読書の記録(2004年 1月)

「猿島館の殺人」 折原 一  2004.01.05 (1990.06.30 光文社)

☆☆

 東京湾に浮かぶ猿島に旅行誌の取材で訪れた葉山虹子は,最終のフェリーに乗り遅れ島に取り残されてしまった。次のフェリーが着くのは1週間後。電話も無く困ってしまった虹子を迎えてくれたのは,島で世間との交流を絶って暮らす猿谷家の人達だった。しかしその晩,猿谷家当主の藤吉郎が不可解な死を遂げた。折りしも脱獄犯の猿を追って島にやってきた黒星警部とともに虹子は,この事件の謎を追った。

 今年は申年なんで,最初の読書は猿にちなんで「猿島館の殺人」。なんかこのタイトルって綾辻さんの館シリーズっぽいんですが,一体「暗黒館の殺人」は今年出るんでしょうか。さて本作の方は黒星警部と虹子さんのシリーズで,ユーモアに富んだ作品です。推理小説におけるクローズド.サークル作りって結構無理があるケースが多いんですが,フェリーに乗り遅れてっていうのはユニークですね。でももしかしたら,今まで読んだ中で一番ありがちかも知れません。猿島の猿谷家の猿に似た主が殺されて,ダイイング.メッセージが猿で,折りしも猿がこの島に逃げ込んで,と猿尽くしです。そして黒星と虹子のズッコケ振りも相変わらずで緊張感は全く無いものの,結末はなかなかトリッキーです。

 

「銀弾の森 禿鷹V」 逢坂 剛  2004.01.06 (2003.11.30 文藝春秋社)

☆☆

 渋谷のシマを争っていた二組の暴力団,渋六組と敷島組は,南米マフィアのマスダの進出の前に休戦協定を結んでいた。ある晩敷島組幹部の諸橋は,神宮警察署の禿富鷹秋警部補から呼び出しを受けた。そして連れて行かれたのはマスダのアジトだった。諸橋はそこでマスダ側に寝返るよう説得されるが,翌日渋六組の縄張りの店の中で,惨殺死体となって発見された。

 「禿鷹の夜」「無防備都市 禿鷹の夜U」に続く禿鷹シリーズの3作目。相変わらずこの主人公の禿富鷹秋には馴染めません。渋六組や敷島組のヤクザの方がよっぽどまともに思えてしまいます。登場人物に感情移入できないので,サスペンス.シーンも盛り上がらないし,それ程の謎解きがある訳でもありません。じゃあ何を読めばいいのかと言うと,3組のヤクザ同士及びその内部,警察,そして禿富が互いに何を考えてどの様に行動するのか,と言ったところなんでしょうか。でもそれにしても今回は特に,禿富が何を考えてこの様な行動に出たのか判りませんでした。逢坂さんは多彩なシリーズ作をいくつも持っていますが,このシリーズはちょっとどうでしょうか。

 

「希望」 永井 するみ  2004.01.08 (2003.12.15 文藝春秋社)

☆☆☆

 3人の老女が次々と殺害された。それも髪の毛を全て刈られて,手には「よくできました」のスタンプが押されていた。捕まった犯人は,熱田友樹と言う14歳の中学生だった。5年後,19歳になった友樹は少年院を退院する事になった。息子に対してどの様に接していいのか判らない母親の陽子は,知り合いの雑誌記者の紹介で心理カウンセラーの成田環のもとを訪れる。そして友樹は母と妹が暮らす家庭に戻ってきたが,陽子が求める平穏な生活は叶わなかった。

