読書の記録(1999年 8月)

「柔らかな頬」 桐野 夏生  1999.08.02 (1999.04.15 講談社)

☆☆☆

 高校を卒業と同時に,北海道の寒村から家出して上京したカスミは,東京のデザイン会社に勤めた。会社の社長である森脇と結婚し2児をもうけるが,顧客の社員である石山と不倫関係に陥る。そんなある日,石山が北海道に購入した別荘に森脇一家が招かれる。そこで発生したカスミの長女の失踪事件。何の手がかりも無いまま4年が経過する。森脇と離婚し,石山とも別れて長女を探すカスミのもとに現れた内海と言う元刑事。彼は末期ガンを宣告された身で,カスミの捜索活動に手を貸す。

 前作である「OUT」以降,難解になってきていますねえ。個人的には「ミロシリーズ」の方が好きなんだが。テーマは脱出と言うか解放なんでしょう。それは何も無い家であり,不毛な夫婦生活であり,不倫への罪悪感であり,また行方不明の娘の捜索の絶望感であったりする。そして途中から登場してくる内海であるが,刑事時代の事件への取り組み方に対するアンチテーゼとしての探偵としての捜査。そこで想像される事件の結末の絶望感。娘の失踪事件の結末が主題では無いのだが,いくつかの結末が提示される。しかしそれらは真相に辿り着くものでは無い。その過程での主人公達の内面描写が重い。最後に長女の視点で描かれる章は意図が良く判らなかった。ちなみに本作は121回直木賞受賞作であり,僕にとって今年100作目の記念すべき1作だ。

 

「さらば長き眠り」 原 ォ  1999.08.05 (1995.01.31 早川書房) お勧め

☆☆☆☆☆

 東京を1年以上離れていた渡辺探偵事務所の沢崎が,愛車のブルーバードに乗って戻ってきた。彼を事務所で待っていたのは,桝田と言う一人の浮浪者。彼は沢崎に,ある調査を依頼したいと言う男からの伝言を頼まれていたのだった。沢崎はまず,この依頼者を探し出す事から始めなくてはならなかった。見つかった依頼者は魚住と言う男。だが魚住は調査の必要は無くなったと言う。しかし魚住が何者かに襲われた事をきっかけに,結局彼から調査依頼を受ける事になる。11年前に起こった魚住の,高校野球における八百長疑惑と,彼の姉の自殺の真相を追う。

 凄く面白かった。推理小説における探偵って,傍から見たら滑稽に見えるよね。その滑稽さをデフォルメして描くと,東野圭吾さんの「名探偵の掟」になっちゃうのかもしれないが。それに対して,原ォさんの作品に登場する沢崎と言う探偵は非常にリアルである。リアルだからと言って,別に素行調査や浮気調査ばかりしている訳ではない。前作の「私が殺した少女」では,やたらと警察や暴力団との対立的な立場が強調されていたのに対して,本作はここいらへんのバランスがいい。沢崎が取る行動,ニヒルな言葉に引き付けられる。探偵と言う職業を描いた場合,これしかないのではなかろうかと思えてくる。そして何と言ってもプロットが見事だ。能の世界との関係がちょっと突飛な感じがしないでもなかったが。そして,探偵事務所の所長である渡辺に関して,ついに決着が着けられる。安易な結末と言ってしまえば,それまでなのだろうが,一番妥当だったのかも知れない。デビュー作である「そして夜は蘇る」以来ずっと続いてきた事だけに,これで探偵沢崎シリーズは終りなのだろうか。もう新宿署の錦織や清和会の橋爪や相良との関係は無くなってしまうのか。できたら沢崎が渡辺に辿り着く400日を描いてもらいたいと思う。

 

「どんなに上手に隠れても」 岡嶋 二人  1999.08.07 (1984.09.30 徳間書店)

☆☆☆

 タレントの結城ちひろが,テレビ局のスタジオから何者かに誘拐された。警察への密告電話と,1億円の身代金要求。新製品の発売に合わせて,彼女をCFに起用しようとしていたカメラ会社は対応に苦慮してしまった。宣伝部門,彼女の所属事務所,警察,そしてスクープ映像を追うカメラマンら,数々の思惑が交錯する中,犯人の指示で東京から名古屋に運ばれた身代金は犯人の手に渡ってしまう。

