「化粧坂」 森 真沙子 2005.07.01 (2001.05.07 角川書店) |
☆ |
鎌倉の銀行に勤める29歳の美和子は,顧客である篠宮会を通じて「とはずがたり」と言う古典と出会う。この作品は北条時宗の時代に書かれた,二条と言う宮中女性の愛欲生活を綴ったものだった。篠宮会で開かれる輪読会に参加した美和子は,篠宮の屋敷で不思議な体験をする。一方,建築事務所を倒産させてしまった島岡は,失踪した妻の行方を探るうち,篠宮会に行き当たった。 古都鎌倉を舞台に,謎の古典作品を巡る作品なのですが,何が謎なのか良く判らないで,ズルズル進んでいってしまった感じがしました。美和子が篠宮会に興味を抱き怪しげな茶会に参加していく過程も理解できないし,妻が失踪し白骨死体で発見された島岡の態度も当事者意識が感じられない。そう言った部分に現実味が感じられないので,ちょっと読むのが辛かった。怖さで盛り上げるべきラストも拍子抜け。
|
「ひとごろし」 明野 照葉 2005.07.04 (2004.03.08 角川春樹事務所) |
☆☆ |
フリーライターの泰史は,本郷のアパート近くにある馴染みの喫茶店で働き始めた弓恵に興味を持った。しかし喫茶店の主人夫婦は泰史に,彼女と交際しないように忠告する。不審に思って調べてみると,彼女には驚くべき過去があった。最初の夫との間に生まれた子供を亡くし,その夫とは離婚。そして再婚した夫とその愛人の二人を殺害し服役を終えていた。 なんとも凄いタイトルですね。同じ意味でも言葉によって印象が大きく変わる事はありますが,「殺人」と「ひとごろし」何てその最たるものでしょうか。明野さんのホラー作品は怖くないと言う印象が強かったのですが,これは怖い。弓恵の泰史に対する態度や言動の微妙な変化が怖い。彼女が化粧をしている場面の描写は不気味だし,泰史の帰宅に合わせて掛かってくる電話には背筋がゾッとさせられる。五十嵐貴久さんの「リカ(RIKA)」に通じる不気味さがあります。まああそこまで異常ではありません。全体的に面白いと思いますが,それにしても登場人物の不自然さが目立ちます。普通だったら彼女の過去を知った時点で泰史は付き合いは止めるでしょうし,自分の家族に対する拒否的な反応も納得できません。またそれ以上におかしいのは,泰史の妹の萌子が示す家族に対する異常な執着でしょう。ラストに関してはちょっと中途半端になってしまった感じです。でも最後にドアをノックしたのはどちらだったんだろう。
|
「孔雀狂想曲」 北森 鴻 2005.07.05 (2001.10.30 集英社) |
☆☆☆☆ |
@ 「ベトナムジッポー・1967」 ... 古道具の店「雅蘭堂」にやってきた老人と少女。ベトナム戦争時代のジッポーに興味を持った。 骨董屋と言うよりも古道具の店である「雅蘭堂」を営む,越名集治を主人公とする連作短編。北森さんの作品では,幾つかのシリーズ作にまたがって登場する人物が居ますが,この雅蘭堂の主人も宇佐見陶子さんの「狐闇」に出てきていました。あの時は人の好い小父さんと言った感じでしたが,そこはさすがに古道具屋。狐や狸の跋扈する世界で奮闘しますし,推理も冴えています。でも冬孤堂シリーズに較べると,ちょっとライトな感じの骨董ミステリー。それは雅蘭堂のアルバイトとして居ついてしまった女子高生の安積の存在が大きいでしょうか。何かそれぞれの事件の重さに対して,合っていなくて浮いてしまった感じがしました。と言うより,ちょっと鬱陶しい。
|
「シリウスの道」 藤原 伊織 2005.07.07 (2005.06.10 文藝春秋社) お勧め |
☆☆☆☆☆ |
