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 ジンメルが単独支配をもって支配形式の原型としている点は(3B,p.111, p.123) 、
意見調停の役割から説明できる。また集団そのものを低級で指導を要するものとし、不適
当な人物による支配でも、ないよりはましであると述べているのは( p.181,p.184)、
大衆指導の役割である。緊急決定の役割に関しては、対外闘争が支配者の独裁を強化する
ことが述べられている( pp.232-234) 。
 他律的集団では、規範が外部の集団設置者から与えられるのが原則である。しかしその
設置者は集団の内部事情に暗く、状況に適した具体的指示を与えるのが困難な立場に置か
れている。そこで設置者が与える規範は主要なものだけに止め、具体的行動の細目に関し
ては、決定を集団内部の誰かに委任するという方法がとられる。普通一般には集団の支配
者にその委任がなされる(細目決定の役割)。
 他律的集団の統制の行為主体は設置者であるが、彼は集団の外にいるので、公平で適切
な賞罰をするには、集団の中の誰かに助言を求めなければならない。その助言者と支配者
を別にすれば、設置者が支配者を監視するには便利であるが、集団の中で二重支配が行な
われて混乱するので、普通一般には支配者にその助言が求められる(統制助言の役割)。
 およそ以上のような理由から、支配は集団の統一に寄与する。しかし一方、支配が逆に
集団の統一を乱す場合もある。支配者が権力を悪用して私利私欲をはかり、その結果、集
団の機能が低下すれば、彼にたいする内外からの支持が減り、統制に必要な彼の勢力が弱
くなり、集団が解体的不統一となる。それを防止するために支配者の任期を限定し、対立
候補者を立てて、支配者の地位を不安定にしておくと、現職の支配者をも含めて対立候補
者相互間に勢力争いが発生し、分裂的不統一が現れてくる。
 支配が集団を統一する側面と、逆にそれを不統一に導く側面と、二つの可能性があると
すれば、それぞれの条件が問題になる。支配が集団を統一に導くための条件としてもっと
も重要なのはやはり、良い支配者に恵まれることであろう。良い支配者が具備すべき資質
に関しては、多くの人がさまざまの説を出しているが、常識的な見解としては、@優れた
理性と判断力、A機を見るに敏なる決断力、B人を魅了する人品・風采、C模範的行動を
なしうる克己心、D他人を説得する話術の才能、などがあげられよう。
 ジンメルは、集団における支配そのものの必要性を強調する立場から、指導的地位に必
要な資質は多くの人びとに広く分布しており、彼らがその地位についたときに、はじめて
発達し明るみに出される、とする見解を述べている(同上 p.184)。



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