 少年犯罪が報じられる度に嫌な感じがしてしまいます。それはこれだけ少年犯罪が問題にされているのに,一向に有効な対策が取られないからでしょう。彼等の犯罪に対して警察も裁判所も,学校も社会も,そして法律も政治も,何もできないんでしょうか。まずは少年犯罪を防ぐ事が第一義だとは思いますが,少年法の改正問題だけでも何とかならないんでしょうか。よく言われる事ですが,終戦直後の混乱期に作られた少年法は,どう考えたって現代に合っているとは思えません。罰則の強化が犯罪の抑止に即応しないとしても,少なくとも犯罪の詳細は明らかにして欲しいですよね。少年犯罪に限った事ではありませんが,あまりにも被害者側をないがしろにし過ぎています。本作は少年犯罪を題材に,犯行を犯した少年の家族,そして被害者となった家族が登場してきます。でもこの少年犯罪と言う難しい問題に対し,何らかの解答や指針が示されているかと言うと,ちょっと不満が残ります。もちろんエンターテイメントとしてはこれでいいのかも知れません。加害者側と被害者側の気持ち,カウンセリングのあり方,マスコミの報道姿勢,そしてインターネットによる無責任な情報等など,盛り沢山です。この為ポイントがぼやけて冗長になってしまっている気がしました。同じ傾向の作品では,東野圭吾さんの「手紙」や真保裕一さんの「繋がれた明日」の方が読み応えありました。

 

「燃える氷」 高任 和夫  2004.01.12 (2003.05.30 祥伝社)

☆☆☆

 出版社で雑誌編集の仕事をしている上杉俊介は,新たに発刊される月刊誌「ガイア」の担当に移った。地球環境をテーマに取材するうちに,海底深く眠るエネルギー資源「メタンハイドレート」の採掘に日本政府が本格的に取り組んでいる事を知る。一方俊介の友人で商社に勤務している葛西雄造は,ナイジェリアでの仕事が失敗に終り,その挽回をしようとメタンハイドレートの商業化に取り組んでいた。

 テーマとしてはとても興味深く面白いものなんですが,その素材の良さが活かされていないのが残念です。海底深く眠る新たなエネルギー「メタンハイドレート」。日本周辺だけでも天然ガス100年分以上眠っていると言う。この採掘に向けて政府,産業界,学界が一体となって取り組む様子,そして自然環境への悪影響を心配する学者,雑誌編集者,商社マン。中盤までの彼等の動きはとても納得できるし,技術的な面も判り易く書かれていて緊迫感を持って読めます。でも後半はあまりにも安易な展開で興味が一気に削がれてしまいました。二人の主人公も千賀子と加奈子のヒロインも魅力ある人物だっただけに,もう少し何とかならなかったんでしょうか。それにしても「メタンハイドレート」って初めて聞いた言葉だったんですが,実際はどうなんでしょうね。ちょっと調べてみたのですが,「メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム」のサイトに詳しく載っていました。興味がある方はご覧になってはいかがでしょうか。でもこの作品を読んだ後だと,ちょっと疑心暗鬼になってしまうかも知れません。

 

「斜め屋敷の犯罪」 島田 荘司  2004.01.14 (1988.06.28 講談社)

☆☆

 北海道の最北端にある宗谷岬の高台に建てられた,斜めに傾いて建つ洋館。「流氷館」と名づけられたこの奇妙な建物の持ち主は,ハマーディーゼル会長の浜本幸三郎。彼はクリスマスの日に友人知人を集めて,この屋敷でパーティーを開いた。その晩,奇妙な密室殺人事件が起こった。警察の捜査が進まない中,次の晩にまた一人が殺された。

 富豪が奇怪な建物を建てて,富豪に呼ばれた人がそこで殺されたら,犯人はまずその富豪のはずですよね。当然建物自体に殺人の為の仕掛けがあって,と思って読み始めたのですが,ちょっとこの結末はどうなんでしょうか。「占星術殺人事件」に続く御手洗潔シリーズの2作目だそうですが,探偵役の御手洗が登場するのは,後半1/3くらいになって。斜めに傾いた屋敷の中で起こった不可思議な殺人事件に,手を焼いた警察に呼ばれて出てきます。本格推理の作品にリアリティを求めるのは意味の無い事でしょうが,こんな事あり得ないよね。だいいち宗谷で起こった事件を調べているのが札幌の刑事って何なんだ。だいいち,登場した途端に事件の全貌をつかんでしまっているわけでしょう。いつも思う事なんですけど,彼の推理の過程が全く判らないんで,結末が判っても,「何じゃい,そりゃ。」って気になってしまうだけ。相変わらず鼻に付いてしまうキャラクターにも辟易。「異邦の騎士」を読んでみて,もうちょっと読んで見るかと思ったのですが,当分このシリーズは読みたくないなあ。犯人の動機には納得いくのですが,この現実味の無い殺害方法を考えると,「読者への挑戦」なんて何で入れるのでしょうか。

