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■2002年5月16日〜5月31日


5月31日(金)
批評空間【critical space】」の「WEB CRITIQUE」を舞台に繰り広げられる壮絶な論戦
 そもそもの発端は、「批評空間」第III期第2号に掲載された高橋源一郎によるスガ秀実『〈帝国〉の文学』の書評に対する著者本人の反論。これに対する高橋源一郎の再反論(?)が、スガ秀実の怒りの炎に油を注ぐ結果となった。
 それにしても、望んでもいないのにおまえも喧嘩に参加しろと呼びつけられた佐藤泉の発言は、最後に読むとむちゃくちゃ笑える。「
不快ではなくただもうこわい」って、そりゃそうだ。
 とりあえず、今後のなりゆきに注目したい。あと、大杉重男は未読なので要チェックだと思った。


 ルパート・トムソンソフト』読了。次はポール・アルテ第四の扉』。

5月30日(木)
 高橋源一郎君が代は千代に八千代に』の感想に、短編1本の感想を追加。

5月29日(水)
高橋源一郎君が代は千代に八千代に』★★★
「文學界」に掲載された12篇と、「新潮」に掲載された1篇をまとめた短編集。高橋源一郎の純粋な短編集って、もしかしてこれが初めてじゃないだろうか。
 帯には「連作小説集」と書かれている。共通テーマは「一枚の薄いヴェール」だろうか?
 以下、それぞれの作品の内容と簡単な感想。


Mama told me
 ヒロミはポルノ女優。5歳になる息子のケンジは、友達のダイチくんとその妹のキロロちゃんと一緒に、家でママの出演した最新作のビデオを見る。ママと共演者のデブの女優は互いに吐いたものを飲み込みあう。ビデオを見ているケンジとダイチくんも気持ち悪くなって吐く。
 冒頭の作品がいきなりこれ。「AV女優の母とその息子」という題材は他の作品でも使われていたので、またネタを使い回してますね、とつっこみたくなる。それにしても、回想の途中でいきなり小説が終わってしまうこの奇妙な構成はなんだろうか。


Papa I love you
 7歳になる娘をもつ男の頭の中に不意に浮かび上がる「近親相姦」という言葉。「
娘と性交したいという気持ちはカケラもなかった」にもかかわらず、男は激しく動揺する。
 娘の無邪気な質問に答える男の優しくて生真面目で赤裸々な言葉が笑いを誘う。

「あの女の人はどうしてあんなに泣いてるの?」
「それはね、亭主が浮気をして、おまけに性病をうつされたからだよ」
(P.41)

 高橋源一郎の小説に出てくる幼い女の子はとてもかわいらしい。まあ、どれも『さようなら、ギャングたち』のキャラウェイなんだけど。


Mother Father Brother Sister
 タカハシ家は4人家族。父親のテツロウ、母親のセツコ、長男のケンイチ、長女のヒロコ。だけど、ケンイチはすでに死んでいる。イジメられて自殺したのだ。死者であるケンイチは、いるといえばいる、いないといえばいない、そんな存在だった。家族の不毛な会話を端で聞いていることにうんざりしたケンイチは、死者用の「ジョナサン」に向かい、顔なじみのタケシさんと会う。タケシさんはシャブでへたをうって、脚にコンクリートをはかされたまま東京湾に沈められたのだという。

 高橋源一郎が好んで書く「死者」は、コントに出てくる頭に三角の布をつけた幽霊みたいなもので、「死者」であるという記号を身にまとっているものの、それ以外は生者とまったく変わりがない。しかし、死者であるがゆえに、絶対的に生者と隔絶されている。だって、あんた、死んでるんじゃん。

 兄が妹とセックスし、父親が娘とセックスし、母親が息子の家庭教師とセックスし、兄が「死に至る病」にとりつかれて死んでいくという「家庭崩壊」をさらりとした底抜けに脳天気な筆致で語られると、読者としてはひきつった笑いを浮かべるしかない。