大手の広告代理店の東邦広告で副部長をしている辰村祐介のもとに,大東電機の新規事業に係わるマーケティングの仕事が持ち込まれた。決して有利ではない状況のなか,女性部長の立花,他部署から応援に入った笹森,親のコネで中途入社した戸塚,株のネット取引にやたらと詳しい契約社員の平野とともに,難題に取り組む辰村。そんな辰村には,大阪で育った少年時代に,勝哉と明子という幼馴染と共有する,人には決して言えない秘密があった。25年が経ち3人は別々の人生を歩んでいたが,ここに来て何者かがその秘密を暴こうと,明子のもとに脅迫状を送りつけてきた。 シリウスと言うのはおおいぬ座の星で,−1.5等と全天で最も明るい一等星です。冬の夜空で印象的なオリオン座の左下の方に輝いています。さて久し振りの藤原伊織さんの新作です。藤原さんと言えば電通に勤務しながら著作活動を続けていましたが,3年前に退社されたそうです。そして退社と関係があるかどうかは知りませんが,何と食道癌だそうです。5年生存率が20%だそうで,とても心配です。作品の方ですが,作者お得意の広告業界を舞台に,読み応えのある作品に仕上がっています。過去の作品同様,主人公が持つ過去の闇が大きな意味を持っているのですが,それは少年時代の幼馴染とのある出来事。子供時代の情景が印象的に語られます。当然この過去と現在は関連を持っている訳ですが,話の中心は辰村の現在の仕事。個性的な4人を中心に,困難な仕事に取り組む場面が活き活きと描かれて行きます。さすがに広告業界に身を置いた人ならではの迫力です。そして広告業界や株取引に詳しくない登場人物を配する事によって,読者にも事情がスンナリと判る様になっているのもいいですね。25年を経た幼馴染との出会いと別れの場面に心打たれますし,ラストもこれはこれで痛快。また,ホットドックを焼く新宿のバーのマスターが出てきますが,茶目っ気を感じさせますね。とにかく大満足の1作です。藤原さんには病を克服され,新たな作品を産み続けて行く事を願ってやみません。
|
「どこまでも殺されて」 連城 三紀彦 2005.07.08 (1990.05.30 双葉社) |
☆☆ |
小学校の入学式の日,鉄の鎖で絞め殺された。小学校6年の時は,先生にプールに突き落とされて殺された。中学生になってやっとできた友達からは,東京駅のホームから線路に突き落とされた。さらに留守番中にやってきたクリーニング屋の若者に放火された。団地に住むと言う男からは車から突き落とされた。近所に住む女性からは,ゴミに出された冷蔵庫に閉じ込められた。そして乗っていたバスが爆破され,こうして僕は7回殺された。 「どこまでも殺されていく僕がいる。いつまでも殺されていく僕がいる。」と言う不思議な記述で始まり,その通りに7回殺される様子が描かれます。でもこれは第一人称による述懐の形なので,狂人の妄言かそれとも,創作なのか。そして物語は高校を舞台に移し,助けを求める謎の生徒の話になっていきます。探偵役の生徒・苗場直美と教師の横田が,この謎の生徒探しを始めます。何か淡々と進み過ぎる感じがしますが,最初に示された有り得ない話は合理的に解決します。でもただ単に一発ネタだけって気がしました。
|
「ビネツ」 永井 するみ 2005.07.12 (2005.06.20 小学館) |
☆☆☆ |
大手エステサロンに勤務する和倉麻美は,青山にある高級エステサロン「ヴィーナスの手」のオーナー安芸津京子にヘッドハントされた。このサロンにはかつて「神の手」を持つと言われた,加藤サリという名のエステティシャンが居たが,6年前に何者かに殺害されていた。そして「ヴィーナスの手」でメキメキ頭角を現していった麻美は,サリの再来と言われる様になっていった。 エステなるものにはトンと縁の無い私ですが,この業界の事に関してかなり詳しく述べられているので,スンナリと読むことができました。そしてエステにまつわる女性達の,美への憧れに絡んだ複雑な愛憎が描かれていきます。自分の才能を開花させていく麻美と,彼女に対する同僚の妬み。何事につけても要領のいい綾乃と,彼女に対抗心を燃やす舞。その他多彩な登場人物によって彩られる物語は,読んでいて爽快感は全くないものの,読み応えはあります。でもこれってミステリー仕立てにする必要ってあったんだろうか。サリが殺されたと言う事実が物語にそれ程影響を与えている訳ではないし,綾乃や舞にとっての結末もとって付けた感じになってしまっています。やはり話の中心はエステにまつわるリアルな人間関係だと思うので,そういった部分が余計な気がしました。