 

「栄光一途」 雫井 脩介  2004.01.15 (2000.01.20 新潮社)

☆☆☆☆

 日本女子柔道チームのコーチを務める望月篠子は,強化部長の野口から呼び出しを受けた。男子81kg級エースの二人にドーピングの疑惑があると言う。誰がドーピングをしているのか,選手に知られない様に調査をしろと言う。調査の相手は吉住新二と杉園信司,オリンピック代表を争う二人だった。篠子は同じ大学に勤める佐々木深紅と堀内絵津子,そして教え子でオリンピック代表を目指している角田志織とともに,彼等の身辺を調べ始める。

 雫井脩介さんのデビュー作で,第4回新潮ミステリー倶楽部賞の受賞作です。オリンピック出場の選考に関してはマラソンが良く話題に上がりますが,他の競技もいろいろあるんでしょうね。さてそんな選考会を間近に控えた時期に送られてきた,薬物疑惑の告発文書。真相を調べる事になったのが,柔道チームのそれも女子のコーチと言うのがいい。でもちょっと主人公の篠子の影が薄いのが気になります。不完全燃焼に終えた自分の現役時代や,ドーピングに対する考え方など,もう少し掘り下げた方が良かった気がします。どうもあれほど一途に真相に迫る動機が窺えませんでした。深紅のキャラの方が良かった事もあるかも知れません。でも途中に挟まる「シンジ」が起こす通り魔事件の方はどうなんでしょうか。ドーピング疑惑の追及だけでも,かなりスリリングな話になると思うのですが,あそこまでのどんでん返しは必要だったんでしょうか。私は柔道の試合をほとんど見た事はありませんが,試合の描写は真に迫ってきました。少しは柔道の技を知っていた方がもっと楽しめたと思います。

 

「沈黙の橋(サイレント.ブリッジ)」 東 直己  2004.01.16 (1994.04.25 幻冬舎)

☆☆

 南と北に分断された日本。南日本で諜報工作員をしている岡田隆は,札幌への出張を命ぜられた。北日本側に先日捕まった,クレヨンと呼ばれる工作員一家の救出と,南日本に亡命しようとしている北日本の次官,平良のサポートが目的だった。岡田は空路,東西に分断された札幌に入った。

 第二次世界大戦で日本が無条件降伏した結果,南日本である日本共和国と,北日本である日本民主主義共和国に分断された,との想定で書かれた作品です。思えばドイツの様に日本もこの様な事態にならなかったのは幸福でした。さて現実とは全く異なる設定の日本で繰り広げられるスパイ小説なのですが,どうも非現実感が先にきてしまい馴染めませんでした。東さんと言うと札幌を舞台にした,軽いノリのハードボイルド作品は好きですが,こう言う作品はちょっとパス。

 

「烈火の月」 野沢 尚  2004.01.20 (2004.01.12 小学館)

☆☆☆☆

 東京湾アクアラインが開通した事によって,人口が増加しそれとともに犯罪も増え続ける,千葉県湾岸の愛高市。「微笑んだ次の瞬間,凶暴になれる」と恐れられる,42歳の我妻諒介は愛高警察の刑事だった。署でもかなりの問題刑事で,つい最近もホームレスを襲う少年達を,囮捜査の末大怪我をさせて逮捕したばかりだった。そんな中,死体で発見された麻薬密売人の捜査に,我妻は女マトリ(麻薬取締役官)の烏丸瑛子とコンビを組む事になった。