殺しのライセンス
「おれ」がテレビを見ていると「ボス」から電話。仕事の話だ。「犠牲者」の写真と報告書をバイク便で届けるという。「殺し屋もの」のパロディ風の作品なんだけど、「おれ」の仕事が具体的に何なのかは最後まで語られない。なんだこりゃ。でも、奇妙な余韻が残る。
 テレビの話題は例によってあからさまに(当時の)流行ものがとりあげられていて、この作品では『ビューティフルライフ』に触れられている。


素数
 少年鑑別所で出会ったテルオとノブヒコの奇妙な交流。ノブヒコは父親をゲンノウで341回殴って殺した。「341回でなきゃならなかったのか?」というテルオの問いに、「そうだよ」とノブヒコは答える。しかし、「ほんとうは561回のつもりだった」という。
 数字を通してしか言葉を語れないノブヒコ。ここで語られているのは、ハンニバル・レクターとクラリスの関係のような、「狂気としての天才」とその天才に選ばれた「唯一の理解者である凡人(のように見える人物)」のバリエーションだ。しかし、クラリスがレクターの助けを必要としたようには、テルオはノブヒコを必要とはしていない。泣ける。


SF
 地球と連絡がとれなくなって3年。観測船の乗組員たちは静かな「狂気」に浸食されつつ生き続けていた。このへんの乗組員の壊れっぷりはおもしろい。でも、奇妙な装置とか結末の処理とか、わりとありがちな不条理ものになってしまうのが残念。


ヨウコ
 スズキは通信販売でダッチワイフを購入した。身長140センチ。バストは68、ウェストは51、ヒップは70。スズキは彼女に「ヨウコ」と名づけた。スズキの職業は小学校の教諭だった。
 妙にリアリティのある細部の描写と、妄想の世界が、いささか調子はずれで暴走気味の文体で語られる。おかしいけど、笑えない。

 
ずっと考えてきたんです。その時が来たらこうしようって。(P.153)


チェンジ
チェンジ(2)
 女とセックスした「おれ」は、寝て目が覚めたら女と身体が入れ替わっていた。といういわゆる『転校生』ネタ。で、女の身体になった「おれ」は、酒場で作家に口説かれる。酔っぱらって意識を失って目が覚めると、今度はその作家になっていた。ここまでが最初の話。作家になった「おれ」が、女になった作家を追い払い、作家にうまいことなり変わろうとする。これが続き。
 ネタも構成も文章もわりと安直な印象。2話もかけて語る内容ではないと思う。


人生
 
いったい、どういうつもりで、おれはこんな小説を書いたんだろう。(P.207)

 って、そんなこと言われても困ります。


君が代は千代に八千代に
 ハルはタクシーのドライバー。ひとりの男を乗せ、タクシーを走らせた。目的地の建物には、ガンジーみたいなやつと、キリストみたいなやつと、マホメットみたいなやつと、仏陀みたいなやつと、レーニンみたいなやつと、毛沢東みたいなやつと、ゲバラみたいなやつと、ヒットラーみたいなやつがいた。男は黒板に「最後の審判」と書いた。「さてその内容ですが」といって、男は黒板にこう書いた。「バトルロワイヤル(原文ママ)」
 という破天荒な内容ながら、なぜかそんなにおもしろくない。なんとなく、作者がはしゃぎすぎているというか、文章に緊張感がないというか、ギャグがおもしろくないというか、いきあたりばったりな印象を受ける。


愛と結婚の幻想
 パーティで知り合った男と女。女は詩人で、子持ちだった。男は詩人を装って女に近づき、口説き落とした。つきあいはじめて、2カ月後に結婚した。
 びっくりするほど直球の小説。高橋源一郎は、こういう文章を書いてもうまい。ブラックな結末は、驚きはないものの悪くない。


