「蟲」 坂東 眞砂子 2003.07.01 (1994.04.25 角川書店) |
☆☆ |
設計会社に勤務する多田純一は,出張先の富士川のほとりで不思議な石の器を拾った。開けてみると不思議な白い玉が見えたが,それはすぐに消えてしまった。純一はその石の器を家に持ち帰ったが,その後,妻のめぐみは不思議な体験をする様になる。子供の頃,祖母に連れて行ってもらった「虫送り」の夢を毎晩のように見る,祖母の声が聞こえる,家電が壊れる。そしてすっかり人間が変わってしまった夫の純一の体から,大きな緑色の虫が這い出す場面を目撃した。 この前買ってきたトウモロコシに虫がついていました。何かの幼虫だったんですが,妻Mはキャーキャーとうるさいので,私がつまんで捨てました。私は都会育ちではないので,子供の頃は結構いろんな昆虫と接してきましたが,さすがに大人になると虫とそんなに縁がある訳ではありません。たまに名前も知らない様な虫をみると,気持ち悪さを感じてしまいます。さてそんな虫に取り付かれてしまう話なんですが,めぐみの心理描写はさすがに上手いのですが,イマイチ気持ちの悪さが伝わってきません。坂東さんの作品では昔話が効果的に使われますが,ここでは「常世蟲」の話の部分がやや弱い感じです。夫が変わっていってしまう部分も唐突だし,最後のどんでん返しに至るところも無理がある様な気がします。それにしても「蟲」って書くと,「虫」って書く3倍以上気持ち悪い感じがします。何か葉っぱの裏にビッシリとくっついた毛虫を連想させられます。
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「気の長い密室」 司城 志朗 2003.07.02 (1999.02.18 角川春樹事務所) |
☆☆☆ |
@ 「自分に向いた職業」 ... アルバイトの面接中に突然声が出なくなった。それから毎日,同じ時間に声が出なくなった。 アルバイト情報誌「フロム.エー」に連載されていただけあって,どの話もアルバイトに係わる奇妙な話です。「ゲノム.ハザード」もそうですが,どの話も主人公を襲う不思議な出来事はかなり意表を突いています。でもオチがイマイチなんですよね。SFと言うかホラー的な作品なんで,それほど論理的に決着がつく訳ではないのですが,肩透かしを食った感じがしてしまう作品がいくつかありました。表題作の「気の長い密室」なんて,ほとんどアンチ本格推理なんで,どうせならこれを1作目にした方が良かった様な気もします。もし自分がこんな事になったら嫌だなと言う怖さがある「悪夢が覚めない」と,ちょっとホロっとさせる「この世の果てから来た女」がお勧めか。
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「完全なる離婚」 天童 真 2003.07.05 (1984.01.10 角川書店) |
☆☆ |
@ 「鷹と鳶」 ... 二人の共同経営者。会社が大きくなってきたので,どちらかが社長にならなくてはいけないのだが。 かなり前に書かれた作品ですから,古さを感じさせる場面が結構あります。「グループサウンズ」何て言葉,今じゃお目に掛かれませんよね。それはいいのですが,何か全体的に雑多な感じがします。ほとんどの作品が夫婦の間の問題を扱ってはいるんですが,ミステリー,SF,サスペンスその他もろもろ。「密告者」と「重ねて四つ」は同じ探偵事務所が出てきて,このシリーズはいいと思うんですが,他に作品は無いんでしょうか。一番不満だったのは,「鷹と鳶」で最後の場面が全く理解出来なかった事。一番のお勧めは「純情な蠍」かな,ちょっと無理がある気がしますが。
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「神々のプロムナード」 鈴木 光司 2003.07.08 (2003.04.25 講談社) |
☆☆ |
