「相棒に気をつけろ」 逢坂 剛 2001.09.04 (2001.08.20 新潮社) |
☆☆☆ |
@ 「いそがしい世間師」 ... 仕事の最中に,ジリアン.アンダースンに似た,ちょっと太った女が近付いてきた。 ジリアン.アンダースンってどんな人なんでしょう。何でも「X−ファイル」とか言うのに登場してくる女性だそうですが,そちらも見た事は無いんですよね。でもこの二人の組合せって,何かルパン三世と不二子のコンビみたいな感じです。逢坂さんの作品には連載物の主人公が結構います。その筆頭は岡坂神策でしょうが,百舌シリーズの倉木や大杉,明星,生活安全課の刑事である斉木と梢田ですね。。この四面堂遥と九段南のコンビもそれに加わると,やたらと多い様な気がしてしまいます。まあそれはそうと,この二人組はいわゆる詐欺師です。昨日テレビでやっていた「クイズ.タイム.ショック」の最後で,時の番人の少女の出題した問題。「一文字取ると悪者になる可愛い動物はなああんだ?」。「う」を取って「さぎ」と言うのが答えなんでしょうか。まあ詐欺と言うのは犯罪であって悪い事には違いありませんが,ここでは相手も悪者なんで痛快に描かれて行きます。相手を騙す手口が凝っているのと,二人の微妙な関係が面白いですね。作品の中で日本酒の「澤の井」が出てきますが,このお酒,私の住んでいる東京都青梅市で作っているんですよね。私もたまに飲みます。
|
「未練」 乃南 アサ 2001.09.05 (2001.08.10 新潮社) |
☆☆☆ |
@ 「未練」 ... お気に入りのカレー屋の主人にしつこくからむ男が居た。何でも自分の妻を殺したと言うのだが。 音道貴子さんの登場です。彼女は警視庁の女刑事で,機動捜査隊に所属しています。「凍える牙」で颯爽と登場し,「花散る頃の殺人」,「鎖」に出てきます。前回は散々でしたが,今回その後日談が少し語られたりします。本作は女刑事の活躍と言う話ではなく,どちらかと言うと貴子の周りで起こる様々な事件に間接的に関わる音道刑事が描かれて行きます。何かとても中途半端な感じがしないでもありませんが,デビュー当時のとんがった感じから,かなり柔らかくなった貴子になってきています。でも恋人が突然に出て来たりして,何か話の脈絡が無いですね。結婚した同級生や先輩婦警に対する複雑な気持ち,犯罪や犯罪者に対するストレートな気持ちが伝わってきます。
|
「ただ去るが如く」 香納 諒一 2001.09.07 (1998.10.15 中央公論社) |
☆☆☆☆ |
橋爪優作と市川剛は,自分等が所属する暴力団石和組の幹部を,路線の対立から殺害する。解散となった組を後に,橋爪は市場で働きながら,表に出せない金を専門に強奪すると言う副業を持つ様になる。そんな中,かつての石和組の関係者から,ゴミ不法投棄に絡む3億円強奪の話が舞い込んだ。そしてそこには広域暴力団である共和会の影がちらつく。そこに殺し屋となった市川,石和組組長の娘であるちづる,橋爪の舎弟だった中根らが絡んで行く。 悪者を主役に据える,いわゆるピカレスクでは,その主人公に対していかに共感と言うか,その動機に納得できるかが重要だと思います。ここでの主人公は橋爪なんでしょうけど,ヤクザから足を洗ってまっとうな職業につき,亡くなったとはいえ妻も居た訳ですから,何でこの世界に入らなくてはならなかったんでしょう。これは橋爪だけではなく,市川も,万田も,ちづるも,滋子も皆そうです。主人公に関しては寡黙な男と言う描き方をしているので,そこらへんが判り難いにかもしれませんが,市川なんてほとんど狂っているような気がしてしまいました。「人間は,一人で泣けるけれど,一人では笑えない」。いい言葉だなとは思いますが,何か浮いてしまっている様な気がします。でもストーリーは面白いですし,後半の3億円強奪場面も緊迫感十分です。ストーリーだけだったら,日本推理作家協会賞を受賞した「幻の女」以上だと思うので,ちょっと残念です。
|
「樹縛」 永井 するみ 2001.09.12 (1998.04.20 新潮社) |
☆☆☆☆ |