鬼畜
 人体改造をテーマにした小説。舌を2つに裂くタング・スプリッティング。舌を伸ばすタング・レンクスニング。舌を切除するタング・リムーヴァル。さらにはペニスを2つ裂くジェニタル・スプリッティング……書いてて気分が悪くなってきたのでこのへんでやめるとして、そういった「身体装飾」を扱うサイトを立ち上げようとしている会社に、そうとは知らずに面接に訪れたタナカが目にした驚異の世界。うわあ。こういうのは苦手だ。しかし、前半から中盤までの「過激さ」と比較すると、結末はいかにもありがちな展開なのがもったいない。

5月28日(火)
 作家に聞こう金井美恵子
 特に目新しいことは語っていないようだけど、個人的メモとして。
 それにしても、「好きな作品アンケート」の作品の選択は、ちょっとはずしている気がしなくもない。結果も、意外というか何というか。特に『小春日和』の人気の高さと『恋愛太平記』の不人気ぶりに驚いた。私がこの中から選ぶとすれば、『岸辺のない海』かなぁ。

5月27日(月)
 昨日の日記の記述で、言葉足らずだった部分を修正しました。


 いつもブラウザのJavaScriptをきっているんで気づかなかったんですが、「mercy snow official homepage」のreadingにpopadが出るようになっていたんですね。「第四の扉」の向こう側が笑えます。
 ポール・アルテ第四の扉』はとりあえず購入済みなんで、追って読むつもりです。流行りものには弱いのです。


Books BY 麻弥」の5/27の日記を読んで、「おたく」と「オタク」も似たようなものかなぁ、と思いました。カタカナ表記の「オタク」って、何となく宮崎事件以降の用語というイメージがあるんですけど、実際のところはどうなんでしょう? 一応、私はひらがな派です。
 ひらがなの「おたく」とカタカナの「オタク」については、以前に大森望が見解を示していた記憶があるんですけど、検索しても見つかりませんでした……。
 ちなみに、「おたく」という単語を認識した個人的にもっとも古い記憶は、1985年くらいに発行された「LOGIN」のアーケードゲーム関連記事内にあった4コママンガです。「おたく」の熱でゲーム機が暴走するというくだらない内容だったんですが、「おたく」って何? 全然、意味がわからない! と頭を悩ませたので、妙に記憶に残っているのです。

5月26日(日)
 メフィスト賞出身作家のなかで、西尾維新は『クビシメロマンチスト』によって舞城王太郎に次いで好きな作家になったんですが、先日アップした『クビシメロマンチスト』の感想は、そのライトノベル・テイスト全開のパッケージを見て、読まずに通り過ぎてしまう人に対して、何とか読むきっかけとなる文章を書きたいと思い、あきらかに作風にそぐわない感想の書き方を意図的にしてみたわけですけど(失敗しているのは自覚しています)、ここしばらく、その方針を押し進める形でどうやって感想の続きを書くか、あれこれ考えてはみたものの、どうにもとっかかりがつかめないので、ひとまずあきらめることにしました。
 西尾作品をいわゆる「本格ミステリ」として評価するということにかんしては、氷川透が「
『本格』書きとしても希望の星なのかもしれません」と書いているので(私は樋口さんの「underground」で知ったんですが)、今さら私があれこれ書く必要もないかな、という気もしています。

 これは個人的な思い入れに過ぎないんですが、1作目はそれほどでもなかったものの、2作目が自分のなかで大ブレイクした作家として、京極夏彦と麻耶雄嵩がいるので、何となく過剰に期待している部分があるのかもしれません。

 余談ですが、「x/y」の回答としては、こちらがいちばん説得力があると思います。同スレには、こんな回答もあるんですけど、さすがにこれは無理があるかな。ちなみに、私は何も思いつきませんでした。