 さすがに「ひとさらいの岡嶋」と言われるだけあって,身代金の受け渡しに関わる場面は,緊迫感に溢れて楽しめた。しかし,身代金奪取のトリック自体は途中で判ってしまったし,真犯人もこれしかないと言う感じなのがどうか。もっとも,そんな事がテーマではなくて,誘拐と言う事態をキャンペーンの中に組み入れるべく奔走する宣伝マンや,とにかくタレントを無事に助けたいと願う女性マネージャー等の動きがメインなのだろう。しかしタイトルを見て,誘拐事件は狂言なのかなって思ってしまったゾ。

 

「珊瑚色ラプソディ」 岡嶋 二人  1999.08.09 (1987.02.25 集英社)

☆☆

 結婚の為,赴任先のオーストラリアから一時帰国した里見を出迎えたのは,婚約者の彩子ではなかった。彼女は結婚を前にして,友人の乃梨子と沖縄を旅行中に,盲腸で入院してしまったらしい。成田から沖縄に直行した里見に,手術を終えた彩子は,沖縄に着いてからの記憶が定かでないと告げる。そして一緒に居たはずの乃梨子の行方は判らなくなっていた。

 沖縄が日本に返還されて大分経ってはいるのだが,高校野球での優勝,安室やSPEEDの活躍など,それが沖縄だから話題になるのはある部分では真実だ。そんな沖縄を舞台にしたサスペンス。何か2時間ドラマの様な感じがしないでもないが,謎が謎を呼ぶ展開,そして最後の最後で明かされる真相,面白い。しかし本当の結末,つまり島の人々がこの後どういう行動を取るのかは語られない。そこら辺がいい余韻を残している。僕としては,診療所の先生を他の島民が説得して,何も無かった事にして欲しいと思うのだが。

 

「三度目ならばABC」 岡嶋 二人  1999.08.10 (1984.10.05 講談社)

☆☆

@ 「三度目ならばABC」 ... 連続ライフル発砲事件。3件目で死者が出た。前の2件は動機を隠す為の偽装だったのか。
A 「電話だけが知っている」 ... 電話のコードで絞殺された男。その部屋に入った事の無い者の指紋が電話に残されていた。
B 「三人の夫を持つ亜矢子」 ... 三人の男性と不思議な生活を送る亜矢子。三人の内一人が殺され,もう一人が容疑者になった。
C 「七人の容疑者」 ... 一人の娘の誘拐事件を巡る容疑者が7人いた。犯人は誰か,そしてカメラを盗んだ者は誰なのか。
D 「十番館の殺人」 ... 仮装して十番館に集まった男の一人がナイフで殺され,容疑者は階段から落ちて死んでしまった。
E 「プールの底に花一輪」 ... プールで女性の水死体が見つかった。その時スイミングスクールに居たコーチが逮捕された。

 「とってもカルディア」に出て来た土佐美郷と織田貞夫が二人探偵役で出てくる。と言ってもこちらの方が先に出たのではあるが。ここでもとんでもない発想をする美郷と,最後の詰めを行う織田と言うパターンで物語りは進行する。解説にも書いてあった通り,この二人と作者である岡嶋二人が何となくダブる。とは言ってもどちらがどっちかは判らないが。長編だと二人の軽さがやたらと鼻に付いてしまったが,短編だとあまり気にならないのが不思議だ。

 

「開けっぱなしの密室」 岡嶋 二人  1999.08.11 (1984.06.04 講談社)