学習塾を経営する村上史郎は,小学校以来の友人である松岡邦夫の妻深雪から突然電話を貰った。彼女が言うには2ヶ月前から夫の邦夫が行方不明だと言う。直後は何度か家に連絡はあったものの,最近は何の連絡も無いらしい。深雪からの電話を貰って史郎は,1ヶ月前に邦夫から不思議な電話を貰っていた事を思い出した。それは車の移動を依頼する内容だったが,指定された車のナンバーはあり得ない番号だった。 この作品は,年3回しか発行されない「臨時増刊メフィスト」に連載されていたので,8年間も連載されていたそうです。後書きに書いてありましたが,連載が始まった当時はオウム真理教の問題が大々的に取り上げられていた頃でした。あれだけの事件がほぼ同時に進行していたのでは,小説家はたまったもんじゃないでしょう。ここでは一人の人間が失踪し,友人が調べてみると,同じ頃失踪したのは彼だけではなくて,その影に「天地光輪会」と言う新興宗教がちらつきます。教団による拉致,また教団内部の対立が推測される中,史郎と深雪は徐々に真相に近づいていき,それとともに二人の関係の進展が描かれます。失踪人探しの面白さはあるんですが,ここら辺順調に行き過ぎるのがちょっと気になります。また史郎に掛かってきた邦夫からの電話を1ヶ月も忘れているなんてのが,何か間が抜けてますよね。でもこの深雪って言う,男に頼りきった女の生き方がとにかく気に入りません。だからあのラストは一体何なんだ,と言う気がしてしまいました。オウム事件の関係で最初の構想と違ってしまったんでしょうが,この結末は頂けませんでした。
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「螺旋館の殺人 盗作のロンド」 折原 一 2003.07.09 (1990.01.05 講談社) |
☆☆☆ |
田宮竜之介はかつて人気ミステリー作家だったが,この10年は新作を出さず主に評論と,ミステリー創作講座の講師をしていた。講座で教える若い作家の卵に触発され,また月刊推理社の編集者からの頼みもあって,久しぶりに長編作品に取り組む事になった。田宮は仕事場である秩父の別荘にこもって,作品の構想を練り始める。そんな時,かつての教え子の白河レイコが別荘を訪ねてきた。新人賞に応募する作品を見て欲しいと言うのだが。 「倒錯のロンド」では白鳥翔と言う作家が書いた,「幻の女」という作品が謎の中心となりました。そんな話が出てきたりして,本作は同じ出版社で起こる第二の盗作事件と言った感じです。綾辻行人さんの館シリーズを彷彿させる記述もあって,叙述トリックの匂いがプンプンします。田宮竜之介の手記と,作家デビューを目指す白河レイコや編集者の沢本和彦らの視点が入り混じって進行するのですが,ここら辺にトリックが隠されているんでしょうか。実はプロローグの中で1箇所「アレッ?」と思う記述があり,てっきり田宮竜之介と言うのは,二人の老人による合作のペンネームだと思ってしまったのですが,全然違いました。それにしてもここまで複雑だと訳が判らなくなってしまいます。最後に解説されないと理解できないって言うのは,ちょっとやりすぎなんではないでしょうか。それにしてもプロローグのアレは何だったんだ。まさか誤植じゃないだろうな。
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「桜島一〇〇〇キロ殺人行路」 本岡 類 2003.07.14 (1987.07.05 講談社) |
☆☆☆ |
東京都世田谷区で弁護士夫人が殺害された。夫の三田村行雄が有力な容疑者とされたが,彼には完璧なアリバイがあった。犯行時刻に三田村は,東京から1000キロ離れた鹿児島の桜島におり,東京の事務所に居る秘書からの電話を受け取っていた。転送電話等の細工は見つからず,秘書の証言も信ぴょう性が高かった。事件の迷宮入りが心配される中,警視庁独立捜査班の高月圭一が,この事件に取り組む事になった。 題名からして何となく「お坊さん」が出てくるシリーズかと思ったのですが,違いました。警視庁の中に独立捜査班と言う部署があって,迷宮入りになりそうな事件を専門に扱うと言う想定です。もちろん実際にそんな部署は無いんでしょうが,あったら他の警察署から総スカンを食いそうですね。本作ではそんな対立を描く訳ではなくって,高月と柿沼の捜査が淡々と進みます。その中心は有力容疑者とされる被害者の夫の動機調べと,鉄壁のアリバイ崩しです。実は読む前にパラパラとページをめくっていたら,後半部分に載っているある絵(図)が目に付いてしまいました。これアリバイ崩しの重要なポイントになるので,見なけりゃよかったんですが,後の祭りでした。でもなかなか面白いトリックです。
