春の白神山地

ブナの観察:エメラルドグリーンからパールホワイトまで

日時:4月29日ー5月5日

行先:下北半島ー脇の沢及び、白神山地、男鹿半島(秋田県)、栗駒国定公園他

分類:縦走及び、自動車による旅行  

【行程記録 】

29.Apr. 10:00 横浜発 16:00 滝沢I/C降りる   

22:00 青森手前50kmにて幕営 30.Apr. 5:00 起床  

10:00 脇の沢野猿公苑到着 湯の上、カモシカ街道付近の散策。国道脇で昼寝をしていたら、カモシカが現れるのは、全国でもここだけではないだろうか。

1.May  9:20 登山道入り口の駐車場出発。国道から登山道へはいるところにスタンドがある。(目印)

13:30 非難小屋到着、白神クラブ(長谷川恒夫発起人)によって建てられた物で、地図には載っていないが、2階建てのすばらしい物である。

2.May 霧のため停滞。付近の調査。クレバスに注意。

3.May  十二湖までの縦走路を行くが、大雪のため引き替えす。マテ山付近でブナの観察を行った後、11:30 下山決定。霧が晴れ、向白神の向こうに岩木山が浮かび上がる。

15:00 雨の中、駐車場到着。男鹿半島へ移動。 4.May 5:30 起床。入道崎にてスケッチ。八郎潟周遊。秋田県から宮城県へ入る。栗駒国定公園にてブナの森観察。郡山手前50kmにて幕営。

5.May  6:30 出発。7:00 本宮より東北I/C入る。NHK FMにて、子供の日の特集として、シューマンが流れる。9:30 浦和I/C出る。富士山を見ながら10:30首都高速、銀座I/C降りる。高島屋デパート、アロワ・カリジェ展へ入る。

参考レコード:佐藤正美 作曲&演奏 ”MOTHER TREE”

【昨日見たブナについて】

 エメラルドグリーン(*注1)を期待してきたが、緑になるのは後10日程先のようである。マテ山付近に着いた時であろうか、向こう側の斜面には、根元が熱を発するかのごときブナの純木の群れが、円盤にのっかった騎士を思わせるように行進していた。また、一本一本の木を注意深く観察してみると、枝の形がさまざまで、面白い物である。枝の最高地点が天に向かってまっすぐに延び、絵はがきのモチーフになりそうな物も有れば、重たかった雪のせいであろうか、地上へ出るなり直角に曲がり、再び天を目指して直角に曲がっているものもあった。この山で最もtypicalなタイプは、左右非対称型で、全体に、黒や緑の苔がへばりついたものであろう。右手を背中へのばし、弓矢を取ろうとしている弾き手の姿を連想させる。さてここで考えた。この軍隊の指揮者は誰だ?

 稜線に出る頃であったろうか。残雪の多いためであろうか、小枝の先だけが地上へ出ているパールホワイト(*注2)の若芽に出会った。不思議に思い立ち止まって周りを見渡すと、樹肌が同じ色をした大木が何本か有った。ここへ来る途中に立ち寄った、八幡平に見られた純白のブナの色とも少し違うように思えた。昨年の暮れ、工藤父母道氏との尾瀬戸倉での散策の中で、「ブナの木はなに色か?」との質問に対して即答できなかった事を思い出した。  パールホワイトの枝の先には、今にもはじけんばかりの真っ赤な成長点が飛び出していた。後一月もすれば始まるであろう、屋久島いなか浜のアカ海ガメの産卵婦の子宮を見る思いがした。このえだのさきから、エメラルドグリーンの歯(葉)が飛び出して空気にふれるのも、後一週間ほどであろうか。

【クマゲラについて】

 一昨年の秋、ヒグマ(の写真)を求めて、大雪山系、白雲岳に入ったとき、数人のプロ&アマカメラマンと出会った。その中の一人に、青森からきている、M氏がいた。登山は全くの素人さんのようであったが、鳥とカメラについては達人と思えた。富良野の東大の演習林(山部町)に、真冬に一週間入って撮ったと言うクマゲラの写真を後に送ってもらい、いたく感動した私は、版画にした思い出があった。尚、その写真は演習林の管理人である相沢氏がNHKのクマゲラ特集の時に全国放送された一枚だそうである。いつかは山部へ行ってクマゲラを見たいと思っていた頃、「内地にもいる」との噂を聞いたのが、先の工藤氏の尾瀬での講演会であった。  「クイーン・クイーン」とそれらしい鳴き声はするものの、とてもプリントには及びそうになかった。霧に覆われたマザートゥリーの一本一本を腰まで雪に浸かりながら幹の遥か上を見上げながら、新宿の高層ビルを見上げながら歩く学生達の如く、私は歩き続けた。かつて自分が隠した宝物を探す姿にもにていたかも知れない。  しかし、青い鳥ならぬ黒い鳥は、身近にいたのである。出発前に、一月後のスイス行きのエアーチケットを予約していた私は、四半世紀近く前に初めて読んだ絵本、”ウルスリのすず”の作者であるアロワ・カリジェの展覧会が高島屋デパートで子供の日までやっている事をNHK日曜美術館で知り、スイス旅行の予備知識も仕入れる為もあって、東北自動車道から直行した。人混みの中、一枚一枚の絵をメモを取りながら見歩いていると、一枚の絵の前で立ち止まった。何と、赤いベレー帽をかぶった真っ黒のキツツキがいるではないか。  

【白神小屋のようす】

 2泊3日のテント生活のつもりで入山したところ、快適な小屋にありつき、ホワイトアウトに見舞われた日なぞは、一日中、そなえつけの「白神小屋日記」を読んでいた。どこの小屋にも見られるものであるが、私はこの風習が好きである。 「イワナは一人3匹以上釣ったらいかん。」と言う台詞がしばしば見られた。かなりの素人でも釣れ、”いれぐい”の川があるらしい。「ダニとヒルに悩まされた4日間の薮漕ぎ。」と言う台詞が2番目に多いであろうか。「弘前大学ワンダーフォーゲル部」の島のようである。”長谷川恒夫氏、死去”のニュースを書く人もいたが、この名前を、ユングフラウヨッホの小屋日誌でローマ字で読んだとき、私には伝わってくるものがあった。

【旅先でみた不思議なもの】

1、脇の沢野猿公苑にいた一人だけ毛並みの違う”自閉症のサル”

2、国道を走っていると、しばしば目につく、”コイン・ランドリー”でもなく、  ”コイン・洗車”でもない、”コイン精米機”

3、秋田になぜか多い、北海道ナンバーの観光車。

  (*注1)エメラルドグリーン  :元来この色は海の色を表す色として使われる事はあっても、森を表す色としてはふさわしくないと思っていた。しかし実際にブナ林の風景を色鉛筆なぞで描いてみるとき、この色の例えが良く解る。灰色や黒色、焦げ茶、オリーブグリーン等で樹肌をまず描き始めるだろうか。その次に葉を描き出すわけであるが、Grass Greenや黄緑、Dark Green等で着色し始める。しかし、これだけではもの足りず、葉と空気が解け合ったときの色として、エメラルドグリーンの必要性を感じる。実に美しい色である。

 (*注2)パールホワイト : 真珠のみならず、アワビやホタテに至るまで貝殻の内側にはこの色がこびり着いている。英語では、Avaronというとこの色をさす。これも同じく海の色を表すのが一般的である。

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