白神山地(世界遺産): 「ブナ林(赤い花・白い花)

 稜線に出る頃であったろうか。残雪の多いためであろうか、小枝の先だけが地上へ出ているパールホワイト(*注2)の若芽に出会った。不思議に思い立ち止まって周りを見渡すと、樹肌が同じ色をした大木が何本か有った。ここへ来る途中に立ち寄った、八幡平に見られた純白のブナの色とも少し違うように思えた。昨年の暮れ、工藤父母道氏との尾瀬戸倉での散策の中で、「ブナの木はなに色か?」との質問に対して即答できなかった事を思い出した。  パールホワイトの枝の先には、今にもはじけんばかりの真っ赤な成長点が飛び出していた。後一月もすれば始まるであろう、屋久島いなか浜のアカ海ガメの産卵婦の子宮を見る思いがした。このえだのさきから、エメラルドグリーンの歯(葉)が飛び出して空気にふれるのも、後一週間ほどであろうか。

【白神小屋のようす】

 2泊3日のテント生活のつもりで入山したところ、快適な小屋にありつき、ホワイトアウトに見舞われた日なぞは、一日中、そなえつけの「白神小屋日記」を読んでいた。どこの小屋にも見られるものであるが、私はこの風習が好きである。 「イワナは一人3匹以上釣ったらいかん。」と言う台詞がしばしば見られた。かなりの素人でも釣れ、”いれぐい”の川があるらしい。「ダニとヒルに悩まされた4日間の薮漕ぎ。」と言う台詞が2番目に多いであろうか。「弘前大学ワンダーフォーゲル部」の島のようである。”長谷川恒夫氏、死去”のニュースを書く人もいたが、この名前を、ユングフラウヨッホの小屋日誌でローマ字で読んだとき、私には伝わってくるものがあった。

  (*注1)エメラルドグリーン  :元来この色は海の色を表す色として使われる事はあっても、森を表す色としてはふさわしくないと思っていた。しかし実際にブナ林の風景を色鉛筆なぞで描いてみるとき、この色の例えが良く解る。灰色や黒色、焦げ茶、オリーブグリーン等で樹肌をまず描き始めるだろうか。その次に葉を描き出すわけであるが、Grass Greenや黄緑、Dark Green等で着色し始める。しかし、これだけではもの足りず、葉と空気が解け合ったときの色として、エメラルドグリーンの必要性を感じる。実に美しい色である。

 (*注2)パールホワイト : 真珠のみならず、アワビやホタテに至るまで貝殻の内側にはこの色がこびり着いている。英語では、Avaronというとこの色をさす。これも同じく海の色を表すのが一般的である。

「地吹雪」


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