|
「博士の異常な発明」 清水 義範 2005.07.13 (2002.03.30 集英社) |
☆☆☆ |
@ 「史上最大の発明」 ... 人類史上で最大の発明とは何だろう。居酒屋で飲んでいた人達は,この話題で盛り上がった。 まず何が一番面白いって言えば,清水さんには失礼ですが表紙の絵。私の年代では,「ハカセ」からのイメージだと,どうしても御茶ノ水博士なのですが,この絵もいいですね。さて科学やら発明だとかをテーマにした短編集なのですが,それぞれにユーモアを交えた面白い話です。中でも「鼎談 日本遺跡考古学の世界」が一番でしょうか。海底に沈んでいた東京都庁やら福岡ドームやらが,1万年後の考古学の対象になっています。遺跡の中から見つかったコンビニ,若者の服装,壁の落書き等から,西暦2000年頃の日本人の生活スタイルを3人の考古学者が推測していきます。推測自体は的を得たものなのでしょうが,結果的に全く違う事になっていってしまいます。現代の考古学って本当に正しいのかどうか,ちょっと心配になってしまいます。それにしても人類史上最大の発明って何なんでしょうね。蒸気機関,電話,製紙,飛行機,数字のゼロ,どれも現代社会に欠かせない物ばかりですね。
|
「虚構金融」 高嶋 哲夫 2005.07.15 (2003.11.25 実業之日本社) お勧め |
☆☆☆☆☆ |
有力地銀の合併に伴う金融庁に対する贈収賄事件が発生した。事件の捜査を担当している東京地検特捜部の後鳥羽検事は,財務官僚の大貫の事情聴取を行った。その後,大貫はマンションから墜落して亡くなり,警察は自殺と断定した。大貫自身に重大な嫌疑が掛かっていた訳ではなく,後鳥羽は大貫の死に違和感を感じ,独自の調査を始めた。 自殺と断定された男の死に疑問を持ち,上からの圧力や様々な妨害にも負けないで,自分が信じる道を突き進む検事。まあ検事が刑事に代わる場合も多いが,物語としては割と良くあるパターンです。でもこの作品は迫力が違います。それは大貫の存在が大きいのではないでしょうか。最初にちょっと出てきて直ぐに死んでしまうので,出番はほんの少しです。でも彼がどの様な人物で,何を考え,何をしようとしていたのかが徐々に判ってくるとともに,彼の存在の大きさが際立ってきて,物語に深みを与えています。こういった疑獄事件と言うと,私はまずロッキード事件を思い浮かべてしまいます。丁度私が大学生時代に起こった事件で,国会での証人喚問など印象的でした。この作品で扱われている事件は,バブル経済破綻によって引き起こされた銀行再編に伴うものです。とても現実的で,実在の人物を彷彿させる描写などもあってリアルです。また政治家や官僚の描き方も通り一遍ではなく,志の高い人物を登場させる事によって,政界,官界の問題点を浮き彫りにしているのもいい。でも現実に戻ると,日本の政治家,官僚のシステムなど,不安材料ばかりで心配になってしまいます。
|
「夜の寝覚め」 小池 真理子 2005.07.19 (2002.10.30 集英社) |
☆☆ |
@ 「たんぽぽ」 ... 恋に落ちた相手は夫の学生時代の先輩。プラトニックな関係を続けた相手は,病気で療養中の身となった。 40代,50代女性を主人公にした恋の話。著者は1952年生まれなので,これらの作品の主人公と同年代なんでしょう。全体的に綺麗で切なさを感じさせる話が多いが,違和感を感じることも事実。そりゃあ,恋に年齢は関係無いのは判りますが,どうしたって不倫の話が多くなるのは仕方の無い事でしょう。嫌な言い方だけど,人生の秋を迎えた人達の最後の輝き,同年代の女性に対する応援歌として,この年代の恋を描いているんだとしたら,好きになれない。私も同年代だからかも知れませんが,不倫が今の自分にとって最も素晴らしい事だとは思えない。もっとも不倫をした事が無いので判らないかも知れませんが。少なくとも不倫などしなくても,この年代を活き活きと過ごしている人がほとんどだと思います。大人の恋,不倫,人生の輝き等を同一視する描き方は不満。
