「名探偵は密航中」 若竹 七海 2002.06.03 (2000.03.30 光文社) |
☆☆☆ |
@ 「殺人者出帆」 ... アイススケート場で起こった奇妙な殺人事件。その容疑者と目される男が箱根丸に乗りこんだ。 兄から倫敦までの船旅の旅行記を書くように言われて,箱根丸に乗りこんだ龍三郎。その船の中ではいろんな事が起こります。当然龍三郎が探偵役だと思ったのですが,何かちょっと違います。龍三郎は日本に送られてくる旅行記にしか登場してきません。その旅行記も,全然旅行記になっていなくて,酒を飲んだ話ばかりです。まあ全体を通した仕掛けがあるのですが,ここでは個々の話の方が面白いですね。お嬢様の初子と,彼女の連れのナツとヒデのキャラがいいんです。ですから彼女達3人をもっと前面に押し出した方が良かったんじゃないでしょうか。
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「おもしろくても理科」 清水 義範 2002.06.04 (1994.10.31 講談社) |
☆☆ |
@ 「慣性の法則」 ... 走っている電車の中でジャンプすると,何故ジャンプした地点に着地できてしまうんだろう。 自分で言うのも何ですが,私は小学生の頃,とっても勉強が出来たんです。特に算数と理科が好きでした。でも高校に入って,いわゆる物理だとかやる様になって,一気に判らなくなってしまいました。それ依頼全くの理科オンチです。モーターが何故回るのか,テレビが何で映るのか,電子レンジでコンビニ弁当が何故温まるのか,全く判りません。しかしこんな本が出るくらいですから,世の中には私と同じ理科オンチが多いんでしょうね。ちょっと安心してしまいます。ここでは別に理科の専門家でもない清水さんが,理科について簡単に説明しています。書いている事はそれなりに判るんですが,でも別に面白いとは思えませんでした。挿絵を書いている西原理恵子さんの漫画は面白かったんですけどね。ちなみにこれでも慣性の法則は理解できませんでした。
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「花を捨てる女」 夏樹 静子 2002.06.05 (1997.07.20 新潮社) |
☆☆☆☆ |
@ 「花を捨てる女」 ... ベットで寝ているところを,ナイフで心臓を一突きにされて殺された女。彼女の不倫相手に容疑が掛けられた。 「女って恐いなー。」と思わされる短編集です。女性の心理をかなり前面に押し出した作品なのですが,嫉妬やわがままと,それと表裏一体となった愛情や友情が描かれます。夫の気持ちをつなぎ止めたい気持ち,友人の不幸を願う気持ち,老人の世話の裏に隠された気持ち,殺された夫の無念を晴らそうとする気持ち,自分の死と引き換えに周りの者を陥れようとする気持ち。うーん,やっぱり恐いですね。全体的にトリックうんぬんよりも,プロット重視の作品ですが,犯人の意外性の高い「家族写真」と,容疑者が二転三転する「三通の遺書」が良かったですね。最後の「線と点」はちょっと異色。
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「隣の女」 新津 きよみ 2002.06.06 (1998.10.08 角川春樹事務所) |
☆☆☆ |
たった一人の身内である,妹の佳代子を死に追いやった森嶋吾郎。彼への復讐を果たそうと,森嶋に切り掛かろうとした羽田野祥子。そんな祥子の行動を止めたのは,一人の男だった。そしてI(アイ)と名乗るその男は,かわりに森嶋を殺してあげると言った。半信半疑で指示されたアリバイ作りに励む祥子だったが,1週間後に森嶋は死体となって発見された。だが祥子の隣に住む主婦の宮脇まゆみに,このアイの存在を感づかれてしまった。ストーカー被害に悩むまゆみは,祥子に殺し屋であるアイを紹介しろと迫ってきた。 ミステリーに殺人事件は付き物なんでしょうが,「殺し屋」と言う存在が登場するのは珍しいんではないでしょうか。漫画ならいざ知らず,あまり現実的ではない「殺し屋」を小説に登場させると,ちょっと軽い感じになってしまう気がします。でもここでは「殺し屋」の存在自体が一つの謎になっていて,スピーディーな展開と相まっていい感じです。一番面白かったのは,祥子がアリバイ作りをする部分でしょうか。日頃こんな事を考えて生活している人なんていないと思いますが,もし自分だったらどうしようかな何て考えながら読んでしまいました。
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「迷宮 Labyrinth」 倉阪 鬼一郎 2002.06.07 (2000.01.05 講談社) |