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「眠りの牢獄」 浦賀 和宏 2003.07.15 (2001.05.05 講談社) |
☆☆☆ |
浦賀は友人の北澤と吉野と,亜矢子の家に泊まった翌朝の出来事だった。亜矢子と地下室に下りようとしたところ誰かに突き飛ばされ,亜矢子と二人階段から落ちてしまった。翌日病院で意識を取り戻した浦賀は,亜矢子が植物人間になってしまった事を知った。それから5年,依然意識の戻らない亜矢子の持ち物を整理する為に,亜矢子の家を訪れた浦賀,北澤,吉野の3人は,亜矢子の兄によって,地下室に閉じ込められてしまった。 事件の真相を調べる為に,被害者側の人間が複数の容疑者を地下核シェルターに閉じ込める,と言うのは岡嶋二人さんの「そして扉が閉ざされた」ですね。そちらがほぼシェルター内でのパニックと真相究明を描く一幕劇なのに対して,こちらはちょっと雰囲気が違います。シェルターに閉じ込められた3人の他に,冴子と沙羅子と言う二人のメールによる完全犯罪の計画が描かれて行きます。あまりにも関係の無さそうな二つの出来事なので,却ってアレを疑ってしまいます。そう思ってしまうと,ちょっと前に戻って読み返してみたりすると,不自然な表現がそこここにあります。でもアレがナニで,コレがソウなるってのは全く判りませんでした。浦賀さんの作品を読むのは初めてなんですが,面白かったですね。結末にはかなり驚かされました。メフィスト賞を受賞してデビューした作家さんだそうですが,他の作品も読んでみたくなりました。と言っても別にメフィスト賞の受賞者を避けている訳ではありません。
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「まほろ市の殺人 春」 倉知 淳 2003.07.16 (2002.06.20 祥伝社) |
☆☆ |
まほろ市の春の風物詩「浦戸颪」が吹き荒れた翌日,幽霊の痴漢に遭ったと憤慨している美波に,友人のカノコから電話が掛かってきた。カノコは「人を殺したかも知れない。」と言う。何でも昨晩カラオケから帰ってきたら,マンション7階のベランダから男が部屋を覗いていて,その男を突き落としたが,死体はどこにも無いらしい。取り敢えず警察に連絡したが,やって来た刑事は真剣に聞いてくれない。しかしカノコが突き落としたと言う男は,その後近くの川でバラバラ死体で見つかった。 「真幌市」と言う架空の町で起こる事件を,4人の作家が春夏秋冬に分けて書いている作品です。どれから読もうか迷ったが,まずは春から。実は以前,浅田次郎さんの「プリズン.ホテル」を読んだ時,最終話である春を最初に読んでしまい,残念な想いをした事が頭をよぎりましたが,本作はあまり関係無いみたいです。友人が殺人事件に巻き込まれた事によって,「僕」こと大学生の湯浅新一と恋人の美波が事件の謎を解こうとするのですが,探偵役は美波の弟で高校生の渉くん。軽めのミステリーなんですが,事件の真相はかなり意表を突いています。でもちょっと現実離れし過ぎの感がありますね。それよりも新一らの会話や行動の方が楽しく読めました。
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「まほろ市の殺人 夏」 我孫子 武丸 2003.07.17 (2002.06.10 祥伝社) |
☆☆☆ |
