読書の記録(2006年07月)

「贄の夜会」 香納 諒一  2006.07.04 (2006.05.30 文藝春秋社) お勧め

☆☆☆☆☆

 犯罪被害者の会からの帰り道,出席者の二人の女性が殺された。一人は頭を石段に叩きつけられて,もう一人は両手首を切り落とされていた。刑事の大河内は被害者の夫の行動に疑問を持った。その夫は突然失踪してしまったが,彼の捜査に関しては何故か公安からストップが掛かってしまった。そんな中,会にパネラーとして出席した弁護士が,19年前に起きた少年による殺人事件の犯人だった事が判った。

 580ページもあって上下二段組と言うかなりの分厚さの作品ですが,とにかく面白くて長さを感じる事はありませんでした。猟奇的殺人事件の犯人と,それを追う警察と言う所から始まりますが,それだけの単純な話ではありません。プロのスナイパーと猟奇的殺人鬼,さらには彼を裏切った組織との闘い。警察組織内の腐敗と,警察官人生を誤ったエリート警察官。19年前猟奇的殺人事件の犯人だった弁護士。かつての精神鑑定に疑問を持つ女性心理学者。様々な人達を巻き込んで話は進みます。そんな中で警察組織の腐敗を見破り,自分の信念に基づいて行動する大河内がいい。事故で子供を失ってしまった事から妻と別れてしまった大河内。刑事を辞める覚悟をして元妻の所に帰りますが,再び事件の現場に戻って行く大河内。事件の方も先が見えませんが,この二人の行く末も興味深く読む事ができます。そして大河内と目取真を中心に展開される物語は迫力満点で,最後の最後までハラハラドキドキです。

 

「検事・沢木正夫 共犯者」 小杉 健治  2006.07.05 (2006.05.25 双葉社)

☆☆

 東和カルチャーセンターで講師を務める瀬崎勝は,自分のアリバイを確保した上で,共犯者の梅津を使って同センター学長の辻川義和を殺害した。さらに犯行を確実にするため,梅津をも殺して埋めた。瀬崎は一人の女性を巡って辻川から,手を引かないと講師の職を解くと脅されていた。警察も検事の沢木も瀬崎の動機をつかんでいたため,有力な容疑者としていたが,アリバイが崩せず,実行犯との関係も掴めないでいた。

 東京地検の検事・沢木正夫シリーズの3作目です。最初に瀬崎の犯行場面が描かれますので,形としては倒叙作品なんです。でも沢木検事がいかにして瀬崎のアリバイを崩すかと言う興味だけではありません。と言うのは,藤木令を巡る争いが動機だと思われるのですが,どうやらそれがカモフラージュだと判ってきます。それなら本当の動機は何なのか,何故わざわざ自分が疑われる様な行動に出たのか,と言った謎が膨らんできます。それとともに殺したはずの梅津と思われる男が記憶喪失となって現れたりして,サスペンス溢れる展開に移って行きます。でも今一歩物語に入りきれないのは,沢木自体のキャラがあまりにも淡々とし過ぎているからでしょう。この作者に共通して言える事だと思うのですが,主人公を始めとする登場人物に,人間味があまり感じられません。だからどうしても客観的に物語を見てしまう感じになってしまいます。

 

「1ポンドの悲しみ」 石田 衣良  2006.07.06 (2004.03.10 集英社)

☆☆☆

@ 「ふたりの名前」 ... 同棲中の二人は自分の持ち物に自分のイニシャルを入れていた。そんな中,子猫を飼う事になった。
A 「誰かのウエディング」 ... 他人の結婚式は退屈なのだが,結婚式場で働く一人のスタッフ女性が気になった。
B 「十一月のつぼみ」 ... 毎週土曜日に花束を買っていく男性。それに比べて自分の夫は誕生日に何もしてくれない。
C 「声を探しに」 ... 急に声が出なくなってしまったOL。風邪のせいだと思っていたら,心因性の病気だと言われた。
D 「昔のボーイフレンド」 ... 長年付き合ってきた彼と別れてから恋人と長続きしない女性。別れた彼から電話が掛かってきた。
E 「スローガール」 ... そのバーに現れた女性は,どこか周りとのテンポが合わず,場違いな存在に思えた。
F 「1ポンドの悲しみ」 ... 関西のブティック店長をしている彼女と会えるのは月に1回。日曜日の別れが辛かった。
G 「デートは本屋で」 ... 本好きの男性にしか興味の無い女性。職場で知合った男性が本好きだと判った。
H 「秋の終わりの二週間」 ... 周りから散々反対されて結婚した相手は16歳年上の男性。小さいながらも会社の社長。
I 「スターティング・オーバー」 ... かつて同じ製作会社で働いていた者たちが,久し振りに集まって新年会を開いた。