☆☆ |
皿沼家はその地方都市で古くから栄えてきた名家だったが,今は以前の面影は無い。精神病棟と外科病棟を持つ皿沼病院を経営しているが,設備の古さもあって閑古鳥が鳴いている状況だ。皿沼家の当主である皿沼伯が病院長を努めているが,娘の皿沼紅が精神病棟に入院中に殺された。皿沼家ゆかりの短剣を胸に刺され,施錠された病室内で死んでいた。 この地方に伝わる不気味な紅姫の伝説,病院の近くで起こった新興宗教の信者による集団自殺,精神病棟に入院している患者達の異様な描写。そんな中で起こった密室殺人事件なのですが,皿沼家の人間達,そして病院のスタッフ達の胡散臭さが目を引きます。そして殺された紅が書き残したとされる「迷宮」と言う名の作中作。そして犯人であろう人物が語る謎の描写。こんな感じで進んで行くのですが,何か雰囲気が変ですよね。捜査に当たる古川警部はいいとして,部下の大石橋のいい加減さ,全く回りと噛み合っていない猫耳の美少女。ホラー的なミステリーを目指したのかも知れませんが,何かチグハグな感じがしてしまいます。
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「荒城の蒼き殺意」 小杉 健治 2002.06.10 (1995.11.15 光文社) |
☆☆☆ |
暴走族の少年に夫を殺された西崎有希は,殺した柳本喬一への復讐の決意を固めるため,かつて夫と旅行した東北への旅に出た。有希はその途中,黒木と言う不思議な男と知り合った。カメラマンだと言う黒木は漁船に乗り込んでいったが,彼の乗った第五加古川丸は嵐に遭って遭難。しかし黒木の遺体だけは発見されなかった。黒木との出会いは,有希の心に微妙な変化を与えた。このまま復讐する事が,自分にとって本当に正しいんだろうかと。 法廷を舞台にした作品や,いわゆる社会派ミステリー作品の多い小杉さんですが,「著者の言葉」にある様に,ここではエンターテイメントに徹しています。それでも少年犯罪や人権派弁護士の話から入るあたりは,いかにも小杉さんらしいですね。話の方は有希の気持ちの変化と,黒木と言う男の謎,そしてクラブ経営者殺害事件の捜査が同時に描かれて行きます。黒木は生きているのか,そして彼は何をしようとしていたのか,そして有希達の復讐はどうなるんだろうか。登場人物の怒りや哀しみの気持ちが良く表れていて,結構盛り上がりますね。最後は「荒城の月」の歌詞を持ち出したりして,切なさ溢れるラストになっていきます。甘ったるい感じがしないでもないですが,小説の面白さは十分に伝わってきます。ところで検事の桐生って,「殺意の川」に出てきた桐生さんなんでしょうか。
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「彼女たちの事情」 新津 きよみ 2002.06.11 (1999.12.29 日本放送出版協会) |
☆☆☆ |
@ 「ホーム.パーティー」 ... ホーム.パーティーに初めて呼んだ客。彼女は夫の大学時代の後輩の妻だった。 ちょっとミステリーっぽい話や,ちょっとホラーっぽい話が混ざった17編の短い作品集です。題名の通り主人公は皆女性で,それぞれにいろんな事情があったり,様々な事に出くわしたりします。どれも皆何となくあり得そうな話で,怖さが伝わってきます。ただ話があまりにも短いので,彼女達の気持ちを味わう前に終わってしまう,と言う物足りなさを感じてしまいました。長くても原稿用紙25枚程度との事ですが,余程ストーリーにキレがないと,苦しいですね。「紫陽花」での狂気,「着物の魔術」の悪意,「シンクロニシティ」の偶然が印象的。
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「刑事部屋」 佐竹 一彦 2002.06.12 (1995.08.30 角川書店) |
☆☆☆ |
@ 「手錠のぬくもり」 ... 前科13犯の盗犯の取調べ。なかなか白状しない犯人は,妻への伝言を頼んできた。 狛江署で交番勤務を8年間続けた片岡幸男は,警察を辞めようとしていた。そんな矢先,人手不足の刑事課で見習い刑事をする事になった。もともと警察を辞める気だったし,慣れない刑事課勤務と言う事で,そこら辺の面白さは十分に感じられます。まともな報告書が書けなかったり,留置場から容疑者の連れ出し方が判らなかったり,先輩刑事のお茶汲みに戸惑ったり。そう言えば,「新任警部補」も素人刑事の話でした。いつもながら警察内部の話には説得力がありますね。この狛江署刑事課盗犯捜査第二係の面々,朝倉潤子さんはともかく安達係長,佐々木主任,関根や中山と言った人物もいいです。片岡もせっかくやる気になったみたいですし,続編が出ないもんでしょうか。