☆☆☆☆

@ 「罠の中の七面鳥」 ... 会社の金を使い込んだ男と,変装して夜のアルバイトに励む女が偶然出会った事から,ある計画が。
A 「サイドシートに赤いリボン」 ... 自殺した男の部屋から出て来た女が,引ったくりに遭った事から,次々と事実が明らかになってくる。
B 「危険がレモンパイ」 ... ビルの屋上での映画撮影中,一人の男が転落死した。彼は何故落ちてしまったのか。一緒にいた物達は。
C 「がんじがらめ」 ... 自殺した姉を見つけた弟は,保険金を受け取る為に他殺に見せかける工作をしたのだったが。
D 「火をつけて,気をつけて」 ... 偶然に連続放火犯を目撃してしまった事から,彼とある取り引きをする事を思い付く。
E 「開けっぱなしの密室」 ... アパートの部屋に大家が勝手に入ってきているのではないかと思った女は,ある事を計画するのだが。

 短編にしてはどれも皆良く出来ている話ばかりで,作者のうまさに感心してしまう。都会の片隅で生きる男や女に突然降りかかる事件。人間の持つ心の強さと弱さ,疑心暗鬼,孤独感,そんな事を強く感じさせる作品だ。ミステリーの短編って,話があっさりしすぎていたり,逆に詰め込みすぎて説明読んでいる感じになりがちだけれど,そこらへんのバランスがいいのだろう。謎の掛け方,解き方が見事だ。

 

「記録された殺人」 岡嶋 二人  1999.08.12 (1989.09.15 講談社)

☆☆☆

@ 「記録された殺人」 ... 公園で殺人事件が起こった。その公園には,調査の為一日中ビデオカメラが回っていた。
A 「バッド.チューニング」 ... 解散したがっている3人組みのバンド,偶然起こった銀行強盗事件。
B 「遅れて来た年賀状」 ... 引越に伴う郵便局への転居通知を利用したアダルト書籍の通信販売の犠牲になった男。
C 「迷い道」 ... 伊豆半島をドライブ中に起こした交通事故によって,死体を始末しなくてはならなくなった男。
D 「密室の抜け穴」 ... 夜中のビルで殺人事件。出入口には警備員が居て,犯人が出入りできる状況ではなかったが。
E 「アウト.フォーカス」 ... 湖に沈められた死体。そこにはある映像会社のビデオカメラが沈んでいた。

 岡嶋二人の短編集を3冊連続して読んだので,ちょっとゴチャゴチャしてしまった。もっとも「三度目ならばABC」は山本山コンビによる連作短編なので,他の2冊とはかなり異なるが,1冊前に読んだ「開けっぱなしの密室」と区別が付かなくなってしまった。やはり短編集は続けて読まない方がいいみたいだ。もっとも前作はデビュー後初めての短編集であり,本作はその5年後の解散の年に書かれた物。こちらの方がトリック重視に思えるが,どの作品も良くまとまっていて,良く出来た短編集だ。

 

「そして夜は蘇る」 原 ォ  1999.08.16 (1995.01.31 早川書房)

☆☆☆

 渡辺探偵事務所に見知らぬ男が訪れた。ルポライターの佐伯と言う男を知らないかと。そして佐伯の行方を問い合わせる女性からの電話が入る。彼女は佐伯の妻で,行方不明の夫を捜しているのだと言う。佐伯の仕事場に渡辺探偵事務所の電話番号が残されていたそうだが,沢崎には思い当たるふしが無い。彼女とともに訪れた佐伯の仕事場で,謎の男の射殺死体を見つける事から,前回の東京都知事選挙における,候補者の狙撃事件に巻き込まれて行く。

 やっと沢崎探偵シリーズを読み終えました。この作品が第一作なんだけど,あまり順番は関係無く楽しめると思います。ですが順番通り,つまり本作,そして「私が殺した少女」「天使たちの探偵」「さらば長き眠り」と読み進めた方がいいでしょう。渡辺と沢崎,そして新宿署の錦織警部と清和会の橋爪等との関係の変化がサイドストーリーとして興味深く読めると思います。ここでも本人の意思に関係なく事件に巻き込まれていくのですが,ストーリーの展開が,他の作品に比べてちょっと冗漫な感じを受けてしまいました。沢崎が訳の判らないままに事件に巻き込まれて行く,それと同時に読者も作品世界に一気に入って行く。ここらへんのテンポが,この後の作品に比べて弱いのでしょうか。そして主人公を際立たせる為なのだろうか,他の登場人物の印象が薄い様に思えます。これも順番通りに読めばいい事だとは思うんですが,内容的にはとても面白い作品です。