5月25日(土)
 まずは19日の日記で書いた三島賞の選考委員について。

「新潮」のバックナンバーにあたろうと思っているのですが、地元の市立図書館では3年分しか保管していないとのことで、現在、県立図書館に問い合わせてもらっています。というわけで、最終的な確認については、もう少し時間がかかりそうです。
 ただ、とりあえず宮本輝が第1回から選考委員をつとめていたということは確認できました。これは、灯台もと暗しというか、第14回三島賞の宮本輝の選評のなかに「
私は三島賞創設時から選考委員をつとめてきて、ことしで十四年になる」という一文があるので、間違いはないと思います。
 とりあえず、経過報告まで。

 今回、三島賞にかんしてWebで調べてみて、受賞作にかんしては情報がたくさんあるのですが、選考委員については新潮社のサイトも含めてまとまった情報が見つかりませんでした。一応、「新潮」のバックナンバーは第1〜10回までの結果が掲載されているぶんを調べてもらっているので、もし情報がそろったら、リストにしてサイトにアップしようかと考えています。


 浦賀和宏こわれもの』、高橋源一郎君が代は千代に八千代に』読了。

浦賀和宏こわれもの』★★★
 トクマノベルズ初登場!(←「TOKUMA NOVELS」って、どこ探してもカタカナ表記がないんで、「ノベルス」か「ノベルズ」か迷ったんだけど、徳間書店のサイトを見たら、新書のことを「ノベルズ」と表記しているのでこちらを採用)
 当然のことながらシリーズものではなく単発作品。最近の浦賀作品の崩し方(というか、崩れ方?)には正直、あきれていたんだけど、これはなかなか良かった。

 人気マンガ『スニヴィライゼイション』の作者である陣内龍二は、婚約者を交通事故で失ったショックのあまり、作品のヒロインであるハルシオンを物語内で殺してしまう。ファンから殺到する非難と抗議の手紙のなかに、婚約者の死を予言する手紙があった。消印は事故の数日前。その差出人は神崎美佐という48歳の女性で、今は亡き娘が『スニヴィライゼイション』のファンだったことがきっかけで、作品の熱心なファンになったらしい。サイン会の会場で陣内の婚約者の死を予知した彼女は、未来が変えられないことを知りながらも、手紙を送らずにはいられなかったのだという。はじめは予知などあるはずがないと疑っていた陣内だが、彼女の死の予言が的中するのをまのあたりにし、次第に彼女の能力を信じるようになる。
 一方、熱狂的な『スニヴィライゼイション』ファンで、ヒロインのハルシオンを誰よりも愛していると自負するフリーターの三橋は、陣内を激しく憎んでいた。恋人はいるものの、あくまでハルシオンの代替と見なし、職場では上司の横暴な態度に鬱屈した感情を抱えた三橋は、心の支えであったハルシオンを殺した陣内に殺意さえ抱いていた。
 三橋の恋人が陣内のアシスタントとして働きはじめたことをきっかけに、三橋の殺意は次第に現実的なものへと変わっていく。そして、神崎の陣内に対する態度が急によそよそしいものになる……。

 今までの浦賀和宏の作品のおもしろさというのは、何というか、作品の外部(例えば作者自身の「痛さ」とか)による部分が少なからずあったんだけど、この作品は、きちんと物語として閉じており、特殊設定もののサスペンス小説として楽しめた。例えば、人気マンガ家である主人公がファンの非難に対する愚痴を心中で吐露するにしても、今までだと何となく作者自身(浦賀和宏)の影が透けて見えてうんざりすることも多かったんだけど(邪推だろうか)、この作品ではちゃんと物語内の記述として機能しており、そういう意味では安心して読める。
 浦賀和宏に青臭いひねくれた態度を期待している向きには不満かもしれないけど、個人的には今までの作品の中で一番良いと思う。ちなみに、今回は「食人」ネタはない。しかも、意外とさわやかな読後感だったりする。初めて浦賀和宏を読むのであれば、この作品をお薦めする。

 ちなみに、この作品の結末は今年の話題作である
歌野晶午『世界の終わり、あるいは始まり』を彷彿とさせる。今年はこういうのが流行りなのだろうか?