新築マンションの住人から,マンションの販売会社にクレームの電話が入った。室内で子供が花粉症に似た症状を引き起こしていると言う。調査の結果,床材として使われている秋田杉を使用した「杉テック」と言う商品から,杉花粉と同じポリペプチドが検出された。この商品を作っているウッドクレスト社の研究員である坂本直里はさらなる調査を開始する。その頃秋田県の杉林で,2体の白骨死体が発見された。そのうちの一人は,12年前に駆け落ちして行方不明になっていた,直里の姉の結里だった。 最近シックハウス症候群の話は,良く耳にします。私も2年ほど前に新築マンションを買ったのですが,幸いこの様なトラブルはありませんでした。でも家族4人とも花粉症にもならないので,あまり敏感と言う訳でもないんでしょう。でも私が住んでいる青梅市は杉が多いんですよ。ちょっと奥には奥多摩の山々が広がっているのですが,至る所に杉の植林がされています。春頃には杉花粉が飛ぶんでしょう,車何か薄っすらと黄色くなってしまいます。ところでこちらの作品では,花粉と同じ成分を発する杉の謎と,二人の死体の謎が絡み合って行きます。直里と,もう一方の死体である修造の共同経営者である八田とが,この二つの謎の関係に疑問を持ち,調べて行く訳ですが,普通知らない様な林業や建築といった分野の知識が満載で興味深いですね。でもそれだけではなく,進むにつれて明らかになっていく登場人物それぞれの関係,事の真実が鮮やかです。
|
「水辺の通り魔」 本岡 類 2001.09.13 (1996.08.30 角川書店) |
☆☆ |
東京ウォーターフロントで起こった二つの事件。一件目は新聞配達の学生が出刃包丁で刺されて重傷,2件目は朝帰りのOLが同じく出刃包丁で刺され死亡した。二件とも出刃包丁が凶器として使われた事,同じ地区で起こっている事,そして同じく早朝に起こった事件と言う事から,連続通り魔事件と思われた。捜査に当たった警視庁刑事の畠山と武田は有力な情報の無い中,二つの事件の間に起こった元暴走族の襲撃事件をつかむ。さらに武田の大学時代の友人の死体が見つかった。 私は新橋にある会社に勤めており,会社からはレインボーブリッジも見えます。仕事上「ゆりかもめ」に乗ってお台場の方へ出掛ける事も多いんです。海に面して近代的なビルが立ち並ぶ光景は,なかなか見事なものなのですが,一歩裏通りに入ると昔ながらの家並みが残っていたりします。見ている分にはこのアンバランスさは気にならないのですが,あまり住んでみたい環境とは思えないですね。さてこんな地域で起こった連続通り魔事件。熱帯魚を飼っている男の描写が不気味ですね。犯人は誰かと言うより,刑事達の捜査状況の進展がメインとなっています。ボディビルダーでもある武田刑事と,彼と一緒に暮らす美幸の関係がちょっと不自然で,結末にも強引に関わらせた印象が残りました。サンフランのゴールデンゲートブリッジの話が出てきますが,チマチマした東京のベイエリアと較べて段違いの雄大さですよね。実は私にとって初の海外旅行先がこのサンフランなので,とても印象に残っています。
|
「ものいふ髑髏」 夢枕 獏 2001.09.14 (2001.08.30 集英社) |
☆☆☆ |
@ 「夜の訪問者」 ... 両目の手術で入院した病室。同室の老人には夜中に女性の訪問者の気配が感じられた。 「ドクロ」って言う字,書けますか。私は勿論書けません。他にも薔薇とか,難しい字って結構多いですよね。密かに練習しておいて,何らかの時にサラッと書いて見せて驚かせてみたいと思っています。でも最近難しい字じゃなくても,書けない字って多いですね。実は漢字って得意だったんですけど,パソコンで文章作ってしまうので,忘れていく一方です。さて本作はいわゆる怖い話です。怖いと言うより不思議な話と言った方がいいですかね。表題作の「ものいふ髑髏」は結末がミエミエなのですが,読んでいてその通りになってホッとする感じがいいですね。あとは「二本肢の猫」。これもラストは予想通りなのですが,この語り口がいいんでしょうね。それにしても途中で紙の色が変わるのは何故。
|
「T.R.Y」 井上 尚登 2001.09.17 (1999.07.30 角川書店) お勧め |
☆☆☆☆☆ |
