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02110207


■2002年2月1日〜2月15日


2月11日(月)
 うわ。三浦俊彦ってWebサイト持ってたんだ。
 というわけで、「三浦俊彦の時空間」にリンクしておきます。

三浦俊彦サプリメント戦争』★★★★
 微妙に型から逸脱したアフォリズムとレトリックを駆使した怒濤の文体。『健康なんてこわくない!』と題されたエッセイ集の著書を持つ作者の、「健康食品マニア」ぶりが遺憾なく発揮されたバカ小説。なにしろ、登場する健康食品にはすべて、メーカー名と含有成分が併記されているのだ。冒頭部からちょっと引用してみると、こんな感じ。

(前略)
北宝薬品の『龍門慶』(エゾウコギ流エキス、硫黄流エキス-N、鹿茸チンキ、牛黄チンキ-N、肉■蓉流エキス、蛇床子チンキ、イカリ草エキス、人参エキス、ムイラプアマ乾燥エキス)50mlでアスプロの『金精源』(コブラ・トナカイ角・オットセイ混合末、デキストリン、粉末ハチミツ、ハーブミックスパウダー、ガラナエキス末、亜鉛含有酵母、緑茶抽出物、カワカワエキス末、トウガラシ抽出物)9粒を飲むと、角度がはっきり増しているのがわかります。(P.4。表示不能な文字には■をあてています)

 この調子で6ページにも渡って商品名が羅列されていたるする。しかし、小説における羅列には大雑把に分類して、読み飛ばしても構わないものとそうでないもの(読む価値のあるもの)があるけれど、この小説の場合はあきらかに後者。私も、この小説の冒頭部を眺めた時点では呆然として、「まあ、読み飛ばせばいいか」と思って読みはじめたものの、実際に読んでみるとそこかしこに「読ませる工夫」がほどこしてあって、結局、一字一句逃さずにとは断言できないけど、意図的な読み飛ばしはせずに最後まで読み終えてしまった。ちなみに上記の引用部分は薬局を訪れては「絶倫報告」を行う老夫婦の口上で(括弧内の成分は、「
老爺が並べたてる社名製品名と効能の中間に、あるいは声を重ねて傍らの老妻が「はいー」「そぉれぇ」など甲高い合いの手入れつつ成分名補い述べていった女声パートを忠実に筆者したものである」(P.6))、その商品名と含有成分と効能の多彩ぶりには感動するやらあきれるやら。「持続力確保と同時に射精後の性欲維持に優れます」(P.5)はいいとして、「絶頂時の第六感増進作用でうなじがぞくぞくします」(P.9)に至ってはほとんど意味不明。なるほどサプリ道は奥が深い。

 この小説に登場する「薬局」はそれぞれ「三文字堂」「四文字亭」「カタカナ楼」「ひらがな荘」「A〜Z舗」「ハイブリッド院」(以下略)……といった屋号を掲げ、その屋号がそのまま扱っている商品名をあらわしている。すなわち、「三文字堂」では『龍門慶』『金精源』など、「四文字亭」では『大麦若葉』『眠眠打破』など、「カタカナ楼」では『エスファイトゴールド』『フローミンエース』など(以下略)……というように、町内のサプリメントにかかわるものたちを支配する派閥というかイデオロギーとして機能しており、それぞれの党派が対立して抗争が繰り広げられるという物語は、タイトルが示すとおり、そのまま現実の「戦争」のパロディとなっている……のかもしれない。

 それにしても、この人の書く文章は奇妙な勢いがあって何度読んでもおもしろい。最後は引用でしめてみよう。

 ただし私が成績トップに躍り出た原因としては、ちょうどテスト直前に2クラスで学級閉鎖があったほか、クラスのマドンナが九州に転校、一年生男子の自殺未遂、社会科教師の山岳遭難と救出、通い猫の轢死、暴走族によるガラス破損、PTA会長の横領疑惑、不登校生徒が二人復帰、創立三十周年講演会中止、三年生女子五人の補導、出入のパン屋と英語教師の不倫発覚に体育教師激昂、卓球部の全国大会ベスト4、教育実習生の遅刻、隣の文房具店半焼、教頭の入院、美術教師の受賞、国語教師の骨折、向かいの呉服屋夜逃げ、所持品検査の再開、在校生の姉のアイドルデビュー、用務員の学校内感電死といった大中小騒動がたまたま続けざまに起きたため教師生徒が浮き足立っていたということが大きかったのだろう。マグマ流動の実感に熱く直立していた私ひとりが学校内騒動に無関心でいられたというわけだ。(P.172)

牧野修だからドロシー帰っておいで』★★★
 牧野修の小説を読むのはこの作品がはじめて。
 ……う〜ん。
 確かにおもしろかった。特に異世界を舞台に描かれる章は、世界観、キャラクタ、物語の展開、と三拍子そろっており、ファンタジー小説として非常に楽しめた。「Real」と題された章で描かれる現実世界が、異世界とネガ・ポジのような関係にあるという構造も悪くない。悪くないだけに、そこに登場する「仮想敵」たちが、あまりに物語として都合よい「悪役」である点が最大の不満点。
 これでは、普遍的な「関係」が不可避に抱える問題というよりは、あくまで個人の「性格」の問題に還元されてしまうと思うのだ。いや、まあ、確信犯的に戯画化されているというのは承知しているんだけど、それにしても、これでは結末の「断罪」があまりに空々しく感じられる。もったいないなぁ。

2月7日(木)
 旅行に行っていました。29歳にして初めて飛行機に乗りました。海外に行くのも今回の旅行が初めてでした。行き先はハワイ。ベタに観光したり泳いだりしてきました。

 そんなわけで、読書も一向に進んでいません。三浦俊彦サプリメント戦争』を読了したのみ。これはなかなかおもしろかったんですが、四六判1段組で300ページという分量にもかかわらず、読み進むのにえらく時間がかかってしまいました。詳細は後日、感想に書きます(あ、牧野修だからドロシー帰っておいで』の感想も忘れてはいません)。

 ところで、文学板@2ちゃんねるすが秀実スレッドでも話題になっている批評空間WEB CRITIQUEにおけるすが秀実・高橋源一郎の論争ですが、すが秀実の筒井康隆に対する差別批判をリアルタイムで追っていた読者としては、前述のスレッドにも意見があがっているように、今回のすが秀実の発言はいささか冷静さを欠いており、自身の批判の矛先がそのまま自分に跳ね返ってきてしまう状況に陥っているように見えるんですが……。
 いや、まあ、しかし、それ以前に私はさっさと『「帝国」の文学』を読まなければいけませんね。

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