 30歳代のカップルによる恋のお話です。どの話も大人の恋が綺麗に描かれるのですが,やや綺麗過ぎる感じもしてしまいます。何て言うか,いかにもドラマに出てきそうな話なんです。こんな話そんなにある訳ないよなあ。私もそうでしたが,30歳代って大概は結婚していて,子供がまだ小さく,仕事では会社の中心に近づいていって,と言う感じでしょうか。それからすると,30歳代の恋の話と言うのが,私にはピンとこないのかも知れません。もっとも30歳代の男女の話と言うと不倫絡みが多い事を考えると,ここに出てくる話は後味も良く,爽やかな印象です。どの話も,この後の続きを読んでみたくなる様な終わり方がいいですね。

 

「陽気なギャングの日常と襲撃」 伊坂 幸太郎  2006.07.07 (2006.05.20 祥伝社)

☆☆☆☆

 人間嘘発見器の成瀬は,市役所に抗議に来た男が,刃物を持った男に襲われる事件現場に遭遇した。演説名人の響野は,知り合いが遭遇したと思われる,幻の女の行方探しに付き合わされる。正確無比な体内時計を持つ雪子は,人気劇団の招待券の謎に挑んだ。掏りの天才である久遠は,夜の公園で何者かに殴られた中年男と知合った。そんな4人が銀行強盗を行なった際,大手ドラックストア社長令嬢の誘拐事件に巻き込まれた。

 映画化された「陽気なギャングが地球を回す」の続編です。今回はまずギャング4人の日常が描かれ,それぞれ謎解きがなされます。そして本編とも言える第二章以降に入るんですが,いくつもの話が微妙にクロスしていくのは,いつもの伊坂さんらしい。今回は彼らの強盗の話ではなくて,誘拐事件に巻き込まれる話です。4人がそれぞれの特性を活かして行くのですが,ちょっと久遠のスリに頼り過ぎなのが気になります。それにしても最初の4つの話との絡みは上手く出来ています。そして彼らの洒落た会話の数々。ここら辺は伊坂さんのセンスに脱帽します。とにかく読んでいて面白いんですよ。腹を抱えて笑う面白さではなくて,思わずニヤリとしてしまうような可笑しさ。前作に比べてスピード感が減じられていますが,その分いくつもの話が複雑に交錯する楽しさが味わえます。

 

「くらのかみ」 小野 不由美  2006.07.08 (2003.07.31 講談社)

☆☆☆☆

 夏休みに田舎にある本家に集まった親戚一同。古くて大きな田舎の家は,子供たちにとっては格好の遊び場だった。耕介達四人は本家の大学生から教わった「四人ゲーム」をする事になった。真っ暗な四角の部屋の四隅に4人の子供が立ち,順番に肩を叩きながら部屋をグルグル回るゲームだ。当然の事ながら,これは4人では成立するはずが無い。しかしゲームを始めると子供たちは5人になっていた。でも誰が途中から増えたのか判らなかった。