清朝末期の中国,日本人の詐欺師,伊沢修は上海の刑務所の中で,暗殺団の刺客に命を狙われた。そんな彼を助け,さらに脱走の手引きをしたのは,同室の関虎飛(グアン.フーフェイ)だった。関は清政府打倒を企む革命派幹部だったが,伊沢の詐欺の腕を見込んで,革命の為の武器調達を狙っていた。伊沢はかつての仲間である陳,パク,そして関等とともに,日本へ向かう。日本陸軍の大物が詐欺のターゲットだ。 清朝末期の中国を舞台にした小説と言うと,浅田次郎さんの「蒼穹の昴」が思い出されますが,全く違う話です。長く続いた清政府の堕落と革命への機運,欧州各国による中国支配,明治時代の日本。様々な波瀾の要素を含んだ複雑な時代なのですが,自分自身あまり詳しくないのが残念です。とは言え物語の大半は日本です。でも読んでいてワクワクさせられます。とにかく面白いですよ。疑り深い陸軍の大物から大量の武器を騙し取れるのか,伊沢を付狙う殺し屋をかわす事ができるのか,そしてアイリーンとの関係はどうなるのか。出てくる人物も伊沢や関をはじめ,芸者屋の女将,朝鮮人のキムやパク,そして犬の武丸までも,魅力のある人物達です。当然詐欺の場面が中心になるのですが,ちょっとそこに至る過程がまどろっこしいですかね。「強気をくじき,弱きを助ける」と言った伊沢を描こうとするのはいいのですが,ちょっと本題に入るまでがスムーズさに欠ける気がします。しかしどんでん返しの連続となるラストは圧巻。本作は第19回横溝正史賞の受賞作ですが,選評をされている綾辻行人さん,宮部みゆきさん,北村薫さん等が絶賛したのもうなずけます。
|
「パラダイス.サーティー」 乃南 アサ 2001.09.18 (1992.11.25 実業之日本社) |
☆☆ |
通勤電車では痴漢に会い,見合い話は断られ,家に帰れば両親の離婚話。いい加減嫌気がさした大山栗子は家を飛び出し,幼なじみの菜摘のマンションに身を寄せる。二人とも30歳を目前にした独身女性なのだが,普通のOLである栗子に対して,菜摘はレズビアンでバーの経営者。ある晩菜摘が家に連れてきた常連客の古窪伸に,栗子は一目惚れ。苦労の甲斐あって,古窪と付き合う様になった栗子。一方菜摘の方は,ヤクザの妻である紘子に思いを寄せていた。 吉田拓郎の「ローリング.サーティー」を聴いたのは,私がまだ20代の前半だった頃だと思います。「♪ローリング.サーティー,動けない花になるな。ローリング.サーティー,飛び立つ鳥になれ。」,こんな歌詞だったと思います。当時は自分が30歳を向かえる事があるなんて,考えてもいない時代でした。さてここに登場する二人の女性は,ともに29歳の独身。いろいろと思うところがあるんでしょう。ここ等辺の気持ちは,男性にとって判り辛いところもあるんでしょうね。それでも古窪にのめり込んで行く栗子には,「おいおい,ちょっと」と言う気になってしまいます。少々人物の描き方が安易な気がして,作品全体を軽くしてしまっている感じがします。ところで私は30歳の誕生日を,結構ショックを持って向かえましたが,40歳の誕生日はほとんど知らない間に過ぎてしまいました。
|
「警視庁公安部 潜入捜査」 佐竹 一彦 2001.09.19 (1997.11.25 角川書店) |
☆☆ |
日本リンツ商事の広報室に勤務する係長の加納は,ある朝警視庁公安部の柳沢警視からの電話で起こされた。日本リンツ環境事業部の三島部長に,捜査二課の捜査が入りそうだとの事だった。官僚に対する贈賄の疑いだそうだが,それとは別に三島が会社には内密で中近東に出掛けた事があり,公安部からマークされているとも言う。加納は実は警視庁公安部の警部補なのだが,潜入捜査の為,日本リンツの社員となっている人間だった。 この手の小説に公安の刑事が出てくる場合,必ず好意的には書かれていない様な気がします。あまり警察内部の事に詳しくはないのですが,特に公安部って何をやっているんだか全く判りません。過激派や要注意人物のマークをしたりとかの,イメージしか無いですね。でも個別の会社を調査する為に,社員として送り込んだりするんでしょうか。加納の場合,新卒から係長までですから,一体何年掛かっているんでしょう。(私は6年掛かりましたが)。何かそんな事ばかりが気になってしまいます。まあそれはいいのですが,最後の方ではアレヨアレヨと言う間に話がどんどん大きくなって,その割にあのラストは無いんじゃないですか。
|
「幻想運河」 有栖川 有栖 2001.09.21 (1996.04.25 実業之日本社) |