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「ファイアボール.ブルース2」 桐野 夏生 2002.06.13 (2001.08.10 文藝春秋社) |
☆☆ |
@ 「入門志願」 ... 場外乱闘時,一人は傘を渡し,もう一人は木刀を投げた事に文句を付けた。二人は入門志願者だった。 「ファイアボール.ブルース」の続編です。女子プロレスの団体PWPに所属する近田は,看板選手である火渡の付き人をしています。前作ではミステリー色が強かったのですが,今回の連作短編集では,レスラーとしての限界を感じる近田の葛藤が中心に描かれて行きます。どんどん人気の上がって行く同期の選手を尻目に,うだつの上がらない近田。まあ女子プロレスでは,本格的なストロング.スタイルの選手以外だったら,可愛い娘ちゃん路線か,ヒール以外は苦しいでしょうね。火渡に対する憧れの気持ちや,自分自身に対する情けなく思う気持ちが伝わってきます。プロレスに見切りをつけた近田も,自分の信念を貫く火渡もいいのですが,最後のお話はちょっと余計な気がしました。
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「最後の藁」 夏樹 静子 2002.06.14 (1998.06.20 文藝春秋社) |
☆☆☆ |
@ 「最後の藁」 ... ブランデーに入れられていた青酸。だがビンとグラスでは青酸の濃度が違っていた。 『駱駝の背に重い荷物を積んでいく。駱駝はジッと耐えているが,最後に藁一本積みすぎたために耐えきれなくなって倒れてしまった』。英語の譬えですね。殺人を犯す心理って,こういうものかも知れません。我慢に我慢を重ねて,だけどそれが何かちょっとした事が引金になって,殺人を犯してしまう。そんな犯人達の心理面を中心に描いています。ですから犯行の動機が何なのか,と言う点がポイントになっています。またどの話も自殺なのか,他殺なのか,それとも事故なのかが判り辛いのも,いい感じです。
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「正月十一日,鏡殺し」 歌野 晶午 2002.06.17 (1996.09.05 講談社) |
☆☆☆ |
@ 「盗聴」 ... 電話の盗聴が趣味の浪人生。ある日聞こえてきたのは,「カチカチドリを飛ばして欲しい」と言う謎の言葉だった。 「プラットホームのカオス」の中に,電車に轢かれた死体を片付ける駅員が出てきます。実は私も同じ光景を見た事があります。高校生の時だったんですが,ホームで電車を待っている時,いきなり女性の悲鳴が聞こえてきました。そちらの方を見ると,私の5mほど手前で,入ってくる電車に飛び込んだ男の姿が見えました。驚きましたが,もっと驚いたのは駅員の対応の素早さでした。こんな事は日常茶飯事と言った感じで,アッと言う間に轢死体を片付けてしまいました。さて歌野さんの作品を読むのは初めてなんですが,本人はこの作品を「裏本格」だと言っております。探偵が出てくる訳でもなく,犯人が凝ったトリックを使うでもありません。ミステリーっぽくない作品ですが,最後の2作は意表を突いていていいのですが,皆後味の悪い話です。
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「親切な遺書」 夏樹 静子 2002.06.18 (1987.05.25 集英社) |
☆☆☆☆ |
@ 「親切な遺書」 ... 大学の研究室で遺体となって発見された助教授。ワープロ書きの遺書に自筆のサインがしてあった。服毒自殺だと思われたが,遺書に書かれた内容と解剖結果が微妙に食い違っていた。 短編と中編が1作ずつと言う組み合わせ。「親切な遺書」の方は,亡くなっていた助教授の性格からして,こんな事するのかな。そして「心のデッドスペース」の方は,最初の殺人の動機として,こんな事するのかな。そんな動機の面を気にしなければ,見事な謎解きで面白いですね。ところで私の勤務先は銀座8丁目なのですが,ここが事件の現場になっていてビックリ。入った事はありませんが有名な料亭がズラっと並び,銀座中学があって,確かに夜になると銀座とは思えないほど,まわりは暗くなります。料亭の前には黒塗りの高級車が並んでいます。だけどちょっとそこから外れると,人通りも少なく,夜中なんてちょっと恐いですね。でも良く知っている場所が舞台になると,読んでいて臨場感が増します。
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「ペルシャ猫の謎」 有栖川 有栖 2002.06.21 (1999.05.05 講談社) |
☆☆ |