|
「前夜祭」 連城 三紀彦 2005.07.20 (1994.12.20 文藝春秋社) |
☆☆ |
@ 「それぞれの女が…」 ... 不倫相手の妻からの手紙によって相手の死を知らされた女性と,入院中の母親を見舞う娘。 前に読んだ小池真理子さんの「夜の寝覚め」に続いて,不倫の話のオンパレード。でもこちらは不倫を題材にしたミステリーなので,基本的に「恋愛小説」の小池さんの作品とはかなりイメージが違う。それにしても,非現実的な結末が目立つ。「裏葉」や「薄紅の糸」なんて,有得んだろう。そんな中でも「それぞれの女が...」はインパクト有ります。連れ添った夫を亡くした妻に招かれた愛人と,病気の母を見舞い夫と姑の愚痴を言う娘。二つの場面が目まぐるしく入れ替わるのですが,この二組4人の女性の思いがけない関係が良かった。
|
「安達ヶ原の鬼密室」 歌野 晶午 2005.07.22 (2000.01.05 講談社) |
☆☆☆☆ |
交換留学生としてアメリカの高校に入学したナオミは,その町で切り裂き魔による連続殺人が起こっていた事を知った。そしてナオミが通う高校の生徒が,新たにその犠牲者の一人となった。また,太平洋戦争中の疎開先から家出をした兵吾少年は,疲れ果てて倒れているところを老婆に助けられる。老婆が暮らす屋敷で,兵吾は鬼を目撃するとともに,日本兵とアメリカ兵を巻き込んだ大量殺人事件に出くわした。 時期も場所も登場人物も異なる4つの事件が描かれます。上に書いた二つ以外にも,絵本の形になった,大切なオモチャを井戸の中に落としてしまった少年少女。そして別荘で殺された消費者金融社長とその愛人。全く脈絡が無いので,一体どうなってしまうんだと思ってしまいます。事件のショックから精神を病んでしまった兵吾少年の50年後の供述から,「直感探偵」八神一彦は事件の真相に迫ります。とともに社長とその愛人の殺害事件も担当していきます。でもそこはほとんど後半部分なので,ちゃんと最後で収束するのかどうか,他人事ながら心配になってしまいます。密室の謎もさる事ながら,鬼の存在ってどうなるんだろう。しかし読み終わって思わず,「上手い!」。トリッキーな作品って,どこか不自然さと言うか作者の高慢さを感じてしまう面がありますが,ごく自然に読ませてくれます。また最後に出てくる絵本の続きもいい。
|
「骨肉」 明野 照葉 2005.07.25 (2005.03.25 中央公論社) |
☆ |
父親と二人で暮らす三女の美善,実家を出て仕事中心の生活を送る次女の聖美,結婚して二人の子供を育てる長女の真子。ある日,父親がこの三姉妹を家に集めさせた。そして18歳の阿子を紹介し,お前たちの4人目の妹だと告げた。突然父親から隠し子が居た事を告げられた三姉妹は,当然の如く父親と阿子に対する反発を持った。 とても嫌な話で,読んでいて苛々させられました。常識の無い阿子と,彼女を溺愛する父親。それぞれ欠点を抱えながら自分の事しか考えずに,互いに責任を擦り付け合う三姉妹。とにかく登場人物の誰一人にも共感が持てないし,当然の如く好感も持てません。確かにこの様な事は良くある事でしょうし,当事者達の心理状況もこんなものでしょう。でもそれを小説として読まされる読者は辛いですよね。まあ読書に何を求めているのかにもよりますが,少なくとも私が求めているものからは大きく逸脱している気がしました。
|
「検事霞夕子 風極の岬」 夏樹 静子 2005.07.26 (2004.04.20 新潮社) |