 4人だったはずなのに,いつのまにか5人になってしまった子供達。誰が増えたと言うよりも,誰もが始めから居たと思われる5人。そんな不思議な出来事から始まります。そしてこの屋敷に親戚一同が集まったのは,この家の後継者選びの為で,その後継者の候補者の食事に毒草が入れられる事件が起こります。そして座敷童子を含む子供達は少年探偵団を結成します。講談社ミステリーランド第一回配布の本作は,いかにもその趣旨に合った感じですね。とにかく子供たちが活き活きと描かれています。ワクワクする夏休み,田舎での生活,親戚の友達との出会い,垣間見る大人たちの世界。何か凄く懐かしさを感じさせられるシチュエーションです。私も子供の頃,夏休みには母の実家がある秋田に何度か行きました。子供の頃の楽しい思い出です。さすがに座敷童子には会えませんでしたが,当時を懐かしく思い出してしまいました。

 

「乱鴉の島」 有栖川 有栖  2006.07.10 (2006.06.20 新潮社)

☆☆☆☆

 火村の大家からの紹介で,有栖と火村は孤島で休暇を過ごす事になった。しかし手違いから二人は別の島に連れてこられてしまった。気が付いた時には送ってきた船は帰ってしまっていた。二人が着いた烏島には一軒家があり,そこには数人の人が集まっていた。その中の一人は高名な作家だった事に有栖は驚かされた。そんな時,一人の男がヘリコプターに乗って登場した。彼は有名な若手経営者で,この島に集まっている人達は,クローン人間作成の相談をしていると言った。

 電話も交通も途絶えた孤島で起こった殺人事件。それもそこに集まっていた人達の目的は何だったのか,と言う謎が殺人事件にも繋がる訳です。烏が乱舞する孤島と言う設定なのですが,そう言った不気味さは感じられませんし,孤島に閉じ込められた閉塞感もあまりないんです。でも惹きつけられるのは,やはり殺人事件のバックボーン,つまりクローン研究との係わりの部分でしょうか。二人の子供が出てくるんですが,彼らは何故この島に連れてこられたのか,ちょっと違う想像をしてしまいました。でも,この動機って判る気がします。今を含めた近未来の科学では,クローン人間を創り出す事は可能なのでしょう。この様な考えを持つ人が現れても不思議ではありません。でもそれはそれで,ちょっと哀しい話です。

 

「晩鐘」 乃南 アサ  2006.07.14 (2003.05.20 双葉社) お勧め

☆☆☆☆☆

 事情を知らされず両親と離れて長崎の祖父母に育てられている,兄の大輔と妹の絵里。小学5年生の夏休みを目前に控えたある日,従兄が何者かに殴り殺される事件が起こった。大輔はその事件の裏に,従兄の同級生の女性が絡んでいる事を知っていた。住宅販売会社に就職した真裕子は,いまだに父と姉を許せない気持ちを持ちながら,孤独な毎日を送っていた。そんな中真裕子は,7年前に事件の取材にあたっていた記者の建部と再会を果たした。

 母親を殺害された高校生の高浜真裕子。犯人は母親の不倫相手であり,真裕子が通う学校の教師だった。この事件の被害者家族と加害者家族を描いたのが「風紋」です。本作はその続編に当たり,前作から7年後が描かれます。普通のミステリーでは犯人が捕まれば終わりですけど,実際の殺人事件では,犯人が捕まったから終わりなんて事は無いんでしょう。被害者の家族はもとより,加害者の家族や関係者にとって,一生残る大きな傷を残してしまいます。「哀しみや憎しみは消えても,恨みが残る」。ある犯罪被害者の家族が語る言葉が印象的です。物語自体は大きな展開を見せる事無く,ある意味淡々と進みます。上下2巻に渡る長さなのですが,それでも引き込まれて読んでしまいます。登場人物達の心理描写が上手いんでしょう。特に真裕子の,父,姉,父の再婚相手とその連れ子,建部,大輔らに対する気持ちがヒシヒシと伝わってきます。それに較べて加害者側,ここでは主に大輔になるのですが,こちらには少し辛辣な感じがします。大輔だって被害者には違いないんですけどね。

 

「レストア」 太田 忠司  2006.07.18 (2006.03.25 光文社)

