白神山地(世界遺産): 「ブナ林(Close to U)

 【昨日見たブナについて】 エメラルドグリーン(*注1)を期待してきたが、緑になるのは後10日程先のようである。マテ山付近に着いた時であろうか、向こう側の斜面には、根元が熱を発するかのごときブナの純木の群れが、円盤にのっかった騎士を思わせるように行進していた。また、一本一本の木を注意深く観察してみると、枝の形がさまざまで、面白い物である。枝の最高地点が天に向かってまっすぐに延び、絵はがきのモチーフになりそうな物も有れば、重たかった雪のせいであろうか、地上へ出るなり直角に曲がり、再び天を目指して直角に曲がっているものもあった。この山で最もtypicalなタイプは、左右非対称型で、全体に、黒や緑の苔がへばりついたものであろう。右手を背中へのばし、弓矢を取ろうとしている弾き手の姿を連想させる。さてここで考えた。この軍隊の指揮者は誰だ?

 稜線に出る頃であったろうか。残雪の多いためであろうか、小枝の先だけが地上へ出ているパールホワイト(*注2)の若芽に出会った。不思議に思い立ち止まって周りを見渡すと、樹肌が同じ色をした大木が何本か有った。ここへ来る途中に立ち寄った、八幡平に見られた純白のブナの色とも少し違うように思えた。昨年の暮れ、工藤父母道氏との尾瀬戸倉での散策の中で、「ブナの木はなに色か?」との質問に対して即答できなかった事を思い出した。  パールホワイトの枝の先には、今にもはじけんばかりの真っ赤な成長点が飛び出していた。後一月もすれば始まるであろう、屋久島いなか浜のアカ海ガメの産卵婦の子宮を見る思いがした。このえだのさきから、エメラルドグリーンの歯(葉)が飛び出して空気にふれるのも、後一週間ほどであろうか。 

  (*注1)エメラルドグリーン  :元来この色は海の色を表す色として使われる事はあっても、森を表す色としてはふさわしくないと思っていた。しかし実際にブナ林の風景を色鉛筆なぞで描いてみるとき、この色の例えが良く解る。灰色や黒色、焦げ茶、オリーブグリーン等で樹肌をまず描き始めるだろうか。その次に葉を描き出すわけであるが、Grass Greenや黄緑、Dark Green等で着色し始める。しかし、これだけではもの足りず、葉と空気が解け合ったときの色として、エメラルドグリーンの必要性を感じる。実に美しい色である。

 (*注2)パールホワイト : 真珠のみならず、アワビやホタテに至るまで貝殻の内側にはこの色がこびり着いている。英語では、Avaronというとこの色をさす。これも同じく海の色を表すのが一般的である。

「ブナ」


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