☆☆☆ |
@ 「札幌は遠すぎる」 ... 廃業したホテルの一室で見つかった白骨死体。キッカケは警察に掛かってきた一本の電話だった。 女検事・霞夕子シリーズの3作目なのですが,1作目は未読です。東京地検の女性検事の霞夕子を主人公とする連作短編なのですが,今回は北海道の帯広に転勤となっています。2作目の「夜更けの祝電」は倒叙形式をとっていましたが,今回はノーマルな推理物。完璧だと思われた犯人によるトリックが,意外なところから破綻していく様子が描かれます。ここら辺は作者らしい手堅さを感じさせます。また夫で寺の住職をしている吉達と離れての単身赴任なので,やたらと夫との間のメールが目に付きます。携帯などの最新の通信手段をトリックに使う例は増えていますが,ここではあまり関係ありません。さらに舞台が北海道に変わったせいか,北海道の風景の描写が多い気がします。4作それぞれの時期が春夏秋冬になっているのが効果的です。
|
「ROMMY−そして歌声が残った」 歌野 晶午 2005.07.28 (1995.07.05 講談社) |
☆☆☆☆ |
天才ロックシンガーのROMMYは,新作アルバムの製作に取り組んでいた。今日の録音にはイギリスの大物シンガーを迎える事になっており,スタジオには緊張が溢れていた。そんな中,仮眠室で休んでいたROMMYが何者かに殺された。スタジオ内にはごく限られたスタッフしかおらず,外部からの侵入が不可能な事から,内部の者の犯行と思われた。 様々な人物の視点によって語られていくうちに,ROMMYというシンガーの殺人事件は複雑な様相を呈してきます。それとともにROMMYのデビュー前やデビュー後の記述から,スタジオ内にいる登場人物の関係も明らかになってきます。でもそれは真相に近づくものではなく,一層混沌の度合いを深めていきます。一体誰が殺したのかと言うよりも,誰が誰を殺そうとしたのか,そもそも殺されたのは一体誰だったのかすら判らなくなってきます。さらに途中で,冒頭に記された登場人物の一覧表を見たら,さらにこんがらかってしまいました。なかなかネタバレなしに感想を書き難い作品です。最初の手紙もそうですが,時間軸に沿わない構成,随所にはさまる歌詞やイラストなど,いろいろと趣向が施されていて,作者の上手さを感じさせます。ただ明確な探偵役を置かなかったせいか,犯人捜しの部分の論理的な部分が見え辛かった気がします。でも最後の最後で,あの犯行に至る犯人の動機が明らかにされる展開は見事ですが,後味がちょっと悪いですね。
|
「もう一度住みたい」 新津 きよみ 2005.07.29 (2001.08.18 角川春樹事務所) |
☆☆ |
高橋芙美子は念願だったマイホームを手に入れた。競売物件を競り落としたのだが,偶然にも前に住んでいた住人も同じ高橋姓だった。その為,表札はそのまま使う事にした。その後夫が単身アメリカの赴任したため,芙美子は幼稚園に通う息子と二人暮らしを始める。そんなある日,見知らぬ男が「ただいま」と言って高橋宅を訪れた。その男は,先住の高橋家の長男で,7年前に家出していたらしい。 家を買うって怖い部分はありますよね。宝くじとまでは言いませんが,結構賭けの要素がある様に思えます。周りの環境や周囲の住人など,事前にどんなに調べたって,住んでみないと見えて来ない部分があります。競売で手に入れた物件だったら尚更でしょう。ここでは念願のマイホームを手に入れたものの,一人の男の訪問から悪夢のような日々を送る主婦が描かれます。でも怖いなとは思うのですが,話があまりにも薄っぺらです。高橋篤にしろ辻雪絵にしろ,一目でまともじゃないって判ります。そんな人間を簡単に家に上げたり,留守番をさせたり,ましてや泊めたりしますか。そこらへん現実的じゃないので,芙美子が感じている怖さを共感する以前に,彼女に対してイライラしてしまいました。 |