☆☆☆

@ 「夏の名残のバラ」 ... 父が聴いていた時とは違う曲が流れてくると言うオルゴールを持ち込んできた女性。
A 「秋の歌」 ... 喫茶店のウェイトレスから預ったオルゴール。直すよりも買い直した方が安いと思われたのだが。
B 「冬の不思議の国」 ... 鋼の師匠だった人が直したオルゴール。直した後にはメッセージが隠されていた。
C 「春の日の花と輝く」 ... 自分が死んだらこれを売れと言っていた,祖父が残した音が出なくなったオルゴール。
D 「わが母の教えたまいし歌」 ... 姉が持ってきたオルゴール・ペンダント。それはスプリングが切れていた。

 副題に「オルゴール修復師・雪永鋼の事件簿(カルテ)」とありますが,レストアとは修復師の事です。それもオルゴール専門の修復師です。その主人公の鋼(はがね)は,極度の人見知りで病院にも通っています。愛犬ステラとともに暮らす彼の元には,オルゴール・コレクターのマダム等を通じて,様々なオルゴールと供に難題が持ち込まれてきます。何とか人との係わりを避けようとする鋼ですが,曰くつきのオルゴール,持ち主の様々な思いなど,願いとは逆に他人との係わりが増えていく鋼です。アンティーク・オルゴールの持つ謎めいた雰囲気は味わえますが,タイトルにある様な季節感が感じられません。それにしてもアンティーク・オルゴールって凄いですよね。伊豆,那須,小樽あたりのオルゴール館でしか見たり聴いたりした事しかありませんが,音は素晴らしいし,見た目もいいし。1台くらい欲しいのですが,手が出ないのが残念です。聴いた事の無い人は,是非一度聴いてみて下さい。驚きますよ。

 

「遠い約束」 光原 百合  2006.07.20 (2001.03.30 東京創元社)

☆☆☆☆

@ 「消えた指輪」 ... 合宿で出掛けた大学のセミナーハウス。桜子達がお風呂に入っている間に指輪と財布が消えた。
A 「遠い約束1」 ... ミステリファンだと言う大叔父とのかつての出会い。桜子が大人になったら合作をしようと約束した。
B 「『無理』な事件 関ミス連始末記」 ... 関西ミステリサークルの集いでの出来事。講演中の作家が突然倒れた。
C 「遠い約束2」 ... 亡くなった大叔父が残した暗号。30の中の15,と言う言葉から彼が残した遺言に辿り着いた。
D 「忘レナイデ...」 ... 子供からのものだと思われる暑中見舞い。思い当たる小学校時代の知り合いは亡くなっていた。
E 「遠い約束3」 ... 一旦は解明された大叔父の遺言。だが彼の遺言はそれだけでは無い事に気が付いた。

 吉野桜子が大学に合格し,前から入りたかったミステリ研究会に入る所から物語りは始まります。3年生の男子部員が3名(黒田,清水,若尾)しかいないサークル。この個性的な3人と桜子の推理が展開されますが,話の中心は桜子の大叔父が残した暗号です。桜子と大叔父の関係がいい。約束と言うのは時には残酷であったり,時には儚いものだったりしますが,この約束は暖かい。大叔父のこの約束に対する思いが伝わってきます。その分,他の3作が霞んでしまった感じですが,学生達による単なる推理で終わらないのがいいですね。それから各章に付けられた副題ですが,月を表す言葉なんでしょうか。花残月(はなのこりづき),天清和(てんせいわ),早苗月(さなえづき),白南風(しらはえ),風待月(かぜまちづき),夏見舞(なつみまい),文披月(ふみひろげづき),綺麗な言葉ですね。

 

「金雀枝(えにしだ)荘の殺人」 今邑 彩  2006.07.21 (1993.03.05 講談社)

☆☆☆☆

 70年前に管理人一家の無理心中で3人が亡くなったドイツ風の洋館。窓という窓には全て内側から釘が打ち付けられていた。そして昨年,亡くなった持ち主の孫たち6人が集まったクリスマスに,再び惨劇が起こった。またも窓は釘で固定された密室で,あたかも一人ずつ殺され最後の一人が自殺した様に思われた。この館の謎を解くべく,被害者の従兄弟達が訪れた。

