遺体は行方不明になっており,溝口らは謎の一味に襲われる。そして第二,第三の犯行が繰り返される。

 今から5年ほど前に書かれた近未来をテーマにした小説だ。たった5年なのに,この中で描かれている事の大半は現在達せられている事に驚く。程度の差はあるけど情報機器の発達,不良外国人の流入,異常な犯罪の発生は小説家の想像以上のスピードなのだろうか。何となく救いの無いような気分で読んでいたが,最後の結末だけが助けになってくれた。あまり後味が良かったとはいえないけどね。

 

「天空の蜂」 東野 圭吾  1998.12.30 (1995.11.15 講談社)

☆☆☆☆

 防衛庁が民間企業と共同で開発した新型の大型ヘリコプターがテロリストにより強奪された。ヘリは機内に仕組まれたコンピューターによる自動操縦により,福井県にある高速増殖炉の上空でホバリングを開始した。さらに悪い事に,機内には一人の少年が取り残されている。そして犯人を名乗る「天空の蜂」からのメッセージは,「日本にあるすべての原子力発電所を破壊せよ。」と言うものであった。ヘリの中には爆弾が仕掛けられており,要求が受け入れられない場合はヘリを発電所に墜落させると言うのである。原発の関係者は安全性に絶対の自信を持っている。政府も原発反対者の手前,安易に非難命令は出せない。残された燃料がタイムリミットだ。

 何か東野圭吾さんではなく,真保裕一さんの作品を読んでいる様な雰囲気だった。限られた時間内の捜査,原発の安全性に対する様々な思惑,犯人の意外な動機,無関心な人々,全てがきちんと描かれており気持ちが良かった。ただ少し緊迫感に欠けたように思えたのは,いくつもの場面がコロコロと変わっていき,若干ついていけなかったからかも知れない。原子力発電,特に高速増殖炉の必要性に関して私は肯定的な意見を持っているのだが,もし自分の家の隣にあったら誰だって反対するだろう。それは刑務所,風俗店,ゴミ処理施設,火葬場何だってそうだ。それは必要か否かよりも,自分にとっての利害関係が優先されるからだ。登場人物の一人が言っていた言葉が印象的だった。「自分の立っている地面がどういう色をしているかによって,その人間の色も決められてしまう」。日本は資源が乏しいから原発は必要だ,と言うのは真実だがアンフェアでもある。今や電力の4割が原子力発電だと言うのは事実だとしても,果たして現在の電力需要が全て必要なものかと言う議論は無い。犯人の意図は無関心こそ責められる事だというのだろうか。一つ気になったのだが,犯人の息子を自殺に追いやった同級生の一家に対する嫌がらせは,彼の別れた妻の仕業なのだろうか。