5月23日(木)
KAPPA-ONE 登龍門」4作品をようやく読了。
 一番おもしろかったのは、留保つきながら『密室の鍵貸します』かな。

東川篤哉密室の鍵貸します』★★★
 精緻というにはいささか偶然に頼る部分が多すぎるし、事件の詳細を読者に伝える文章は意味もなくメタな記述があったりして小説としてあまりに杜撰なのだが、トリックの見せ方が非常にうまいと感じた。トリックそのものに目新しさはないものの、「密室」という謎を前面に押し出すことによって、実は「
アリバイトリック」であるということを隠しているわけで、「トリックの種類」をミスリードするという手法は、なかなか有効なのではないかと思う。
 語り口の駄目っぷりも、ここまでくると逆にいっそすがすがしいくらい、というのは嘘だけど、正確にはいちいちつっこみを入れているときりがないので、途中から「こういうものだ」と割り切って読み進んだせいか、作品としてはなかなか楽しめた。でも、次は文章をもうちょっと何とかしてほしい。

林泰広The unseen 見えない精霊』★★★
『再び読者への質問状』を読むまでトリックに気づかなかったのは、やっぱりミステリ読み失格でしょうか?

 その気づけなかったトリックというのは、ミステリの理想ともいえる「ひと言」で言いあらわせるシンプルなものでなかなか感心したんだけど、その反面、状況設定のあまりのご都合主義が気にかかった。物語の舞台は飛行船で、一方通行のドアや、一定時間点灯したあと自動的に消えてしまい、数分たつまで再度つけることができない室内灯など、いかにもトリックの要請といったギミックが配置されており、しかも、なぜそうなっているのかがほとんど説明されないのだ(後者の室内灯については「節約のため」と説明されてはいるものの、納得がいくものではない)。また、事件の見届け人である5人の村人に対して、主人公であるウイザード(綽名)があまりに無防備。基本的に敵対する相手側の人間であるはずなのに、ほとんど無条件に信頼しているように見える。さらに、作品内において超常的な要素の扱いにばらつきがあるのも、パズラーとしては弱いと思う。そもそも、この物語はシャーマンの老婆が死者の言葉を伝えるという形で語られているのだが、「死者の言葉を語る」という行為が「あり」にもかかわらず、ミステリ的に「精霊」の存在を否定しようというのは根本的に矛盾していないだろうか? 前述の見届け人である5人の村人にしても、「嘘を見抜くことができる」という能力があり、その設定を根拠に主人公が推理を組み立てたりするので、読者としては「どこまで許されるのか」を明確に判断することができない。核となるトリックそのものは良いんだけど、その展開に難ありなのが惜しい。

5月22日(水)
 古川日出男アラビアの夜の種族』が日本推理作家協会賞の長編・連作短編集部門を受賞。一応、手の込んだ「殺人トリック」もあるし、まあ、「ミステリ」といっても問題ないと個人的には思います(ちなみに、私の感想はこちら)。
 ともかく、これで公式に「ミステリ」であるというお墨つきが与えられたわけで、ジャンル分類の難しさからランクインはないかと思われた『このミス』でも、もしかしたら結構上位に食い込むかもしれません。


 スズキトモユさん@見下げ果てた日々の企てロバート・R・マキャモン遙か南へ。マキャモンは『マイン』までしか読んでいない罰当たりな読者なんですが、やっぱりこれと『少年時代』は読んでおくべきだろうか。というか、『遙か南へ』はものすごく読みたくなりました。あと、同じくスズキトモユさんが評を書かれていたルパート・トムソンソフトもぜひ読みたいと思っています。