☆☆ |
シナリオライターを目指す山尾恭司は,世界各地の放浪の旅に出た。今はオランダのアムステルダムに居付いている。日本食の食堂で働き,同じくアムスに住む日本人や,オランダ人の友人もでき,恭司にとっては居心地のいい国だった。ある日彼は友人達から,ドラッグ.パーティーに誘われる。かつてインドに居た時に初体験したドラッグであったが,その時と違って今回の体験は,恭司にとって多いに満足のいくものだった。そんなある日,友人の一人である水島のバラバラ死体がアムスの運河で発見された。 オランダと言えば,サッカーの強国です。ワールドカップでは優勝こそしていませんが,2回の準優勝,そして前回はベスト4にまで行っています。クライファートやダービッツを始め,各国のリーグで活躍するスター選手を数多く抱えています。来年のワールドカップでの活躍を期待していたんでが,まさか予選敗退とは。残念でならないのですが,残念と言えばこの作品もそうです。大阪で起こったバラバラ殺人事件に続き,アムステルダムでの同様の事件。そして作中に挿まれる謎の事件。これらはどのように繋がっていくのだろうか,と言う興味が膨らんで行きます。オランダという異国の地の雰囲気もいいですし,ドラッグ体験の描写も真に迫ってきます。そして水島の死の真相に迫る恭司の推理も,的を得ています。しかし私には犯人が誰なのか,犯行の動機が何だったのか,そして何故にあのような結末になってしまったのか判りませんでした。全てが論理的に解き明かされなくてはいけないと言う事はないのでしょうが,それなら最初っからそう言う展開にして欲しいですよね。有栖川さんの作品はあまり読んだ事が無いので正しいかどうか判りませんが,綾辻行人さんで言えば「囁きシリーズ」に当たる様な作品なんでしょうか。
|
「暗鬼」 乃南 アサ 2001.09.21 (1993.12.10 角川書店) |
☆ |
親子4代で総勢9人と言う大家族に嫁いで来た法子。山梨に住む親にも,友人である知美にも反対されたが,法子には夫となる和人も,彼の家族も,魅力的に思えた。結婚して順調に家族に溶け込んでいった法子だったが,初めての里帰りの間にある出来事が起こった。嫁ぎ先の志藤家が貸している土地で起こった無理心中事件。それをきっかけに法子は,志藤家の人達のやさしさに疑問を持つ様になる。 乃南さんの作品では,何と言っても音道刑事のシリーズが好きですね。短編なんかも,女性心理を前面に押し出したインパクトの強い作品が多く,好きな作家の一人です。でもたまに訳の判んない作品が出てくるんですよね。これもそうなんですが,一体何が描きたかったんでしょうか。疑心暗鬼に陥っていく法子の姿はそれなりに伝わってきますが,サイコ.ミステリーとしても中途半端だし,結末にも納得がいかないし。でも2時間ドラマかなんかで見たら,面白いかなあ。法子役は田中美沙子あたりで。あっ,ちょっと年が違うか。
|
「灰色の仮面」 折原 一 2001.09.25 (1990.08.10 講談社) |
☆☆ |
銭湯からの帰り道,フリーライターの山岸陽介は,白いマンションの二階にある一室が気になった。電気が消えているのに窓が開いている。そして女性の苦しそうなあえぎ声。最近白いマンションに住む女性ばかりを狙った連続暴行殺人事件が起こっている。アパートに戻ったものの,どうしても気になって先程のマンションに出掛けてみると,そこには女性の死体。運悪く,そこに同居している女性が帰宅してしまい,山岸は殺人犯に間違われてしまう。警察に言っても信じてもらえないと思う山岸は,自ら真犯人を見つけ出そうと行動を開始した。 何か折原さんの作品にはライターが良く登場しますよね。地の文の他に,日記や手紙や作中の小説やらをふんだんに使用して,読者を煙に巻こうとしているので,しょうがないんでしょう。殺人犯に間違われ,逃げながらも真犯人を追う主人公。これだけだったらサスペンス溢れた展開になるんでしょうが,そこは折原さん。倒錯シリーズ等を読んでいるだけに,どの様な展開もありだよなッ。犯人は長谷川竜一?,牛島健三?,いやいや吉野みどりって事だってあり得るぞッ。そもそも連続暴行殺人事件だって,本当に起こっているかだって怪しいもんだ。何て感じで読んでいたのですが,最後のどんでん返しの連続は楽しめました。でも登場人物の異様な行動は相変わらずで,イマイチ読んでいて引き込まれないですね。