 北野武さんが監督,主演した映画「その男,凶暴につき」の脚本を,大幅に改訂して小説化した作品だそうです。とんでもない刑事を描いた作品と言うと,逢坂剛さんの禿鷹シリーズを思い出してしまいます。でもあそこまで行くとあまりにも現実味が無さ過ぎなのですが,こちらの我妻諒介はちょっと違います。組織を嫌い,組織から疎まれる一匹狼の刑事。何となく刑事ドラマにありがちな設定ですが,正義と言うよりは,腐りきった組織に対する怒りが前面に押し出されていて迫力があります。映画の方は見ていないのですが,ちょっとビートたけしのイメージとは違う感じです。どちらかと言うと松田優作さんでしょうか。我妻には別れた妻と自閉症の娘がいるのですが,彼女らに対するぎこちない優しさがいいです。特に最後の糸の切れたケンダマのシーンは秀逸。でも敵役の清弘にまで悲惨な過去を描くのは余計な気がしました。ちなみに映画の方には,烏丸瑛子はでてこないそうです。

 

「死体を買う男」 歌野 晶午  2004.01.21 (1991.05.30 光文社)

☆☆☆☆

 自殺をしようとした小説家を助けた一人の青年。しかしその青年は自殺をしてしまった。小説誌に連載が開始されたこの「白骨鬼」と題された作品を読んで,ベテラン推理小説家の細見辰時は驚いた。内容からも作風からも,この作品は江戸川乱歩の未発表作品ではないのかと思った。早速知り合いでもある出版社社長から事情を聞いた細身だったが,西崎和哉と言う新人作家が書いた作品だと判った。自分のファンだと言う西崎に,細見は会うことになった。

 作中作を使った作品って,かなりトリッキーな作品が多いですね。この作品もそうで,この結末には驚かされました。西崎和哉が書いたと言う「白骨鬼」と言う作品自体,彼の祖父の遺品の中から見つけた原稿を基にして書かれた物。それも主人公で探偵役は江戸川乱歩と彼の友人で詩人の萩原朔太郎で,さも乱歩が書いた様に書かれている。昭和初期を舞台に書かれた謎の事件。双子の兄は何故自殺をしたのか,本当に自殺だったんだろうか,一体死んだのは誰だったのか,と推理は続いて行きます。それとともに「白骨鬼」の執筆者である西崎に対して,細見は意外な行動を取っていきます。昭和初期と現在,この二つが綺麗に繋がっていく様は見事です。最後まで読んで,思わず最初のページ目を読み直してしまいました。ところで私は江戸川乱歩の作品を読んだ事がありませんので判らないのですが,この「白骨鬼」の様な感じで書かれているんでしょうか。ちょっと軽い感じがしてしまったのですが,わざと似せて書いているんでしたら作者のせいではないですね。

 

「影踏み」 横山 秀夫  2004.01.23 (2003.11.20 祥伝社) お勧め

☆☆☆☆☆

@ 「消息」 ... 窃盗罪での服役を終えた真壁修一は警察を訪れ,自分が捕まった家の事を,かつての同級生の刑事に訪ねた。
A 「刻印」 ... 同級生だった刑事が泥酔して川に落ちて亡くなった。事故か事件かわからず,真壁にも疑いの目が向けられた。
B 「抱擁」 ... 久子が勤める保育園で起こった盗難事件。彼女の友人から,久子が疑われている事を聞かされた。
C 「業火」 ... 泥棒仲間から聞いた泥棒に対する襲撃事件。真壁も襲われたが,相手は盗まれた何かを探しているらしい。
D 「使徒」 ... 服役中に知り合った仲間から依頼されたのは,ある娘へクリスマス.プレゼントを渡す事だった。
E 「遺言」 ... ヤクザの襲撃で亡くなった仲間の遺言を知った。金の始末と,自分を捨てた父親への伝言だった。
F 「行方」 ... 久子が突然訪ねてきた。見合いをした相手の双子の兄から,付きまとわれていると言う。

 先日,今年度下期の直木賞が発表になりましたが,当然の事ながら横山さんの名前はありませんでした。「半落ち」落選の際の審査員との見解の相違がもとで,横山さんが直木賞との決別を宣言してしまったんです。今最も活躍されている作家の一人なので,これは残念ですね。ちなみに私はあのラストに関して何ら違和感を感じませんでした。ネタバレになってしまうので詳しく書けませんが,欠点とされる現実性の点も,この小説の中でそれほど問題になるとは思えません。もっとも落選の理由はそれだけでは無かったのでしょうが,リアリティあふれる作品を書いている横山さんだけに,その点が目立ってしまったのかも知れません。