森博嗣朽ちる散る落ちる』★★★
 刊行順ではあいだに番外編的な『捻れ屋敷の利鈍』をはさんではいるけれど、前々作『六人の超音波科学者』の直後から幕を開ける続編で、〈Vシリーズ〉長編第9作。
 前々作の舞台となった土井超音波研究所の地下室で発見された身元不明の死体。現場は完全な密室だった。というのが物語の中心となる事件。こちらは、まあ、いつもどおり。一方、伝聞で語られる、地球に帰還した有人衛星の乗組員全員が殺されていたという事件があり、表4のあらすじに書かれている「
前人未踏の宇宙密室!」という一文を読んでちょっと驚いた。でも、そこに期待すると肩すかしを食う。あくまで伝聞のため、事件の詳細についてはほとんど語られないのだ。

 もともと森博嗣の小説(特に〈Vシリーズ〉)って、キャラの造形とか台詞まわしが「マンガっぽい」けど(漠然としたイメージなので、どこが? と聞かれると説明に困るんだけど)、今作の「そっくりな別人」ネタの扱い方を読んで、改めてそう感じた。森博嗣って、マンガのネームをきるような感覚で小説を書いているんじゃないだろうか。マンガの原稿ではなくネーム。

5月21日(火)
 東川篤哉密室の鍵貸します』読了。パズラーとしてはきわめて良作、ただし小説としてはツッコミどころ多数、といった感じ。詳細な感想は後日、ってこればっかり。

5月20日(月)
 決してネタがかぶっているわけではないんだけど、『マレー鉄道の謎』と『朽ちる散る落ちる』を読んで、某有名作品を連想した(→赤川次郎『三毛猫ホームズの推理』のプレハブ密室殺人トリック)。

有栖川有栖マレー鉄道の謎』★★★
〈火村シリーズ〉の最新刊。多くの読者と同様に私も〈作家編〉よりは〈学生編〉のほうが好きなので、正直なところ、あまり期待せずに読んだ。結論をいえば、それなりに楽しめたが、どちらかといえば不満点のほうが多い。

 まず、個人的に、目張り密室というものにはまったくそそられない。テープの目張りくらいはどうにでも細工ができそうな気がしてしまい、いわゆる「不可能性」という点にかんして魅力が薄いと感じるのだ。映像で見せられれば納得するのかもしれないけど、例えば窓の桟の部分などはどうやってもきっちり目張りできないのではないか、と自宅の窓の構造を見ながら考えてしまう。
 さらに、
犯人が現場に手袋が残さなかったというミスのせいで現場が密室になってしまうというのは、あまりに犯人が間抜けだと思う。「他殺」だと断定する根拠は、もっと些細で気づきにくく、思わず膝をうつようなものを用意してほしかった。まあ、贅沢な望みなのは承知している。

 それから、もう1人の素人探偵に対する火村の態度が非常に気になった。これって「本格ミステリ」にありがちな、警察の「名探偵」に対する態度とほとんど同じだと感じるんだけど、そのことに火村自身(というか、作者?)が無自覚らしいのが引っかかる。事件に介入す立場の正当性や、過去の実績に裏づけされた矜持を後ろ盾に、ずいぶんと言いたい放題。かといって、意図的に厭な人物に描こうとしているようにも見えないし。深読みすれば、「悩める名探偵」に対するアンチテーゼとも受け取れるが、それならもっとやりようがあると思うし、でも、それはやっぱり深読みだよなぁ。

 たぶん、作者には不本意だと思われるが、私がこの小説でおもしろかったのは、ちょっとした会話や語り手である有栖の人間観察や異国の情景描写で、ミステリとしては、「やっぱり〈学生編〉に期待!」という結論になるだろうか。

5月19日(日)_1
 三島賞にかんする記述(5/15,5/17)にかんして、naubooさん@まったりCafeよりご指摘のメールをいただきました。ありがとうございます。許可をいただいたので、そのまま引用させていただきます。