 後書きによりますと,「終わりの無いメビウスの環のような物語を創りたかった。」との事ですが,ちょっとその部分はピンときませんでした。確かに現在の館の中,昨年の事件,70年前の事件と言う構造は上手く描かれていると思います。事件が起こった背景にしろ,殺害方法にしろ,密室の謎も,全てロジカルに解き明かされますし,説得力もあると思います。犯人が判る部分の緊張感が高く,犯人自体の意外性も充分です。綾辻さんデビューの2年後に書かれた作品だそうですが,新本格推理として,館モノとして,とてもよく出来た作品だと思いますし,とても面白く読む事ができました。でも一つ判らないのは,これだけ論理的な話になっているのに,幽霊の存在を見る事が出来る女性が登場する事です。何か彼女の存在が邪魔に思えてしまいました。幻想的な雰囲気を出したかったのかも知れませんが,論理性を重視して欲しかった気がします。

 

「眠れぬ真珠」 石田 衣良  2006.07.24 (2006.04.30 新潮社)

☆☆

 45歳になる版画家の内田咲世子は作品のアイディアを練る為に,深夜車を運転して馴染みの店リキッドカフェに顔を出した。そこで彼女は,最近悩まされている更年期障害の症状ホットフラッシュを起こして倒れてしまった。そんな彼女を介抱してくれたのは,店のウェイターをしている17歳年下の徳永素樹だった。歳の差を気にしながらも,咲世子は素樹に惹かれて行った。

 17歳年の違う男女の恋のお話なんですが,やはり違和感を感じてしまいます。まあ他人の恋なんて,年がどれだけ違おうと,立場がどうだろうと,実際の話だったら全く興味を持つ事はないと思います。でも小説として読む場合ですと,二人が互いに惹かれて行く様子だとか,心の動きだとかが気になってしまいます。そして何と言っても自分に置き換えて読んでみたりもします。もし私が28歳だったら,まず45歳の女性とは付き合わないでしょう。別に咲世子さんが魅力的では無いとかそう言う事じゃありません。ただあまり現実的に思えなかっただけです。ところで45歳と言うと私の妻も同じ様な年代です。ですので更年期障害とかの方の話が気になってしまいました。

 

「夢はトリノをかけめぐる」 東野 圭吾  2006.07.25 (2006.05.25 光文社)

☆☆

 朝起きたら人間になっていた猫の夢吉。時あたかもトリノオリンピックを間近に控えており,同居人のオッサン(東野圭吾)とともに冬季オリンピック出場を目指す。まずやってきたのはバイアスロン選手の練習場,さらにノルディックのジャンプ,カーリング,ボブスレーなど等。でも出場は諦めて,トリノへオリンピック観戦に向かった。

 トリノ・オリンピックが開かれたのは,今年の2月10日〜26日だったんですね。荒川選手が金メダルを取ったのが,もう大分昔の事の様に思えます。さて東野圭吾さんがスノーボード好きなのは,エッセイ集の「ちゃれんじ?」で判っていましたが,スノボに限らずウィンタースポーツ全般が好きなんですね。この本の中で述べられておりますが,ウィンタースポーツに係わる環境の悪化と言うのは懸念すべき事なんでしょう。確かにスキーやスノーボードを楽しむ人は一杯いますが,レジャーとしてのスポーツと競技は別物です。練習の場が無かったり,指導者が不足していたり,そして何と言っても競技人口が少ないと言うのは辛いですね。それでもオリンピックで少しでもいい成績を上げて,一般の人からの注目度を上げていくしか無いんでしょうか。トリノでは日本選手の成績は奮いませんでしたが,あれはマスコミ等が勝手に期待させていただけの感が強かったと思います。マスコミも変にその時だけ盛り上げるのではなく,競技そのものが盛んになる様に考えて欲しい気がします。ところで人間になった猫の夢吉の目を通して喋らせているのがいい感じでした。

 

「禿鷹狩り−禿鷹(4)」 逢坂 剛  2006.07.27 (2006.07.15 文藝春秋社)