@ 「切り裂きジャックを待ちながら」 ... 劇団の看板女優が誘拐され,身代金を要求するビデオが届けられた。 ミステリー作家の有栖川有栖さんと,臨床犯罪学者の火村英生助教授のシリーズです。このシリーズってトリックが見事だと思っていたのですが,今回の作品は何かちょっと変。ユーモアとして書いたとも思えないし,火村助教授と言う人物の描写に力点を置いた訳でもないですしね。そもそも表題作の「ペルシャ猫の謎」なんか,推理小説でこんな結末ありか?。別にドッペルゲンガーがどうこう言うつもりはないですが,反則なんじゃないですか。「わらう月」のトリックは面白いんですが,ただそれだけって感じだし。唯一二人がでてこない「赤い帽子」が,警察の捜査の展開が緊迫感あって楽しめました。
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「天使が消えていく」 夏樹 静子 2002.06.21 (1999.04.20 光文社) |
☆☆☆☆ |
雑誌記者の砂見亜紀子は,女性医師を取材した際,心臓に欠陥のある赤ん坊と出会った。母子家庭の母親は費用が足りない為に,この子の手術が出来ないと言う。この事を雑誌に取り上げたところ,寄付が寄せられ,無事に心臓手術が成功した。しかし母親は喜ぶどころか,亜紀子に不満をぶつけ,赤ん坊には冷たく当たる。その頃,福岡のホテルで出張中の営業マンが扼殺される事件が起こった。そしてそのホテルのオーナーも続いて毒殺される。 夏樹静子さんのデビュー作で,第15回江戸川乱歩賞の候補作です。2件の連続殺人事件と,赤ん坊の母親である志保の自殺事件が描かれます。前者の方は警察の捜査が中心であり,一つ一つの事実の積み重ねによって真相が明らかになります。そしてこれとは逆に,後者は自殺ではないと確信する亜紀子の調査で,密室トリックの解明や志保や亜紀子の心情が前面に押し出されます。こう言った書き分けがキチンとしていて感心させられます。そして一連の事件は解決を見るわけなんですが,最後に志保の手紙と言う形で,本当の真実が明かされます。なかなか感動的な手紙なのですが,それまでの志保の描写とあまりにも違い過ぎるために,唖然とさせられました。ここら辺,最後の手紙に至る伏線ってあったんでしょうか。私が気が付かなかっただけかも知れません。それとも子供を産んだ母親でなくては気付きにくいものだったんでしょうか。
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「それぞれの断崖」 小杉 健治 2002.06.24 (1998.04.24 日本放送出版協会) お勧め |
☆☆☆☆☆ |
大手コンピュータ会社に勤務する志方恭一郎は,家庭内で大きな問題を抱えていた。長男の恭介の不登校と家庭内暴力だった。仕事上のジレンマに悩む恭一郎はある晩遅く帰宅したが,恭介はその晩帰って来なかった。そして翌朝,警察からの連絡により,恭介の死を知らされた。誰が恭介を殺したのか。恭一郎は長男の通う中学校の生徒を調べるうち,一人の同級生の存在に気が付いた。そして少し前に起こった女性の殺人事件に恭介達が何等かの関係があった事に気付いた。 凄まじい物語ですよね。家庭内暴力に始まって,少年犯罪の被害者になってしまった事から,バラバラになっていく家族。被害者であるはずなのに,子供の人権を振りかざす弁護士や,プライバシーを無視するマスコミ達によって追い詰められて行く志方。さらに仕事上の事でも,企業の論理の理不尽さがのしかかってきます。自分も中学,高校の子供を持つ親なのですが,こんな事になったら辛いでしょうね。そして絶望の淵から,加害者の母親であるはつみに対して志方がとった行動は,意外な方向へと進んで行きます。前半と後半で物語のテーマがかなり変わってしまうのですが,これはこれでいいんでしょうね。加害者である八巻満の異常さや,少年法の問題,そして仕事の矛盾ばかりだったら,修羅場の連続で息が詰まりそうですもん。最後にはつみが選択した行動は,あれで良かったんじゃないでしょうか。再生への希望を思わせるラストに,ホッとさせられました。
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「死の内幕」 天藤 真 2002.06.25 (1995.03.17 東京創元社) |
☆☆ |
