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第2部 社会集団論

第3章 集団の統一

(1)規範
 アリやミツバチなどと違って、人間には共同生活の本能(先天的習性)がないのである
から、人間の集団が統一行動をするときには、各人の行動を統一するための特別の手段が
必要である。その手段として基本的に重要なものが規範である。
 規範とは、正確にいえば、集団成員の行動を指示し、且つ拘束する観念である。通俗的
にいえば、人間が集団成員として守らねばならないことである(3@,p.123)。国家の法
律、軍隊の規則、組合の規約、村の慣習など、制度的なもののほかに、支配者が下す命令
や、分業をするときの役目・役割などもその中に含まれる。
 家族のような小集団では、成文化された規範は少ないけれども、よく注意して観察する
と、行儀作法、言葉づかい、性的交渉の制限、夫の役割、妻の役割など、たくさんの規範
がある。法律や規則が成文化されるのは、忘れないようにするためで、成文化そのものに
重要な意味はない。
 ところで、普通一般に集団の統一性が高いといわれる状態を考えてみると、それには二
つの場合がある。一つは、成員の同質的行動の斉一性が高い場合であり、足並み揃えた軍
隊の行進がその例である。他の一つは、異質的行動の相互補足性または調和性が高い場合
である。九人の野球選手が守備につくとき、各人の行動は違っているが、相互補足の調和
が要求される。
 以上二つの意味での統一行動が必要に応じてなされる状態にあるとき、その程度に応じ
て、集団の統一性が考えられる。しかし、同様の統一行動は、集団をなさない多数人の間
にも見られる。たとえば観劇、流行、路上の通行、伝染病の治療などは、集団の行動では
ないけれども、斉一的になされている。また国際分業により、二つ以上の国々の生業が相
互補足的になっても、そのことによってただちに関係諸国が統一されたと見ることはでき
ない。




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