☆☆☆

 警視庁神宮署の悪徳警官・禿富鷹秋の殺害を依頼された男は,禿富が立ち寄ったスナックのトイレで射殺を試みた。しかし危険を察知した禿富に捕らえられ殺害されてしまう。そして禿富は後始末を渋六の野田達に依頼した。そんな中,神宮署生活安全課には3人の刑事が異動してきた。その一人,女性刑事の岩動は,禿富の不正を暴くために送られてきたらしかった。

 渋谷進出を目論む南米マフィア組織から,極悪刑事の禿富が命を狙われる場面から始まります。禿鷹シリーズの4作目ですが,どうもこのシリーズは好きではありませんでした。主人公の禿富の行動があまりにも常軌を逸しているのと,彼が何を考えているのか全く判らないからです。しかし本作ではその禿富以上にとんでもない人物が登場します。悪徳刑事の禿富の悪を暴くために送り込まれた女性刑事の岩動です。これがまたメチャクチャで,禿富がマトモに見えてしまいます。そのせいか前作までに比べて,禿富の行動が納得できて,周りとのやり取りの面白さを感じる事ができました。そして神宮署にやってきた3人の刑事の狙いや背景など最後まで見えない部分があり,サスペンス溢れる展開でした。これでこのシリーズは終わってしまうんでしょうか。そう思うとちょっと残念な気がします。でも百舌シリーズの事もあるんで,ひょっとするとひょっとするかも知れません。

 

「ぼくとひかりと園庭で」 石田 衣良  2006.07.30 (2005.11.30 徳間書店)

☆☆

 ひぐらし幼稚園に通うあさひとみずきは大の仲良し。特に引っ込み思案のみずきにとっては,あさひ以外の子供と遊ぶ事は無かった。そんな幼稚園に新たにやってきた女の子のひかりちゃん。とっても綺麗な女の子だった。そしてお泊り保育の夜中,あさひはひかりに起こされてトイレに向かった。その時二人は不思議な体験をする。

 絵本なのですが,これって子供が読んだらどんな感想を持つんでしょうか。あさひとひかりは12年後に起こる悲劇を予告され,過酷な試練が与えられます。「子供のための恋愛をテーマにした本が書きたかった」との事ですが,果たして子供はこの物語から何を感じるんでしょうか。「好き」と言う気持ちは純粋ではありますが,その反面残酷な一面を持っています。「好き」の裏には当然「嫌い」と言う感情がある訳ですし,Aも好きだけどBの方がもっと好きと言うように,「好き」と言う気持ちの強弱もあります。そんな「好き」と言う気持ちが,この物語で子供に伝わるんでしょうか。でも大人が読む分には全く問題はありません。

 

「撃つ薔薇−AD2023涼子」 大沢 在昌  2006.07.31 (1999.06.05 光文社)

☆☆☆☆

 2023年,東京は国際化,複雑化した凶悪な組織犯罪に悩まされていた。そういった犯罪組織に対抗するため,警視庁は潜入捜査専門の特殊班を新設した。班のメンバーの一人涼子が受けた指令は,謎の麻薬組織への長期潜入だった。巧みに組織に接近した涼子は,その美貌と頭のキレで,組織で課長を勤めているホーの信頼を勝ち取って行く。

 スパイとして組織に潜入した涼子は,組織のスパイ探しの任務に着きます。そして自分と同じ様に組織に潜り込んだ相手を捜します。組織の中では裏切りが渦巻き,誰が味方か敵なのか判らない中での行動が迫力を持って描かれます。何か全編これハラハラドキドキのサスペンス満載ですね。話は涼子,ホー,龍の3人を中心として進みますが,全く先が見えない展開にドンドン読み進んで行きます。そして組織の中での複雑な対立関係,姿を現さないボスの存在,幾重にも仕組まれた罠等が物語を複雑にします。それとともに,龍に惹かれて行く涼子の複雑な気持ちも,効果的に描かれます。そして最後はちょっとやり過ぎの感が無きにしもあらずですが,とにかく面白さに一気読みです。2023年と言う設定に疑問が残るのですが,凶悪犯罪に悩む社会の描写が弱い気がします。そして涼子の叔父さんが登場しますが,叔父さんはあの人だったんでしょうか。