内縁の夫から「結婚するから別れてくれ」,と言われた小田ます子は,思わず相手の寺井亮一を突き飛ばしてしまった。転んで頭を家具にぶつけてしまった寺井は,何と死んでしまった。内縁関係にある女性同士のグループのリーダー柏木啓子は,ます子からそんな相談を受けた。他の仲間の平沢奈美や松生と対応策を練り,アリバイ工作の上,発見者を装い,架空の容疑者の目撃情報を警察に話した。しかし偶然にも,架空のはずの人物とそっくりな人物が,犯行現場の近くに住んでいた。 1963年に発刊された天藤さんの第二長編です。さすがに40年も前に書かれた作品なので,いかにBGをOLと言うふうに書き直したと言っても,ちょっと違和感を感じる部分もあります。さてモンタージュ写真と言ってまず思い浮かぶのは,東京府中の3億円強奪の白バイ警官と,グリコ森永事件のキツネ目の男でしょうか。実物見てみたかったんですけどね。ここではでっち上げの証言を元に描かれた,モンタージュ写真そっくりの男が出てきます。事件をごまかそうとする啓子達,容疑者にされそうになる矢尾正吾とその友人,被害者の婚約者のグループと言った3者が入り乱れて,事件の真相を探っていきます。利害関係を異にする3組の探偵の登場ですから,どうしたってドタバタな感じで進んで行きます。登場人物もコミカルなタッチで描かれていくのですが,何故か最後の部分がいきなりシリアスな展開になってしまって,この落差について行けませんでした。
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「沙高楼綺譚」 浅田 次郎 2002.06.26 (2002.05.31 徳間書店) |
☆☆☆ |
@ 「小鍛冶」 ... 焼失したはずの名刀が現代に突然現れた。鑑定を依頼された刀剣の鑑定家は,ある一人の男に行き着いた。 知り合いの刀剣鑑定家に誘われて訪れた場所は,南青山のビルに造られたペントハウス。名前を「沙高楼」と言い,功成り名を遂げた人達が集まる秘密のサロン。ここでは参加者が自分にまつわる秘密の話をし,聞き手は誰にもこの秘密を明かさないのがルール。浅田さんの作品には「天切り松闇語り」と言う,希代の盗人が自分の若い頃の事を語る名シリーズがありますが,それとは全く雰囲気が違います。そちらが人情話なのに対し,こちらはちょっとミステリアスな話。それでも謎解きがあるわけでもないし,アッと驚く結末がある訳でもありません。でも一方的な語りだけではなく,参加している人達の会話などを挿んで,闇語りとはまた別の臨場感が感じられました。まあ功成り名を遂げた著名人の自叙伝と言うと,日本経済新聞の「私の履歴書」が有名です。それらを読むと「私と違って有名になる人はやっぱり違うなあ。」と思ってしまうのですが,そこには書けなかった裏話みたいな雰囲気で続けばいいなと思いました。
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「メトロポリスに死の罠を」 芦辺 拓 2002.06.27 (2002.04.10 双葉社) |
☆ |
廃県置市によって生まれた新.大阪市の維康市長は,市の警察である自治警特捜の支倉遼介を市役所に呼び出した。核物質を積んだ輸送列車が市を通るので,環境団体のメンバーとともに見張って欲しいと言う。その晩,線路の数カ所に配置されたメンバーは,確かにその列車を目撃した。しかし列車は途中で忽然と姿を消してしまった。そして大阪市の環状線の電車が,核物質を持った謎の男達に乗っ取られてしまった。 芦辺さんのガチガチの本格物は好きじゃないんですが,ここまで漫画チックな作品はどうでしょうか。「知性を備えた野獣」こと小野瀬一雄と言う犯人は,以前の他の作品にも登場している様です。列車消失のトリック自体に引かれて最後まで読みましたが,何か読んでいて馬鹿らしくなってしまいました。唯一の期待であったトリックの解明に関しては,ちょっと拍子抜け。「時の誘拐」にも出てきましたが,大阪警視庁だとかの自治警察の話は面白いと思うんですけどね。
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「ブラック.ティー」 山本 文緒 2002.06.28 (1995.03.20 角川書店) |
☆☆ |
@ 「ブラック.ティー」 ... 山手線を一日に何周もする女。彼女の目当ては,網棚に忘れられたカバンだった。 基本的に法律に違反すれば犯罪となってしまうのでしょうが,殺人や誘拐なんかはともかく,いわゆる軽犯罪が厳格に適用されている訳じゃないですよね。ここに登場するのは,犯罪かどうかスレスレの罪を犯す人達。でも何故か彼女らを憎む事はできません。彼女達の気持ちがとても良く伝わってきます。だからいろんな苦労をしたり,嫌な思いをさせられたり,悪い事とは知っているけど,自分勝手なのは充分承知していても,と言う気持ちの裏に,精一杯生きている彼女達が見えてきます。だけど自分では気が付かないけれど,回りに迷惑かけたり,嫌な思いをさせてる事って,結構あるんでしょうね。ちなみに「ブラック.ティー」とは,薔薇の花の種類だそうです。 |