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 帰属意識を高める条件は、厳密にいえば各成員ごとに違っているけれども、その一般的
水準を高める条件としては、基本的には集団の業績が重要である。集団が対内部的に業績
を上げて、成員一同の欲求の充足に貢献することにより、成員が集団への所属に満足し、
その存続発展を希望する素地ができる。また対外部的に業績を上げて、集団が外部の人び
とから高く評価されることによって、成員が集団への所属を誇りとする感情の素地が作ら
れる。
 しかし一方、集団の業績の向上のためには、統一行動への成員の意欲的参加協力が必要
であり、そのためには帰属意識の高揚が必要である。したがって集団の業績と帰属意識は
因果循環の関係にあることが知られる。野球チームの状態が良いときには、対外的試合で
の勝利がチームの結束を強くし、その結束がチームを勝利に導く。反対にチームの状態が
悪いときには、敗戦がメンバーに不満と不和をもたらし、それが原因でさらに敗戦が多く
なる。
 このように因果関係が循環する場合には、それが好循環になるか悪循環になるかを分け
るものとして、媒介的要因が重要である。帰属意識の形成を触発し、また助長する媒介的
要因としては、概念や説明に疑問はあるが、フィアカントが「集団自意識」について述べ
ていることが参考になる。彼によると、集団は個人と同様に自意識をもっており、それは
次のような諸要因によって発達を促されるという(3D,p.368-371)。
 @軍隊の旗、大家族の土地、宗教的共同体の教会や鐘などのような集団の客観的形象
 A他の集団との接触による「他の集団からの際だった区別」
 B集団成員の斉一性(Uniformität)
 C緊密な集合
 これらの媒介的要因が帰属意識を高める理由については、フィアカントの説明から離れ
て、方法論的個人主義の立場から考えてみることにしよう。
 上の@は、集団の象徴のことである。多数人が集団を作るといっても、集団が有機体の
ように実在しているわけではなく、多数人が規範を共有し、統一行動をしているとき、集
団の存在が認められるだけである。ところが集団にとって本質的な規範や相互作用は抽象
的で、愛や尊敬の対象とはなりにくい。そこで、人や物や文化の中で、敬愛の対象となり
うるもの、たとえば国王・国旗・国歌などを定めて、それを集団の象徴として、集団の本
質に代わって敬愛する。そのための儀式や行事に成員一同を参加させることによって、敬
愛が習慣化される。


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