真幌市に住む新人作家の君村義一に,同じ市内に住む女性からのファンレターが届けられた。二作目の執筆に行き詰っていた君村は,その女性,四方田みずきとのメールのやり取りで意欲を取り戻してきた。そしてそれはみずきへの恋へと変わっていく。そして遂に彼女と会ったのだが,その後彼女との連絡が取れなくなってしまう。友人からの強引な勧めもあって,彼女の家を訪ねる事にした君村だった。 1冊の小説を出版したけど大して売れなくて,2作目に行き詰ってしまっている新人作家の君村。そんな時にファンレターを受け取った君村の気持ちが,良く描かれています。迷った末に返事を出して,そして実際に彼女に会うのですが,そこに現れたのは小学生の妹を連れた若い女性。何か秘密を抱えている様な彼女に引き寄せられていく君村。ミステリーとして読むよりも,恋愛小説として読んだ方がいいのかも知れません。みずき,さつき,つばき,タイトルにもありますが,花の名前を持った3人の女性の謎が印象的です。でも,こんな事ってあるんでしょうか。最後はちょっと気の重くなる様な展開なのですが,この程度の長さの作品なのでくどさが無いのが良かった。でも小山田に関する秘密って,何の必然性も無いんじゃないですか,伏線も無いし。
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「殺し屋シュウ」 野沢 尚 2003.07.18 (2003.05.25 幻冬舎) |
☆☆☆☆ |
畑中修は大学生の時,母を守る為に悪徳警官だった父親を殺した。罪は母が被ることになり,修は父のかつての仲間のツテでアメリカに渡った。殺し屋となる修行のためだった。海兵隊員だったと言う教官から,あらゆる拳銃の扱いと,殺し屋としての心構えを教わり,遂に迎えた卒業試験。マフィアの金を盗んで逃げている男がターゲット。これを無事に成し遂げた修は,「殺し屋シュウ」として日本に帰ってきた。 殺し屋と言う商売が本当にあるのかどうかは知りませんが,あるとしたら,そのイメージはゴルゴ13でしょうか。単なる乱暴者では決してなく,表情も変えずに人を殺す。でもここに出てくる殺し屋のシュウはかなり雰囲気が違います。大学の研究室で真面目に仕事をし,自分に替わって服役している母親に胡麻団子を持って面会に行ったりします。そして何と言っても傷つきやすい性格。ちょっと殺し屋のイメージとは違うところが面白い。そしてそのターゲットになる相手も様々なんですが,殺し屋が出てくる話だとどうしても劇画チックになる傾向がありますよね。
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「猫丸先輩の推測」 倉知 淳 2003.07.22 (2002.09.05 講談社) |
☆☆☆ |
@ 「夜届く」 ... 病気,火災,水害など様々な事を伝える電報が夜毎に届く。出している相手は誰だか判らなかった。 「幻獣遁走曲」に登場した猫丸先輩が様々な推測をします。タイトルにもある様に,「推理」ではなく「推測」です。ですから真実は本当のところどうなのかは判りません。不思議な出来事があって,それはこう言う事なんじゃないか,と猫丸先輩が推測します。その推測が普通の人の考え方とかなりかけ離れているんですが,こう言う考え方もできるんだなあ,と言うところが楽しいですね。「夜届く」の推測なんか見事です。中で紹介されるアイドルタレントのエピソード何か,普通思いもしないけど当たり前の事ですよね。30歳くらいで,小柄で童顔で,いわゆるフリーターの猫丸先輩ですが,このキャラクターがイマイチ好きになれないのが残念。先輩と言うからには後輩が居るわけで,それは八木沢くんと言う猫丸先輩とは180度違う人間。別に彼が全ての話しに出てくる訳ではないのですが,どの話も季節感が良く出ています。それにしても八木沢くんが出てくる話の猫丸先輩は,他の作品と違ってちょっとイメージ悪い気がします。
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「プルミン」 海月 ルイ 2003.07.23 (2003.05.15 文藝春秋社) |
☆☆ |
