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 規範に拘束力を与えるための統制についても、集団内部で自主的になされるものと、外
部から成員に加えられるものとが区別される。ところで規範の設定主体と統制の行為主体
は合致するのが普通である。さもなければ、賞罰の結果が新たに規範化され、集団に二重
規範ができて混乱するからである。そこで、自律的規範には自主的統制が、また他律的規
範には外部からの統制が結びつくことになる。
 統制には、規範を守る者を称賛し優遇する側面と、逸脱者を非難し冷遇する制裁の側面
があるが、人間には共同生活の本能がないことから考えると、現実に重要なのは制裁の方
である。制裁には抵抗が予想されるので、制裁を実現するためには、勢力が必要である。
その勢力には、体力・知力・富力などの個人差によるものと、他人の支持に由来する社会
的勢力があるが、大人の世界で現実に重要なのは社会的勢力である。
 集団の中で最大の勢力をもつ者は支配者である。彼にたいする他人の支持は、基本的に
は支持者にたいする集団の便益提供と交換に与えられると見てよい。自律的集団では、規
範が集団の内部で自主的に作られる結果として、集団の対外的機能よりも、成員の欲求充
足のための対内部的機能の方が優先する。したがって統制に必要な社会的勢力は、自律的
集団では主として成員一同の支持によって獲得される。反対に他律的集団では、対外的機
能と交換に外部からの支持が与えられ、それが社会的勢力の源泉となる。自律的集団の支
配者を指導者(leader) と呼ぶならば、他律的集団のそれは監督者あるいは管理者などと
呼ぶべきであろう。
 自律的集団では、主要な規範は成員一同の合意によって民主的に作られるのを原則とし
ている。民主的討論の過程で成員が意見や希望を出し合い、情報を交換し、周知を集めて
対策を協議することによって、状況にたいする規範の適合性が高められる。しかしそれは
理想論であり、実際には、一つには成員各人の利害関心や価値観の違いから、また二つに
は大衆討議の際に働く群衆心理の作用によって、有効適切な規範を必要に応じて迅速に採
用することは、必ずしも容易ではない。
 このような困難を克服し、集団の統一を維持強化する手段として、支配が必要である。
具体的にいえば、支配者は、@集団内部で対立する意見を調停し(意見調停の役割)、A
群衆心理によって低俗化しやすい大衆の意見を指導し(大衆指導の役割)、B緊急の場合
に必要に応じて適切な命令を下す(緊急決定の役割)、という三つの働きによって、集団
の統一に貢献する。



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