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 モラールの規定要因に関しては、尾高邦雄が産業社会学の立場から、@作業条件、A待
遇、B職場の組織、C監督指導の方法、D会社の管理方式、E労働組合の性格、F会社と
組合の社会的地位、G外社会の環境的条件、H個人差、の9項目をあげている(6C,pp.
295-296)。
 モラールの集合意識としての側面を強調する場合には、その中でとくに「職場の組織」
と「監督指導の方法」が重要である。尾高がとくに説明を補足しているのも、おもにその
二つだけである。
 職場の組織とモラールの関係については次のように述べられている。一般的に言って、
集団の規模が小で、成員の間の面接性が大であるほど、モラールは高い。また職場が他の
職場から空間的、社会的に隔離されている場合には、モラールが高くなる。さらに成員間
の類似性が大で、成員の移動が少なく、また集団の統一性が大である場合にも、モラール
が高くなる。反対に、成員が異質的で、成員の出入り交替が多く、内部に党派や副次集団
があるような場合には、モラールは低い、というのである(同上 pp.299-303) 。このよ
うな見解のそれぞれを裏づける調査事例もいくつか示されている。
 監督指導の方法とモラールの関係については要するに、監督者が部下の意見や感情を尊
重し、「民主的」と見られていればモラールが高く、また専制的であっても、いわゆる親
分肌で部下から信頼されている場合にはモラールが高いことが示されている(同上 pp. 
304-315)。モラールを低くするのは、上司からの命令や圧力に屈して、部下にたいしても
同様の圧力を加える監督者がいる場合である(同上 p.315)。
 以上を要約すると、集団内部の人間関係については、モラールの規定要因として集団の
親和性と民主性があげられていると見ることができる。尾高のいうように、成員の類似性
が大で、出入り交替が少なく、面接的接触が大であることは、いずれも親和性の条件であ
る。集団が他から隔離されている場合にも、親和性が大になる。成員の接触交渉の相手が
集団内部に限定されるからである。
 その親和性がモラールの規定要因の一つとなるのは、集合意識の拘束力を基礎づけるか
らである。勤労意欲のような内面的なものの統制には、組織的統制よりも分散的統制の方
が適している。ところが人間は、親しい人とは結合を求め、分離を嫌うけれども、親しく
ない人との分離はさほど気にしない傾向があるので、分散的統制が効力をもつためには、
集団の親和性が必要である。



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