 そこで本作ですが,そのリアリティからかなり逸脱した設定になっています。主人公の真壁修一は司法試験を目指していた優秀な学生。しかし母が自宅に放火して父と弟を巻き添えにしてしまった事から運命が狂ってしまいます。今は深夜に住宅に忍び込む「ノビ」と呼ばれる泥棒になり,亡くなった弟とともに生きています。修一の中で生きている双子の弟の啓二との会話。この設定が奇異に写らないのは,人情話に徹したストーリー作りの妙でしょうか。そして修一と啓二と言う双子の兄弟の,人物描写の上手さなんでしょうか。双子の兄弟だから当然同い年のはずですが,修一は34歳で啓二は死んだ時の19歳のままというのも面白い。イチオシは「使徒」。泥棒が主人公の人情話と言うと浅田次郎さんの「天切り松闇語り」のシリーズを思い出します。ノスタルジーあふれる天切り松の語り口と違って,ちょっとサスペンスタッチなんですが,一つ一つの物語の中に仕掛けられた謎解きも充実しています。サイドストーリーとして描かれる久子との物語は,修一のストイックさにじれったさを感じました。でもラストがちょっとぼかされた感じだったので,続編が出されるのでしょうか。「クライマーズ.ハイ」もそうですが,出発点だった警察小説から,どんどん幅を広げているのが感じられ,ますます次の作品が楽しみです。横山さんは直木賞を貰えませんが,代わりに私が☆五つをあげましょう。って何の役にもなりませんが。

 

「新宿少年探偵団」 太田 忠司  2004.01.26 (1995.04.05 講談社)

☆☆

 新宿で犬に噛み殺された首無し死体が発見されると言う事件が頻発していた。そんな中,ふとした事から新宿に出掛けた4人の中学生,羽柴壮助,神崎謙太郎,七月響子,夢野美香は,髑髏王とθ(シータ)と呼ばれる機械獣に襲われた。その危機を救ったのは謎の外人。4人は彼に導かれる様に蘇芳と名乗る少年に出会う。そして蘇芳からマッドサイエンティストの存在を知らされ,髑髏王との対決を決意する。

 太田さんのこのシリーズを読むのは初めて。「少年探偵団」と言えば江戸川乱歩の作品ですが,出版されたのが昭和11年なので,もう70年近く前の事なんですね。私は読んだ事ありませんが,テレビで放映された,「♪ぼっ,ぼっ,ぼくらは少年探偵団」の方は,かろうじて見た事を覚えています。この「少年探偵団」の現代版なんでしょうね。怪人二十面相にあたるのが芦屋能満の弟子達で,明智小五郎にあたるのが蘇芳と言った役どころなんでしょうか。シリーズ作の第一作目なんで,かなりの部分を全体の説明に費やされている感じがします。4人の中学生の性格や,彼らが手にする武器何かも,当然の事ながら現代的にアレンジされて,その点には納得がいきます。でも敵役となる髑髏王達の設定はどうなんでしょう。ファンタジー作品としてはいいかもしれませんが,探偵と言うにはちょっと無理があるかな。いっその事,ドラクエばりにRPGっぽくしちゃった方が良くないでしょうか。さしずめ壮助が勇者,謙太郎が僧侶,響子が戦士,美香が魔法使いと言ったところでしょうか。当然,美香は白魔術と黒魔術の両方が使えると言う事で。

 

「事件現場に行こう」 アンソロジー  2004.01.27 (2001.11.25 光文社)