楠田亮子は宇梶佐智子の家に文句を言いに行った。佐智子の息子の雅彦が亮子の息子の信宏のゲーム機を盗られた事への抗議だった。体格のいい雅彦は他の子供との間でも様々な問題を起こしていたが,佐智子は亮子の文句に耳を傾けなかった。そんな時雅彦が突然苦しみだし,病院に運ばれたが亡くなってしまった。その日雅彦は4人で遊んでいた公園で,女性から乳酸飲料のプルミンを貰って飲んだが,その中に農薬が入れられていた事が判った。 変わったタイトルなんですが,これは架空の乳酸飲料の名前。作品中に架空の名前を使う事は良くあることでしょうけど,それをタイトルにするというのは珍しいですね。さて毒入りの飲み物で殺された子供,それも虐めっ子ですから,虐められた子供の母親の復讐かと思います。前半は子供たちの母親の描写が真に迫ります。いやー,PTAの世界って大変ですね。でも後半になると,ちょっと方向性が変わっていきます。この話の探偵役は亮子という事になるんでしょうが,変ですよ,この設定。あんなわずかなきっかけから真相にたどり着くにしては,亮子のキャラクターが探偵役に合っていないし,そもそも彼女にそんな動機も無いはずです。ですから意外というよりも,はぐらかされた感じがしてしまいました。
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「白亜館事件」 太田 忠司 2003.07.24 (1997.10.31 徳間書店) |
☆☆☆ |
石神探偵事務所を訪れたのは,レストランなどを経営する柊興業代表の柊遼だった。20年前に自殺した兄の凱の死の真相を調べて欲しいと言う。凱は父親の事業を引き継ぐ事を嫌がり,教師を勤めながら恐竜の研究に没頭していた。しかし凱が発見した恐竜の化石が偽者と非難され,病気の妻が自殺した事から,息子の慎也と二人で父親から譲り受けた別荘に篭りきりの生活をしていた。しかしその凱も,恐竜の化石を展示していた白亜館で自殺したと言う。 このシリーズは10作目だそうですが,何作か読んでいる人なら,短編の方はともかく長編の方は,建物に何らかの仕掛けがあるのは判っていますよね。今回は巨大な恐竜の化石が展示されている,プラネタリウム付きの建物です。何かワンパターンなのですが,色々と悩みを抱えてしまう俊介も,俊介に気を遣ってしまう野上も,いつもと同じです。でも弓道部に入った俊介とか,野上とアキの関係とか,ちょっとずつ変化があるのがうれしいですね。さて事件の方は白亜館に集まった関係者達の関係が,いろいろと入り組んでいて,また意外な真相があって楽しめました。でも建物の仕掛けなんて,警察がみたらすぐに判ってしまうんじゃないでしょうか。
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「ディプロトドンティア・マクロプス」 我孫子 武丸 2003.07.25 (1997.07.05 講談社) |
☆ |
京都で探偵事務所を開いた私のもとに,その日は珍しく二人の依頼者が訪れた。一人は若い女性で,大学教授をしている父親が1ヶ月前から行方不明で探して欲しいと言うもの。そしてもう1件は小さな女の子で,駅前の動物園にいたカンガルーのマチルダさんが居なくなったと言う話だった。金になるはずの無い後者の方はともかく,大学教授の行方を追うために,彼の関係者に話を聞いているうち,いきなり暴漢に襲われた。 出だしはハードボイルド。自分のプライドを守るために,大手調査会社を辞めて探偵事務所を開いた“私”。同じビルで獣医をしている沢田や,受付の亮子,仕事の手伝いをしている坂東,と言った配役も,これこそ探偵小説,と言った感じです。行方不明になった大学教授を探すと言う依頼に基づいて,大学の関係者に話を聞いたり,プロと思われる暴漢に襲われるのも,お決まりと言った感じで進行していきます。でも教授が見つかってからは,一体今までのシリアスな展開は何だったんだ,と唖然とさせられます。ユーモア小説と言うか,単なるドタバタ劇で,作者の意図が全く判りませんでした。