    >先日訂正されている通り、一応、審査員の任期は四年
    >なのですが再選(?、継続?)されることがあります。
    >
    >筒井氏は第一回からの審査員です。宮本輝氏もそうだったと
    >思うのですが判然としません(これについて調べてから
    >メールしようかと思っていたのですが、ネット上には情報が
    >ないですし、今日は図書館が休みでダメでした)。
    >他に中上健次、大江健三郎、江藤淳というのが、
    >第四回までのメンバー。

 というわけで、根本的に認識が間違っていました。あまり詳しくないにもかかわらず、「任期は4年」という言葉をそのまま過去に遡って適用し、もっともらしいことを書いてしまい申し訳ありませんでした。確かに、第1回三島賞を受賞した高橋源一郎『優雅で感傷的な日本野球』についての筒井康隆の選評をどこかで読んだ覚えがある気がします。ネットで調べた範囲では、第7回に筒井康隆と宮本輝が審査員をしていたことまでは(おおよそ)確認できました。この件にかんしては、naobooさんが留保つきで書かれている宮本輝が第1回審査員だったかどうかも含めて、私が事実の確認をして、改めて報告させていただきます。いうまでもないとは思いますが、これはnaubooさんのご指摘を疑っているわけではなくて、私自身の責任においてサイトに書く以上、私自身が事実の確認をする必要があると考えるからです。念のため。
 naubooさんには改めてお礼の言葉を述べさせていただきます。ありがとうございました。


5月19日(日)_2
 これはとっくにどこかで取り上げられているとは思うんですが、高橋源一郎にかんして調べものをしていて見つけた「各界著名人が語るフランス書院文庫への思い」。高橋源一郎の「実は18歳まで誤解していた。オナニーを手でしてなかったんです」とか、島田雅彦の「日本人は女体を“刺身”と捉えていると思います。だから鮮度が高い、つまり若くて清潔なのがいい。一方、フランス人は“チーズ”と捉えているだろうと思います。ある程度の熟成が必要で濃厚な後味もあるし、彼らにとってみれば女の洗練というものもどこかチーズとパラレルな部分があるという感じかもしれない」とか、大槻ケンヂの「今のコギャルはいい。夏も冬もいい。夏はもうダイレクトにいい。堪らん。冬もあのコ−トにマフラ−をしている感じがいい」とか、喜国雅彦の「こういうタイトルの本ばっかり持っているから『マザコンなの?』って疑われる時があるんだけど、絶対に違う。あれは『おかん』という職業でママじゃない」とか、水野晴郎の「昭和30年ごろはみんなこういう風に皇居前でいわゆるアオカンをしていたんですよ」とか、引用しているときりがないんでこのへんでやめておきますが、いろいろな人が思い入れたっぷりに語っていて笑えるやら恐ろしいやら。残念ながらフランス書院文庫は守備範囲外なんですが。


 10000ヒット記念イラストはトップページからはずしました。


 サボリモードで感想が書けません。ごめんなさい。

5月17日(金)
 まずは15日の日記の訂正。「前回の審査員は筒井康隆、宮本輝、高樹のぶ子、福田和也、島田雅彦の5人で、任期は4年なので筒井康隆と宮本輝は今回は抜けているはずで、誰が新たに加わっているんでしょうか?」と書きましたが、「新潮」で確認したところ、第15回の審査員は前回とまったく同じメンバーでした。筒井康隆と宮本輝は第11回から審査員をやっているので、勝手に今回は抜けると思いこんでいました。すみません。

 で、肝心の舞城王太郎は残念ながら選外。まあ、それはいいとして、「新潮」に掲載されるはずの選評で各審査員が舞城作品をどのように評しているのか読むのが楽しみ。


 森博嗣朽ちる散る落ちる』読了。個人的には〈S&Mシリーズ〉より〈Vシリーズ〉のほうが好みなので、結構楽しんでいる。有栖川有栖マレー鉄道の謎』とあわせて、詳細な感想は近日中に。あと、西尾維新クビシメロマンチスト』の感想の続きも。

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