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■2003年6月1日〜6月15日


6月15日(日)
 そんなわけで思いきって告白したけどあっさりとふられた。それはいい。予想してたから。問題なのはその理由。「今は恋愛とかそういう気分じゃないんだよね」と槙田は言った。なんだそれ。十五歳の女子の言う台詞じゃないだろ。もしかして、気を使ってるのか? 「他に好きな人がいる」なんて正直に言ったら傷つくと思ったのかもしれない。でも、そんなこと知ってる。今さら言われても傷ついたりしない。だいたい、槙田がいつまでたっても行動しないから、こっちも妙な期待を持ってしまったのだ。
「烏龍茶ちょうだい」ぼくは投げやりな気分で槙田が手にしている缶に手を伸ばした。「いいよ」「間接キス」「げ」「なめちゃお」「変態。最低。それ、もういらない」槙田は心底厭そうな顔で言うが、すぐに笑ってしまう。ぼくは虚しくなってため息をついた。「女にふられたくらいで、あんまり落ち込むなよ」「おまえが言うな」「のどかわいた。やっぱ烏龍茶返して」「間接キス?」「三秒ルールって知ってる?」「うわ、なにげにひどいこと言ってない?」教壇に並んで腰掛け、ぼくと槙田はくだらないことを喋り続ける。
 こういうのも悪くない。
 不満なわけじゃない。
 うそつけ。

 授業が終わるタイミングで教室の前で槙田が出てくるのを待ち構え、さも偶然とおりかかったような素振りで声をかけた。
「今日は部室に顔出す?」「行くよ」「じゃあ、一緒に行こう」
 部室があるのは、築十七年以上経過している(つまり、ぼくたちが生まれるより前に建てられた!)にもかかわらず、いまだに新校舎と呼ばれている別棟。渡り廊下の手前にある自動販売機の前で立ち止まり、「何か飲む? おごるよ」とポケットから財布を取り出した。槙田はいぶかしげな顔でぼくを見た。当然だ。今までそんなサービスをしたことはなかったのだから。「ちょっと話があるんだ」と言うと、槙田は「なるほど」とうなずいた。「じゃあ、烏龍茶」
 ぼくは小銭を入れ、烏龍茶と自分で飲むための缶コーヒーを買った。先輩たちに聞かれたくないから、という理由で新校舎一階の空き教室に誘うと、槙田は何も言わずについてきた。
 引き戸を開け、教室に入る。真っ白な陽射しが校庭を照りつけていた。室内はひどく薄暗い。教室の隅には使われていない机と椅子が積みあげられていた。埃まじりの湿った空気のにおいがする。ぼくは窓を開け放ち深呼吸した。なま暖かい風が汗ばんだ肌をなでた。振り返ると、槙田は教壇の上に立ち、物珍しげに何も書かれていない黒板を眺めていた。ぼくは槙田を呼んだ。あれこれ悩んだけれど、結局、シンプルに「好きだ。つきあってほしい」と言うことに決めていた。あらかじめ用意しておいた言葉を口にする。
「ごめん」と槙田は言った。「今は恋愛とかそういう気分じゃないんだよね」
 その枯れ果てたような言葉は文字通りの意味ではなくて、ぼくを相手に恋愛する気分ではない、という意味だということをぼくは知っている。坂本晃。二年生の先輩。そもそも、ぼくと槙田が言葉をかわすことになったきっかけは坂本の存在にあった。


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6月8日(日)
 最近、低調気味で更新も滞りがちですが、「群像」7月号に掲載された舞城王太郎の新作長編『山ん中の獅見朋成雄』を読んで、ちょっと復調の兆し。ヘリオテロリズムに簡単な感想を書きました。
 舞城王太郎の場合、あからさまにメッセージ性の強い作品よりは、こういう訳のわからない作品のほうが読んでいて元気が出ます。脈絡がなく、筋がとおっておらず、細部やエピソードが繋がらないまま宙に浮いている。でも、なぜかおもしろいのです。

 なお、「群像」の目次に書かれている説明文は中盤以降の展開のネタバレになっているので、先に読まないよう注意。

6月5日(木)

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 こういう形をしたゲームの敵キャラがいたような気がするんだけど思い出せない。

6月1日(日)

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 小川勝己『ぼくらはみんな閉じている』を読みはじめる。
 今のところ、Googleで「小川勝己 ぼくらはみんな閉じている」で検索して出てくる個人サイトって私のところだけなんですけど……(単行本に言及しているところでは)。

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