☆☆

@ 「裏窓」 阿刀田高 ... 交番にはいった老婆からの電話は,隣の家の主婦が豚を飼い始めて困っているとの苦情だった。
A 「崩壊の前日」 綾辻行人 ... 4月には珍しい大雪の降った日,彼は彼女と待ち合わせた大学に向かっていた。
B 「かるかや」 北村薫 ... 対談がきっかけで思い出したあの頃。本の表紙に描かれた浮世絵を見てドキドキした事。
C 「彼らの静かな日常」 小池真理子 ... 自殺した不倫相手と過ごした最後の一夜。二人ですき焼きを食べた思い出を偲んで。
D 「青き旗の元にて」 五条瑛 ... 祖国のために働いてきたはずなのに,信じていた男からは裏切られ,頼れるのはかつての恋人だけ。
E 「情報漏洩」 佐野洋 ... 退職した警察署長のもとを訪れた女性新聞記者。犯人を捕まえられなかった事件に新たな展開が。
F 「冬枯れの木」 永井するみ ... 日本語を教えているパキスタン人のもとにやってきた警察官。彼に放火の疑いが掛かっていると言う。
G 「あのひとの髪」 夏樹静子 ... 急死した夫のお通夜にやってきた一人の女性。DNA鑑定のため夫の毛髪が欲しいと言う。
H 「種を蒔く女」 新津きよみ ... 小学生から貰ったヒマワリの種だけを入れた手紙。この手紙がもたらす不幸を想像する女。
I 「素人芸」 法月綸太郎 ... 口論の末に妻を殺してしまった男。隣に住んでいる女に妻の悲鳴を聞かれてしまった。
J 「インベーダー」 馳星周 ... 久し振りに故郷に戻ってきた落ち目の演歌歌手。父は毎晩彼と遊び歩く様になってしまった。
K 「サクラ」 福井晴敏 ... スパイ疑惑が持たれる自衛隊員が相手と接触。彼の行動を追う二人は後を追った。
L 「いしまくら」 宮部みゆき ... 公園で殺された少女。その彼女の名誉を守ろうとする娘に協力する編集者の父親。
M 「翡翠」 山崎洋子 ... そのレスビアン.バーには数々の安物の翡翠を身にまとった常連客の女が居た。
N 「鉄格子の女」 若竹七海 ... 三浦半島にある画家の別荘。鉄格子の向こうにいる女を描いた作品は,ここで創られた。

 「最新ベスト・ミステリー カレイドスコープ編」と副題の付けられた15人のミステリー作家によるアンドロジー。カレードスコープと言うのは万華鏡の事ですが,ちょっと見る角度を変える事によって様々に模様が変化するように,人物や事件の背景が鮮やかに一変するような作品と言う意味なんでしょう。確かにこう言うのはミステリーの醍醐味ではあります。読んでいて,頭の中に築かれた構図がガラッと崩れたり,人物のイメージがコロッと変わってしまったり。だけどここに登場する15の作品に,そんな驚きやどんでん返しがある様には思えませんでした。それにタイトルにあるような「事件現場」がキーになっている作品も無いし,何かタイトルがおかしくないでしょうか。ちなみに15人の中で初めて読む作者が3人,今までに読んだ事のある作品が2作ありました。

 

「誰か Somebody」 宮部 みゆき  2004.01.29 (2003.11.25 実業之日本社)

☆☆☆

 大財閥「今多コンツェルン」会長の個人運転手をしている梶田が,自転車に轢き逃げされて亡くなった。広報室で働く杉村三郎は義父である今多会長から,ある頼み事をされた。梶田の娘姉妹が父親を轢き殺した犯人を捕まえるために,父の自伝を出版したがっていると言う。彼女らの相談に乗って欲しいとの事だった。三郎は早速その姉妹に会ってみたが,妹の梨子は出版に意気込んでいるのだが,結婚を間近に控えた姉の聡美は出版に反対していた。

 亡くなった父親の過去には何があったのか,子供の頃に経験した誘拐事件の真相は何だったのか。あの名作「火車」にも通じる話の展開なのですが,どうも緊迫感に欠けています。探偵役になっている杉村がノホホンとし過ぎているからでしょうか,登場人物の誰もが切迫した状況に無いからでしょうか。それと被害者の家族である聡美と梨子の姉妹にも感情移入できないですし。それにしても宮部さんて,彼女らの様な女性に対する描写は厳しいですね。それにしても自転車による事故って怖い。この前テレビで見ましたが,最近の自転車は走る性能も高くて,ぶつかった時の衝撃はかなりの高さです。我が物顔に歩道を走る自転車を苦々しく思う事も多いです。マナーの問題に関しては,「民度が下がっておるのだ。」と言う今多会長の言葉じゃないけど,自転車だけの話ではないですよね。いっその事,自転車事故の犯人の方をメインにした方が面白い話になった様な気がしました。