|
「隣人」 重松 清 2001.09.26 (2001.02.02 講談社) |
☆☆ |
@ 「夜明け前,孤独な犬が街を駆ける」 ... 両親から捨てられ地方から上京した新聞配達人が起こした通り魔事件。 この作品は「世紀末の十二の隣人」と言うタイトルで,月間総合誌『現代』に連載されたものだそうです。ここ10年位の間に起こった12の出来事が綴られていきます。ですからノンフィクションではありません。「まえがき」にも書かれておりますが,純粋なルポルタージュでもありません。実際に起こった出来事を様々な観点から作者が述べていきます。当然の事ながら一つの出来事に対する物の見方と言うのは,人それぞれです。特に犯罪などの場合は,本当の事が必ずしも明らかになるとは限りません。実際,友達の娘を殺害した母親や,バスジャックをした少年の心の中は裁判では判りません。自殺してしまった人の本当の心の内は,今となっては誰にも伺うことはできません。それでも作者は寄り道や無駄足をしながら,事実の一端に迫ろうとします。それが本質かどうかは別として,作家の物の見方の多様さこそが,フィクションを作り上げる上での,大きな力になるんだろうなと感じさせられます。
|
「ミレニアム」 永井 するみ 2001.09.27 (1999.03.10 双葉社) |
☆☆ |
エターナル.ソフトハウス社に勤務する真野馨は,上司であり不倫相手でもある久武康介の元で,コンピュータ2000年問題に取り組んでいた。この問題の解決の為,インドで作られたインドラツールの導入を検討していた二人だった。そんなある晩,馨は久武から電話を貰った。話したい事があるから,明日会社に朝早く来て欲しいとの事だった。翌朝,早朝出勤した馨は,社内で久武の死体を見つける事になる。何物かにノートパソコンで殴られて殺されたらしい。 2000年問題ですか。2年前は私もその最中に居たのですが,今となっては遥か昔の事の様に思われます。さて物語りの方は2000年を目前にした,情報処理業界が描かれて行きます。メインの謎は久武の殺人事件なのですが,何か2000年問題に慌てふためく様子ばかりが延々と続き,ちょっとテンポが悪い感じがします。私も情報処理業界に身を置いており,ここらへんの事情には詳しいのですが,それだけにイライラしてきました。でも前に読んだ「樹縛」でも感じましたが,永井さんは良く作品のテーマについて取材していますよね。「オンナ真保裕一」と言ってもいいんじゃないでしょうか。だけどそれが物語の前面に出過ぎてはいけないですよね。一つ言わせて頂ければ,現状ではインドラツールの様な物はあり得ません。コンピュータ.プログラミング何て,物凄く泥臭い作業の連続でしかありません。ちなみに私の感覚からすれば,2000年問題よりも消費税導入の方がよっぽど大変だったように記憶しています。でもこの作品が書かれたのは1999年で,その時に読んでいたら少しは感想が違ったかも知れません。
|
「告発倒産」 高任 和夫 2001.09.28 (2000.10.25 講談社) |
☆☆☆☆ |
倉橋信彦は百貨店「伍代デパート」の総務部長になって1年が過ぎた。ある朝会社に出掛けようとしていたところ,警視庁刑事の訪問を受けた。総会屋との付き合いに関する取調べだった。立場上,総会屋との接触は全く無かった訳ではなかったが,これと言って法に違反する行為をしてきたつもりは無かった。だが利益供与の疑いで,倉橋は逮捕されてしまった。そんな彼に対して,会社は冷たい態度を取り続けた。 倉橋に対する取調べの場面が真に迫ってきます。会社に対する期待が脆くも崩れ去って行く間の,倉橋の気持ちがいいですよねえ。可哀相だけど。それだけに後半の復讐場面に,倉橋が前面に出て来ないのが不思議です。話の筋が単純なだけに,もっと彼の会社への怒りをストレートに出した方が,迫力のある展開になったんではないでしょうか。何かで読んだ話ですが,人が一番幸福感を味わえるのは,復讐する相手を確実に追い込んで行く事を実感する時だそうです。確かにそうかも知れません。でも復讐が成就した倉橋はあまりにも淡々としていて,ちょっとはぐらかされた気がしてしまいました。 |