 

「なんでも屋大蔵でございます」 岡嶋 二人  1999.08.17 (1985.04.05 新潮社)

☆☆

@ 「浮気の合い間に殺人を」 ... 夫の浮気調査の報告書を盗み出そうとした犯人は,何と調査を担当した探偵だった。
A 「白雪姫がさらわれた」 ... 猫が誘拐された。そして広場にある銀杏の木の上に袋詰めにされて隠されていた。
B 「パンク.ロックで阿波踊り」 ... 記憶を失った男のポケットには大蔵の名刺が入れられていた。
C 「尾行されて,殺されて」 ... 留守中のペットの世話をされた大蔵を尾行していたのは何と依頼人だった。
D 「そんなに急いでどこへ行く」 ... ヒステリックな女性経営者に呼び出された大蔵。呼び出した本人が殺された。

 大蔵=オオクラ,だとばかり思っていたのですが,ダイゾウだったんですね。この二つの名前って,かなりイメージ違う様な気がします。その大蔵はなんでも屋と言うか便利屋をしているのですが,過去の面白い依頼に関して語る形で話しは進んで行きます。ちょっと語り口が軽妙すぎるきらいがあるのが気になりました。まあ過去の事件を語るにはちょうどいいのかもしれませんが,トリックまでが軽く感じられる様な気がしないでもありませんでした。

 

「しのびよる月」 逢坂 剛  1999.08.19 (1997.11.30 集英社)

☆☆☆

@ 「裂けた罠」 ... 交通課の刑事が一人の酔っ払いを署に連れて来た。近くのスナックの前で保護したらしい。
A 「黒い矢」 ... 帰宅途中の女性の近くを通りすぎた暴走族の車。その直後に彼女はボウガンで肩を撃たれた。
B 「公衆電話の女」 ... 夜の公衆電話に入った男を誘う売春婦。捕まえてみたら,ただジャンケンがしたかったと言う。
C 「危ない消化器」 ... 消化器の点検サービスを行う不審な会社。クレームが入ったので調べている途中,別の同業者が現れる。
D 「しのびよる月」 ... 近くに住む女性から,何者かに付けまわされていると言う相談。その男を捕まえたのだが。
E 「黄色い拳銃」 .. 中華料理屋で食事中,二人組の強盗に襲われる。彼らは黄色く塗られた本物の拳銃を持っていた。

 御茶ノ水署の生活安全課に勤務する斉木と梢田は小学校の同級生。優等生だった斉木は係長でいじめっ子だった梢田はヒラ刑事。この組み合わせが面白い。花形の刑事課ではない為,事件も地味だし,二人ともどこか間が抜けているところがいい。公安警察もスペインのスパイも出てこないのですが,どの話も事件の裏にはとんでもない真相があって,なかなか見事な結末を見せてくれる。特に,ストーカーを扱った表題作がお勧め。

 

「白馬山荘殺人事件」 東野 圭吾  1999.08.20 (1986.08.31 光文社)

☆☆☆

 1年前の冬,白馬にある「まざあぐうす」と言うペンションで,菜穂子の兄である公一が自殺した。直前に届いた兄からの手紙の内容から,兄の自殺に疑問を持った菜穂子は,親友の真琴と二人で,このペンションを訪れる。あるイギリス人から購入したと言う,ペンションの各部屋には,マザー.グースの童謡の歌詞が書かれていた。ここに書かれた歌詞に秘められた謎。兄はその謎を解いてしまったから殺されたのだろうか。

 「白馬」は「シロウマ」と読みます。「ハクバ」ではありません。雪解けの頃,白馬岳に残る残雪が馬の形をしている事から付けられた名前です。観光地としてアピールする為に,地名を替える事は良くあるけど,あまり好きではありません。昔から伝えられた名前の美しさを,大切にしてもらいたいものです。全然関係の無い話しになってしまいましたが,作品の方は面白かったです。二つのプロローグで始まり,二つのエピローグで終わる。謎を掛けた本当の理由がせつないですね。ただなぞ解きの部分が,あまり視覚的でない分,ちょっとダレた感じがしてしまいました。ミステリの中で童謡を使う事は良くあるけど,マザー.グースだっただけに一種独特なムードを醸し出しています。

