地位が人を育てるという側面もたしかにあるが、人それぞれに素質が異なり、支配者に
適する人とそうでない人の区別があるようにも思われる。かりに地位が人を育てる側面の
方が大であるとしても、支配者に適さない人に必要な素質が具わるまでには時間がかかる
のであるから、その点から考えても、集団が良い支配者に恵まれることは重要である。
(3)帰属意識
集団の成員が、その集団への所属に満足し、集団を愛し、集団の存続発展を願っている
とき、その心情を帰属意識と呼ぶことにする(3C,p.630)。「疎外されている意識」の
反対が帰属意識である。それは規範に拘束力を与えるための統制の可能性にかかわる条件
として、集団の統一に寄与する。理由は以下のとおりである。
第一に、制裁を受ける者の心理に着目して、帰属意識は彼が受ける制裁の限度と効果を
規定する。帰属意識の低い成員に強い制裁を無理に加えようとすると、彼は制裁を甘受す
るよりも、集団から離脱することを考えるであろう。離脱が簡単にできない場合には、制
裁を受けて反省するよりも、むしろ反抗し、その後は規範を守るにしても儀礼的、表面的
となる。だから成員の帰属意識の水準の低い集団では、強い制裁を効果的に加えることが
できない。
第二に、制裁を加える方の成員に着目して、規範を自主的に守るために帰属意識が必要
である。逸脱者に制裁を加える者、およびそれを支持する者は、逸脱者を非難するまえに
まず自分が規範を守ることが求められる。とくに自律的集団では、統制が成員一同によっ
て行なわれるのであるから、規範を自主的に守ろうとする人が少なくとも過半数いなけれ
ばいけない。そのためには成員の多くが集団への所属に満足し、集団の存続発展を願って
いることが必要である。
第三に、制裁を加える者とそれを受ける者との相互作用に着目して、帰属意識は制裁に
必要な社会的勢力を保障する。とくに自律的集団では、制裁について外部からの支持がな
いのであるから、制裁を加える者にたいする内部成員からの支持がとりわけ重要である。
各成員が集団の存続発展を願い、したがって逸脱行動を憎む気もちが大であれば、制裁に
たいする支持がそれだけ強くなる。反対に帰属意識が低いときには、逸脱者の反感や抵抗
を恐れて、制裁にたいする支持が弱くなり、リーダーが孤立して、効果的な制裁ができな
くなる。