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「まほろ市の殺人 秋」 麻耶 雄嵩 2003.07.29 (2002.06.20 祥伝社) |
☆☆ |
真幌市で起こっている連続殺人事件の被害者は,すでに10人を越えてしまった。被害者同士につながりはないものの,何故か死体の左耳が焼かれ,死体の近くには必ず何かが置かれていた。捜査に当たっている天城刑事は,犯人である「真幌キラー」を追う真幌市在住のミステリー作家の闇雲A子から,フトした事から相棒に指名されてしまった。 春,夏に続いて秋を読んだのですが,この秋はちょっとなあ。まずA子と言うキャラクターが良く判らないし,最初の登場の仕方からしても,気に入らないんですよね。妻の耿子(アキコ)に頼り切ってしまう天城刑事もだらしないし,登場人物に納得がいかないと,どうも読んでいて辛いものがあるんですよね。最後に出てくる怪盗何て笑い話もいいところだし,あの結末にも納得いかないし。とは言えこのシリーズのいい所は,100ページちょっとと言う長さでしょうか。最後の有栖川さんの冬に期待しようっと。
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「まほろ市の殺人 冬」 有栖川 有栖 2003.07.30 (2002.06.20 祥伝社) |
☆☆ |
真幌市の冬の風物詩である蜃気楼の話をしながら,双子の兄の史彰と飲んでいた満彦。酔っ払った史彰を車に乗せて家に帰る途中,オートバイの事故に遭遇した。事故を起こしたドライバーは死んでいる様子だったが,近くに現金の詰まったカバンが落ちていた。思わずカバンを家に持ち帰ってしまった満彦は,3000万円が入ったカバンの取り扱いで史彰と口論になり,史彰を殺してしまった。 最初に描かれる三つ子と母親のシーンが印象的ですね。蜃気楼に手を振ったら向こうの世界に連れて行かれてしまう,との母の忠告を破って手を振ってしまった浩和。そして25年後の今,父は無く母はボケてしまって施設暮らし。こう言う入り方に上手さを感じます。ただ結末で明かされる満彦や史彰らに隠された本当の関係には,ちょっとしらけ気味にさせられてしまいました。さて春夏秋冬と一通り読んでみたのですが,こう言った企画自体は面白いと思うのですが,皆軽めな感じなのと,統一感に欠けるのは致し方ない事でしょうか。4作とも冒頭に同じ地図が載せられておりますが,真幌市(マボロシ)を囲む町の名前が,ドイル,クイーン,ダイン,カーとなっているのは何の意味も無かったんですね。ちなみに私の個人的評価は,夏>春>冬>秋と言ったところでしょうか。
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「ふたたびの恋」 野沢 尚 2003.07.31 (2003.06.15 文藝春秋社) |
☆☆☆☆ |
@ 「ふたたびの恋」 ... ベテラン脚本家の室生晃一は休暇のために訪れた沖縄で,かつてのシナリオ教室の教え子の大木新子と偶然に再会した。新子はかつての恋人でもあり,今や室生と違って超売れっ子のシナリオライターだった。 『街で「恋」という文字を見かけても,振り返ることなくやり過ごしてしまうのなら,その人はもう恋愛の引退者である...』。恋愛に引退があるかどうかなんて考えてもいませんでした。と言うよりも,若い頃と違って「恋愛について」何て,最近考えた事無いですね。これは恋愛に関して引退状態と言う事なのでしょうか。まあそれはそれでもいいのでしょうが,本作の様なちょっとさわやかで,ちょっとやるせない,大人の恋の話を読むのはいいもんですね。特に表題作の「ふたたびの恋」がいい。ドラマのシナリオと言う虚構の世界と現実をダブらせたり,でもその両者は全くの別物だと感じさせたり。そしてラストには意外な結末が待っていて,二人の微妙な感情が伝わってきます。そして「さようならを言う恋」も迫ってくるモンありますね。ストーリーは平凡かも知れませんが,映像的なラストが印象的な作品です。何かもう一回,恋をしたいなあ,何て気分になってしまいました。って,そりゃあマズイか。 |