 

「十角館の殺人」 綾辻 行人  1999.08.20 (1991.09.05 講談社) お勧め

☆☆☆☆☆

 大学のミステリー研究会のメンバー7人が無人島にある十角館に合宿でやってきた。この館は昨年,所有者が3人を殺害した上で,放火をすると言う事件のあった屋敷の別館である。そして,この7人のメンバーが一人一人殺されていく。メンバーの内の誰かが犯人なのか,それとも外部の人間の犯行なのか。疑心暗鬼の中で推理が続く。一方合宿に参加しなかったメンバー等の元に謎の手紙が届けられる。差出人は昨年の事件の犯人と目されている人物になっている。昨年の事件の真相は何なのか。そして島に渡った彼らはどうなっていくのか。

 綾辻さんの作品を読むのは初めてでした。「綾辻以降」と言う言葉が使われるくらい,綾辻さんのこのデビュー作が,衝撃的であった事は知っていました。「新本格」がどうのこうのと言うつもりはありません。でも登場人物に青臭い理屈を述べさせたり,お互いを有名推理作家の名前で呼び合ったり,ちょっとイライラさせられました。登場人物同様に作者も青臭い若者で,大学の推理同好会のノリで書いているんだろうなあ,と思ってしまいました。だけどそう思ってしまった事自体,全て作者の意図通りで,作者の思う壺にはまったと言う事だったんでしょうか。6日目の最後の一行には唖然とさせられてしまいました。見事ですよね。たった一つの言葉で全てのカラクリが判ります。これだけ綺麗に騙されると,人物が描けていないだとか,殺害方法に合理性が無いだとか,犯行の動機が納得できないだとか,そんな些細な事をどうこう言う気がしないですよね。

 

「回廊亭の殺人」 東野 圭吾  1999.08.24 (1991.07.25 光文社)

☆☆

 一代で莫大な財を築いた一ヶ原高顕には妻も子も無かった。彼が亡くなった後,遺言状が一族の前で公開される事になり,回廊亭と言う旅館に関係者が集められた。ここに呼ばれたのは,財産の相続権を持つ親族と,弁護士とその助手,そして高顕が生前親しくしていた菊代と言う老婆。実はこの女性,半年前にこの回廊亭で起こった心中事件の後に,自殺したと思われていた高顕の秘書が変装しているのだった。彼女は心中事件の真相を暴き,この一族の中に居るであろう犯人に復讐しようとしているのである。

 最初に回廊亭の見取り図が描かれている。池のある庭を半円形に囲む様に建てられた建物。犯人の侵入経路か,逃走経路が鍵になるんだろうなあ。話としては心中事件の真相と,回廊亭で起きる殺人事件の真相と言う二つの謎が絡み合って,緊迫感溢れた進行となっている。警察側の捜査がさらに拍車をかける。だが,登場人物の描写がやたらと類型的なのと,何と言っても真相がちょっとアンフェアなのではないだろうか。

 

「昨日の殺人」 太田 忠司  1999.08.25 (1991.04.05 講談社)

☆☆☆

 父親が車の事故で亡くなった。それも仲の悪いはずの伯母等と一緒に。その事故の直後に届いた父からの謎の手紙。あれは事故では無かったのではないか。その年の暮れに,作家をしている伯父の家で行われたクリスマス.パーティーで,疑問を伯父にぶつけてみたが,そっけない返事。ますます疑問が深まる。そして伯父の娘の友人が,翌朝死体となって発見される。

 「美奈の殺人」を飛ばして,こっちを先に読んでしまった。前々作の「僕の殺人」では,主人公の中学生二人の淡い恋愛感情が印象的だったが,中学生だから良かったんであって,大学生だと何か変だ。血塗られた一族の過去って言う設定も,ありふれているがあまり現実味が無いよなあ。